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実数の間にある有理数

今日は実数の間にある有理数の存在の証明について紹介しよう.

といってもそんなに仰々しい話ではないが….例えば,$${1}$$と$${2}$$の間にある有理数は,$${\frac{3}{2}}$$とすぐにわかるが,$${\sqrt{2}}$$と$${\sqrt{3}}$$の間にある有理数は何かと聞かれて,即答しづらい.

証明の準備

次の2つの事実は認めることにする.$${\mathbb{N}}$$を自然数全体の集合とする.

1つ目は,Archimedesの原理と呼ばれるもので,任意の$${a, b > 0}$$に対し,ある$${n\in \mathbb{N}}$$が存在して,$${na > b}$$となる,というものである.

2つ目は,空でない任意の$${A\subset \mathbb{N}}$$に対し,$${\min{A}}$$が存在する,というものである.ここでは,自然数部分集合の最小元の存在とでも呼んでおこう.

証明

以下の証明は,どれも「杉浦光夫著『解析入門I』東京大学出版会」のp.29に従った.

準備

次のことを示す:
任意の実数$${a}$$に対し,ある$${n\in \mathbb{Z}}$$が唯一つ存在して,$${n\leqq a < n+1}$$となる.

当たり前のような気がするが,これは2つの事実から示されることである.

はじめに,次のことを示そう:任意の$${r\in \R}$$に対し,ある$${m\in \mathbb{N}}$$が存在して,$${m>r}$$となる.

場合分けする.
$${r\leqq 0}$$である場合,$${m=1}$$とすればよい.
$${r>0}$$である場合,$${1}$$と$${r}$$とに対しArchimedesの原理を用いれば,$${m>r}$$となる自然数$${m}$$が存在する.

$${-a}$$に対し,上の事実を用いれば,$${m>-a}$$を満たす$${m\in \mathbb{N}}$$が取れる.$${m+a>0}$$となる.
$${m+a+1}$$に対し,再び上の事実を用いれば,$${m+a+1 < n}$$を満たす$${n\in \mathbb{N}}$$が取れる.故に,

$$
A:=\{n\in \mathbb{N} : m+a+1 < n\}
$$

と定めると,$${A\neq \emptyset}$$となる.故に,自然数部分集合の最小限の存在より,$${\min{A}}$$という自然数が存在する.すると,$${1< m+a+1<\min{A}}$$となり,$${\min{A}\geqq 2}$$となる.一方,$${m+a+1< \min{A}-1}$$を仮定すると,$${1\leqq \min{A}-1\in \mathbb{N}}$$となるので,$${\min{A}-1\in A}$$となり,これは$${\min{A}}$$の最小性に反する.故に,$${\min{A}-1\leqq m+a+1< \min{A}}$$となる.全体から$${m+1}$$を引けば,

$$
\min{A}-2-m \leqq a < \min{A}-m-1 = (\min{A}-2-m)+1
$$

となる.$${n:=\min{A}-2-m}$$とすればよく,これで存在性が示された.

一意性を示そう.$${p<n}$$となる任意の整数$${p}$$に対し,$${p < p+1\leqq n\leqq a < n+1}$$となるので,$${a}$$を挟まない.
同様に,$${n< q}$$となる任意の整数$${q}$$に対し,$${n\leqq a < n+1\leqq q < q+1}$$となるので,$${a}$$を挟まない.いずれにせよ,$${n}$$以外の整数は不適である.

証明

今の事実を用いていよいよ示そう:
$${a, b\in \R}$$で$${a<b}$$を満たすもの対し,ある有理数$${q\in \mathbb{Q}}$$が存在して,$${a < q < b}$$となる.

$${b-a > 0}$$と$${1}$$とに対し,Archimedesの原理より,ある$${m\in \mathbb{N}}$$が存在して,$${m(b-a) > 1}$$となる.

$${ma+1}$$に対し,準備したことから,ある$${n\in \mathbb{Z}}$$が唯一つ存在して,$${n\leqq ma+1 < n+1}$$となる.変形して,$${n-1\leqq ma < n}$$も成り立つ.$${m}$$の取り方から,$${ma+1 < mb}$$となることに注意して,

$$
ma < n\leqq ma+1 < mb
$$

が成り立つ.$${m}$$は自然数であるから,両辺を$${m}$$で割ると,

$$
a < \frac{n}{m} < b
$$

となる.故に,$${q=\frac{n}{m}}$$とすればよい.

終わりに

難しい言葉でいえば,この事実を有理数の稠密性という.

この事実,例えば,$${\R^{n}}$$が第二可算公理を満たすことを示すときに,さらっと用いられたりするなど,よく使うことではあるが,きちっと示すとなると,面倒くさくて行われないことが多い.

異なる2つの実数の間に有理数があることを証明に使うときには,こういうことがあったなということをぜひ思い出してあげてほしい.

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