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おっちゃん!LNGってなんぼで買えるん?

昨年のウクライナ危機以降、テレビなどで「LNG価格高騰!世界で争奪戦が始まった!」といったセンセーショナルな見出しの報道をご覧になった方も多いかと思います。

なんとなく、「ロシアがガスを供給しないから価格は高くなるんだろうな~」とか、「価格が高くなったら電気代も高くなるよな~」とか、感覚的には分かると思います。

ただこのLNG価格という題材は、論点が多すぎるのとなかなか正確に理解するのが難しいので、1度に解説するのではなくテーマごとに深掘りしていきたいと思います。
取りあえず基礎編としてLNG価格の簡単な紹介をして、応用編で価格の決定メカニズムなどの深い話が出来ればと思います。

それでは今日もよろしくお願いします(^▽^)/

物理が苦手な人でも公式だけは覚えておいて!

度量衡どりょうこうという言葉をご存知でしょうか。
度(長さ)、量(体積)、衡(重さ)は古今東西統一が難しく混乱の元でしたが、LNGの業界でも他人事ではありません。
よく、日本のLNG総輸入量は7,000万トンという重さで示されますが、LNGタンクの大きさは18万㎥と体積で表されます。
さらにLNGは気体を圧縮して液体にしたものなので気体ガスの㎥なのか、液体ガスの㎥なのか区別する必要があります。

これだけでも十分ややこしいのですが、極め付けはLNGやガスには熱量という概念があることです。(物理が苦手な人ももう少しだけついて来て下さい。私も苦手ですので(笑))

LNGは元々ガスです。ガスやLNGをもらうだけで嬉しいと感じる奇特な人は少ないはずです(笑)。
ガスはガスコンロで料理をしたり、お湯を沸かしたり、さらには火力発電で電気を作ったり・・・つまり熱に変換できるから価値があるのであって、LNGの価値はどのくらいの熱量を持っているかで決まる、ということです。

ここで、LNGの価値を熱量ベースで計るときの共通単位にBtuというものがあります。
これBritish Thermal Unitの略で、英国熱量単位と言われます。
Wikipediaには「1ポンドの水の温度を華氏度で1度上げるために必要な熱量」と書いてありますが、それを理解する必要はありません(笑)
LNGの世界ではこれを百万単位(Million=MMと表します)にして、「百万英国熱量単位(MMBtu)あたりxxドル」という形で取引していることがポイントです。

あとは以下の公式だけ覚えておいてください。
船1隻(カーゴと言います)に積むLNGは約70,000トン(質量)≒160,000㎥(液体の体積)≒3,600,000MMBtu(熱量)≒ガスで1億㎥(気体の体積)

実際は産地や船の大きさで若干異なるのですが、ざっくりこんなイメージで覚えて頂ければ結構です。

輸入量は同じなのに輸入額は2倍!

日本のLNGの総輸入量は約7,000万トン(LNG船1,000カーゴ相当です)と申し上げていますが、これ輸入額にするとどのくらいか分かりますか?
財務省が通関統計というデータを公表しており、それによると2021年はLNG輸入数量7,400万トン、22年は7,200万トンでした(いずれも1~12月ベース)。
一方輸入金額は、21年が4兆2,772億円であるのに対して、22年は8兆4,642億円と約2倍になっています。
22年は為替が円安に振れたことも影響していますが、やはりロシアのウクライナ侵攻によるLNG価格の高騰ということが影響しているのが分かるかと思います。

輸入量は微減にもかかわらず輸入額がほぼ2倍になっている
(出所:財務省通関統計より筆者作成)

ちなみに、この2年間の平均輸入価格を先ほどのMMBtuあたりで表すと、

  • 2021年=10.3ドル/MMBtu

  • 2022年=18.5ドル/MMBtu

となっており、為替の影響を除いても輸入価格が高くなったことが分かるかと思います。

ニュースの「数倍に高騰」は誇張表現?

「いやいや、ちょっと待ってくれ。去年のニュースじゃ、そんなもんじゃなかったぞ。なんかものすごく暴騰したグラフを見た記憶があるぞ?」
という指摘をされた方は鋭いです(笑)
恐らくこんな表がテレビで報道されていたのではないでしょうか。

出所:日本輸入価格は新電力ネット、アジア着スポット価格はPlattsより筆者作成
※アジア着スポット価格の月次平均はPlatts社の算定方法とは異なる

確かにこれを見ると、オレンジ色の線がバブルの時の株価みたいに大きく高騰していて、過去の価格の10倍以上跳ね上がった時期もあります。
一方、青色の線を見て頂きたいのですが、こちらはオレンジ色の線に比べて確かに上昇はしているものの、その角度は割合緩やかです。
先ほど私が説明した平均輸入価格は、この青色の線のことを指していたのです。

このオレンジ色の線は、スポット取引での取引価格を示したものになっています。スポット取引とは基本的に1回限りの取引のことで、これ以外に複数年にわたりLNGを引き取る取引としてターム契約での取引価格があります。
すごく簡単に言うと、スポットは短期での取引、タームは長期での取引と考えてください。

何事にも動じない(ボラが少ない)価格ってステキ!

では、青色の線で示されている日本輸入価格、これはオレンジ色の線より値動きが緩やかなように見えますが、これはどのようにして決まるでしょうか?
先ほども説明した通り、LNGの取引には大別してターム(長期)契約とスポット(短期)契約があると申し上げましたが、スポット契約よりターム契約の方が価格の振れ幅(ボラティリティ)が少ないと言われています。

日本は伝統的にスポット契約の割合が低いと言われており、全契約の13%程度(2019年時点)となっています。(ちなみに世界平均では同19年で34%。いずれも出所はJOGMEC)

これが理由になって、日本向け輸入価格の平均値はスポット価格より価格変動が緩やか(ボラティリティが小さい)なのです。
ちなみに震災後、原発停止を受けて日本もスポットLNGの調達を増やした時期がありました(全契約の30%程度)が、2011年頃の値動きを見るとスポット契約の上昇に比例して日本向け輸入価格も上昇しているのが分かるかと思います。

長期お得意様割引ではありません!

さて、ここまでお話しすると、
「なんで日本向け輸入価格はボラティリティが小さいの?日本は長期にわたってLNGを買ってるお得意様だから、スポット価格が暴騰しても安く供給してくれてるのかな?」
と思う方がいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、長期で引き取っているから必ず安くなるというわけでもないのです。
先ほどのグラフでも、2019年~2020年にかけてターム契約価格>スポット契約価格だった時代がおよそ2年にわたって続いていたことが読み取れると思います。
ここは極めて重要な箇所なので、少し丁寧に説明しておきます。

【前提①】蒸発するLNG

その点について解説する前に、LNGの性質についてもう一度おさらいしておきます。
LNGは気体のガスをマイナス162℃まで冷却して液化したもので、元々の性状は気体です。LNGは産地で天然ガスを液化してLNGタンカーで輸送するのが一般的ですが、元々が気体であるため、輸送中に外部からの熱によって一部が蒸発してしまうのです(これをBoil off Gasといいます)。
つまり、LNGは長期の保存には適さない製品なのです。

【前提②】冬が寒けりゃLNG屋が儲かる?

さらに、LNGの日本における主な用途は、電力会社が発電に使う場合が約6割、都市ガス会社が家庭用・業務用に供給する場合が約3割と、両方合わせて全体の9割を占めます。

(出所:資源エネルギー庁「エネルギー白書2022」より筆者作成)

さて、電気とガスが一番多く使われる季節はいつでしょうか。
もちろん夏の暑い時期も冷房需要がありますが、都市ガスによる暖房需要も含めれば圧倒的に冬場の需要が多くなります。
そして、先ほど説明したようにLNGは長期保管が出来ません。つまり、冬場の需要期に備えて蓄えておくことが出来ないのです。

従って必然的に冬場は需要量>供給量となり、冬の方が価格が高くなる傾向にあるです。
下のグラフは2010年~2020年までのアジア着スポット価格を月別に並べ、最大値と最小値の幅と平均値を示したものですが、このグラフからもその傾向が読み取れるかと思います。

例年11月~2月にかけて価格は高くなる傾向にある
出所:Plattsより筆者作成

【結論】で、結局なんで日本のLNG価格は安定してるのさ?

「LNG価格が冬場に高くなる傾向にあるのはわかった。でもそれってターム契約だろうとスポット契約だろうと変わらないじゃん」
というツッコミをしたくなる人もいるでしょう。

実はターム契約とスポット契約とでは、価格の構成要素が大きく違っているのです。
スポット契約の価格は、先ほど説明したように季節間の需要格差や、ロシアからの供給途絶などの供給不安要因によって決まるのに対し、ターム契約の価格は、そのほとんどがLNGの需給に関係のない原油価格に連動しており、しかも原油価格の変動幅はスポット価格よりも大きくないのです。

  • スポット契約価格:需要と供給で価格が決まる。夏冬の需給格差や戦争による供給源などにより価格が大きく変動する

  • ターム契約価格:(ほとんどが)原油の価格に連動して決まる。原油価格の変動幅はLNG価格の変動幅に対して大きくないため、価格は大きくぶれない。

「原油価格だって変動してるじゃん!」「そもそもなんで原油価格連動なの?」「原油価格に連動してない契約もあるのでは?」
など、疑問がたくさん湧いてくることが想定されますが、それらをすべて解説すると、とても1回では紙面が足りません(私の体力も足りません(笑))ので、基礎編では一旦ここまでにしておきたいと思います。

  • LNGの価格は「MMBtuあたり何ドル」という表示が一般的

  • 昨年の価格高騰は主にスポット契約によるもの

  • スポット契約価格は需給で決まるが、ターム契約価格は原油価格で決まるため、日本のようにターム契約の比率が高いと、スポット契約価格高騰の影響が一定程度抑えられる

基礎編ではとりあえずこの3点だけ押さえておいていただければと思います。
応用編ではこれをさらに深掘りしていきたいと思いますので、興味のある人は、応援よろしくお願いします(⌒∇⌒)

最後までお読みいただきありがとうございました。是非コメントや感想をお聞かせ下さい。

※ 本記事の内容は筆者の所属する組織の見解ではなく、分かりやすさ優先の為、必ずしも正確な表現となっていない場合があります。また本記事は特定企業の投資を推奨するものではありません。

※ 参考資料

天然ガス・LNG最新動向 ―LNG価格システムの課題、油価上昇がもたらした一物二価―

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