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ヒッピー、濁酒、グラスホッパー

猿、猪、蝮、狐と共存する場所に半年ほど生活していた。
犬や猫は数匹はいたが、雉はいなかった。
柿もなかった。
蟹はいたかもしれないが探したことはない。

河原ではヌートリアもいた。
壁と屋根はあった。
白い蛇もいた。
夕焼けの中の焚火が郷愁を掻き立てられた。
焚火の郷愁。
美しい。

毎日、濁酒、庭先野菜を肴に酒宴三昧。
農作業の傍ら、家事をし、買い物にも行く。
縫物もし、機織りもする。
深夜は見ないでね。
ジャンベ、篠笛、鈴虫のオーガニックサウンドがBGM。

たぶん幸せな日だった。

そんな日は永続しない。
でもそのときはそんな日が永続するかもしれない、なんて、妄想していた。

そんな場に賓客ゲスト、自称ヒッピー現る。
ギター片手に歌うは、Bob Marley。
“No woman  No cry”
Japanese Americanの彼は奇妙な広島ことばを話す。
俗世間しか知らない者にとって、世間と隔絶したヒッピーの存在はとてつもなく新鮮。わずかではあるが存在している真正ヒッピー。グラスホッパー。
バッタのように飛び跳ねつつ、定住しない。
話はくだらない。話題なんてない。
でもあの奇妙なイントネーションのたどたどしい日本語のみ、とてつもなく印象に残っている。
わしゃ、日本語下手なんじゃ。
このことばのみ、印象に残っている。
いつの日かそのヒッピーは旅立った。
今は生きているのかどうかも知らない。

他愛のない日が幸せだったのかと思う。





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