南京虫的相対速度、時速4キロの旅

男の子の年齢は5,6歳だろう。
名前は知らない。

いつも背中にもっと小さな子を背負って歩いていた。背負っているのは彼の弟。とにかくいつも身なりが汚い。彼を知る人に生い立ちを聞いた。曰く、お母さんはどこかに消えた、お父さんはprison。だからあの子は知り合いに預けられているんだ。

この村で子どもの立ち位置は、出来の悪い大人。重いものは持てない、畑仕事も下手。ましてや親のいない子なんて河原の石ころ同然の扱いにすぎない。人権なんていったところで今日のご飯や寝床が確保できるはずもない。養護といっても、一顧だにされないタフな世界。

だから子どもたちはとにかくはたらく。働かないと生きてゆけないからだ。

なぜかその男の子に関心があった。ファインダー越しに見える彼の瞳には憂いでもなく、恨みでもない。行方の定まらない不思議な眼差しがあった。

少し好奇心もあり彼に接触した。

“おいで、川で髪を洗ってあげるよ”

その男の子は破顔一笑、素直に従う。

河原で髪を洗っている最中、とても気持ちよさそうだった。まるで毛繕いをしている猿のカップルのようにみえたかもしれない。、、、、洗髪しているとふと、髪の中で何かが蠢いている。“”なんだ?“” 小さな虫だ。一匹や二匹ではない。たくさんだ。
髪を洗い終わり、持っていたタオルで彼の濡れている頭の水分を拭き取る。
そのタオルにも、蠢く何かがいる。彼ら彼女らはもともとタオルに住んでいたんだよ、主張する小さな虫たち。いや、そんなことはない。このタオルには君たちの居場所はなかった。男の子の頭から移住を果たしたのだ。

いいだろう、虫くん、ここは君たちの住処だ。ゆっくりしなさい。私は君たちとともに旅するつもりはない。

タオルの回収は断念。

“タオルは君へのプレゼントだ!” よろこぶ男の子の笑顔。

南京虫は結局主から離れることなく、住み着いたとさ。

そんな少年はもう青年の年頃だろう。まだ南京虫とともに生きているだろうか。


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