Independent Woman TUDUI

推しをずっと見ていたい。
でも推しにこちらを認識されたくない。

友人と話していて、いつもそう熱く頷き合う。
好きだ、愛しい、可愛い、エンジェル!お姫様!年齢性別関係ない!
どんな言葉を尽くそうと足りない存在に対して抱くのは畏怖にも似た感情であり、同じ空気を吸うだけで十分で視界になど入れて欲しくない。
叶うなら来世はライブハウスのあの柱になり、思う存分見つめてそしてユンボでいつか毀され朽ち果てたい。
そんなささやかな願いも叶わないのが昨今だが、推しへの愛の形を「わかる」としか言えない本を最近読んで手に汗握り首が頷き過ぎて吹っ飛ぶかと思った。

「裸一貫!つづ井さん」
2020年7月現在、2巻まで発売されている。
元々はつづ井さんが友人とのオタクライフ、腐女子のデイリーを描くタイトルも「腐女子のつづ井さん」だった。
彼女らが今も腐女子であることは疑う余地もない。
自分だってどこに出しても恥ずかしくない腐女子だ。
それは置いといて、つづ井さんはあるとき三次元の推しと出会った。
彼女の住む町に公演に来た劇団の団員さんらしい、らしい、というのはその推しさんの情報が余りに僅かなものしか得られないからだ。
その推しさんに対し、彼女はどんどんと萌えを深めていく。
はっきりわかるのは名前と性別と推定年齢のみ、あとは舞台上の姿とやたら画質の悪い劇団の公式ブログやオクなどで集めた昔の劇団の会報、思う気持ちがありったけの推しの情報を求めて走り回って。
読みながら2010年代も終わりぐらいの頃に、どんだけ画素数少ない画像なんだろう、と推しさんへの興味よりも先に悩んでしまった。
出演公演へ全国に遠征を日々されていたが、今露出もとい新規画像、いや情報が少しでもあるのだろうか…心配だ、色んな意味で。

自分の推しはそんなに情報が少ない人ではない、むしろ多大だ。
本人のエッセイやインタビューやMCでそこまで知りたくなかったことまで知ることができた、まあ実際知ったら嬉しいのだがどんなことも。
こんな時局だからオンラインでの活動も盛んだし、毎日のようにちょっとしたことでも発信してくれている。
つづ井さんの友人の推しさんも今を時めくアイドルで情報もブルーレイも溢れている、多分8Kくらいの画質だ。
リア友の推しだって、色々分かっているしファンサービスに篤い。
だが、推しを推したい、お慕いする感情はそれがどんな相手であっても同じだ。
そこが「わかる」なのだ。
推しへの時に暴走し、時に困惑し、時に多幸感となる気持ち。
それを持ち得ないものが居ようか、居るだろうけど、オタクは持ってるんだよ大抵そんな危ない気持ちを。


そして、ここが重大だが、推しには出来たら触れたくない。
入り出待ちとか後追うとか凄いよな、だっておしにみられれうryんぜ。
文章が乱れちゃったが、とにかくそれくらい困惑する。
推しがここ通ったとか、そう言う場所は通りたい、空気を吸いたい、でも推しがカフェに座ってたりしたらもう首がフクロウのごとく歪んで、見たいけど見ないし見たら目が潰れる。
ライブ会場や劇場ならいいのだ、だってそこはそう言う場所だから。
でもそれ以外のところだったら、下手したらこっちを認知されるかもしれないではないか、穿ちすぎじゃねえ見られたくないんだよ。
サイン会とかCD特典に付いてこられても困るし、ミーグリとか怖いわ、怖いって言うより泣くわ、なんなの柱になりたい空気になりたい推しに気付かれないものになりたいだけなのに。
…ちょっと自分語りになっちゃった。
つづ井さんに同意させられるのは、この推しへのお慕い力なのだ。

勿論、それだけがこの本の魅力ではない。
つづ井さんとその個性的な友人の、本当に素敵なハッピーライフが広がっている。生きるのって楽しい!毎日だ。
読んでいて凄く羨ましさを覚えた。
サプライズパーティーしたい、地獄のクリスマスパーティーだって地獄がなぜ悪い、何よりオタク同士一晩中でも語り合っていたい。
嵌っているジャンルが違ってもいい、お互いに見せあって、それがいい。
羨ましさにこう、一人ウォークマン聴きつつポケットに手を入れて晩春の夜をひたすら歩き回る、居場所のない思春期みたいなことをしてしまった。
いやそんな思春期現代の若者はしてない気がするが。
とにかくいい本だ、友人知人に啓蒙しておいた、前日譚はちょっと人を選ぶ傾向があるけどまあこれが読めたらいけるよね!ってノリで。
オタクライフへの自己肯定感、これほど今必要なものがあろうか。
自分には少なくともない、思いつかない。

早くこの目で推しを認識したいな。
堂々と柱の陰から。

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