見出し画像

青春

青の色は変わっていった
水性絵の具を絞り出して
小さなキャンパスに
傷をつけながら塗りたくった
幾度も幾度も重ねるうちに
見えなくなりそうな白を探して
青の中に溺れていった
遠くから寄せ来る晩夏の波を
座ることもせずただ見ていた
熱から醒めた気温の中で
握りしめた拳の中で
触れた途端に眩しく揺らぐ
血潮を透かした空の色を
飛んで飛んで飛んで
広げられたキャンパスの縁が
他人の青と混じり合いながら
不快な怪物の毛の振動を
苛立ちの声として
吠えた相手の優しい
寂しいあの顔の感情を
覚えた端から搔き乱す
油彩の斜に構えた原色の
抱きしめるような夕日の色が
憎しみと後悔を
捉えて去って風化して
朝靄の光を逃がさない小心が
友情の先の感情を不意にもたらす
春はあの色じゃなくても春だった
一つ選ばれたあの色を愛したから
僕らの春は青だった
この青は何色かで塗り重ねられ
見えなくなったその頃に
胸の焼けるような暑さを感じ
振り返ったそこに
枯れた川底の音のように
静謐と空虚の不在の上に
さよならの後の頬の色の
祈るようなあの色が
春を染めた
永遠の色が風に舞う
絶えず変わるその色を眺めていた

青春
2024.3.22
雪屋双喜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?