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夜風

 十九になった。寂しさの混じったお祝いに家から少し離れたコンビニで買うチューハイで乾杯する。罪悪観のゆらぎと同時に流し込んだ酔いが、腹の奥で、死に向かうだけの身体をぐつぐつとせせら笑う。
 映画で見た将来はもう少しヒロイックで、ニヒルな無衝動を持っていたし、漫画で読んだ未来には俺みたいな奴が変わろうと藻掻いていたりした。缶の底に残った液体を掌に少し出して眺める。水よりも鈍い光の表面を東京が揺蕩う。
 遠くで今も人が死ぬ。無関心と名付けたそれが存在することを許した人間。いじめなんて言葉があるからいじめがなくならない、なんて論法もあるらしい。じゃあ、一体どっから生まれたんだよ、この無感情は。
 星が見たかったんだけどな。だらしなく見上げた空には薄い雲と青くもない夜が浮かんでいる。最高密度にはまだ足りないな。いつの話だろ、詩集を大切に読めたのは。本棚に並んだ作品を、愛すよりも先に所有の欲求に使った俺は、どこまでこれを愛せるだろう。
 愛の向こうに無関心がある。今日はそれがよくわかる。腹の奥で汚く笑う自分の中を覗き込む自分に、どうしようもない若さが滲む。
 曜日を気にして飲む酒なんて、うまくないな。

夜風
2024.6.15
雪屋双喜

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