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詩 生きとし生ける全ての僕へ

一、

本棚の下の隙間が好きで
たぶん五年くらい見つめていた

現代詩も現代小説も現代論説も
そこには既になくなっていた

今は少し空気が舌に嚙み合わない
からだの中を優しさで朝日のようにしたい

水槽のめだかを指でなぞり
一匹ずつを絵に描いた

すらりと長い私の心は
誰かの手のひらをすり抜けていく

いつかは本棚の下の隙間に落ち着いて
たぶん五年くらいしてまた出てくる



二、

時々聞こえる誰かの足音に
誑かされて怯えている

遠くの蛍を眺めたままで
足の指先を確かめていた

本棚の下の隙間が好きで
本当の自分と比べてしまった

恐ろしいと思って
宇宙を食べて満足する

私の心は細長いので
貴方はきっと見ないままに

ジーンズの裾を折りたたんでいって
その最後の一折を縫い付ける

封筒を見つけたら片っ端から
破いて中身を綺麗にして置く

無駄なら私は息を止めて
息する意味をぶつぶつ呟く



三、

あゝ

生きとし生ける
全ての音よ

あゝ

生きとし生ける
全ての言葉よ

僕より尊く居てください

2022.9.9
雪屋双喜

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