詩 一樹の陰


Saul Leiter – Cap, c. 1960


から逃げ出して、こんなところにいる。
濡れて醒めただけの景色。
雨音の下、ただ思い出す

から逃げ出して、こんなところにいる。
葉を雨打つ音、遠雷、蚊羽、鼓動。
草の下に溜まる水滴を見つめていた

から逃げ出して、こんなところにいる。
君の先に何を見ていたのだろう。
雨音の中、口を開く

から逃げ出して、こんなところにいる。
誰もいない場所を探して空を見上げる。
知らない誰かを愛するような

から逃げ出して、こんなところにいる。
出し抜けに言葉を贈ろう。
雨雲の中の晴れ間に辿り着いてから

へと向けて一言を。
口の端を破って出ていく愛の囁き言を。
私の中の君を壊し去るための挨拶を。

さようなら。


2022.8.14 一樹の陰

忘れなければ、今の君が私の中にいられない。
雪屋双喜



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