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現今

ずっと誰かの記憶を見た。
白鷺が首を縮めて飛び往く姿。
電線の先の油彩のような月夜。
紫陽花の葉の蝸牛の触覚。
友情と不確かな恋慕。
車窓に並ぶ知らない街。
海の向こうの波と空との白飛び。
雲の影のかくれんぼ。
校舎の階段は今よりも高くて。
自販機はもっと一つの味だった。
ふざけた帰り道は三年前に拡張された。
百日紅は電信柱になった。
雀は角の婆ちゃんを追っかけていった。
夏にしか現れない幽霊。
桜の色。
音のしない夜。
真昼の空。
時間。
ほどけた靴紐。
冬風。
蝉の振動。
一方通行の匂い。
カーブミラーの反射光。
壁の継ぎ目。
知らない言葉の本。
机に並ぶ食事。
目覚ましのない朝。
非存在としての夜。
目を閉じれば出会える亡霊。
視線。
床板の冷たさ。
誰もいない道路。
名ばかりの公園。
飴の味。
偶成。
将来の夢。
好きと言う感情。
美化された不快感。
朧げな過去。
雨粒。
指の先の光。
口の中の蛍。
心の内の太陽。
記憶の外の存在。
語られることを嫌った。
在ることの実感。

現今
雪屋双喜
2024.3.6

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