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詩 歌声


死んだ鳥が籠の中に澄ました顔で
今朝は朝の来るのが遅かったのだ
私は花の散るのを知るから分かる

雄弁に語る壁の陰影が万事を話す
あの人が今日宙を舞ってそのまま
なるほどと思う頬の跡を鏡に見る

誰のとも判然としない声が響いた
私は驚いて鏡の向こうを見つめる
泣き声がただ最後の涙を振り絞る

私はそれを美しいと思って眺めた
夏の蝉が遠くで近くで鳴き始めた
凪いだ朝の空気が嫌に気持ち悪く

私は今日また一つ朝を終わらせた
丁寧に丹念に手間を惜しまず一つ
数えると覚束ない靄と不快な反実

際限のない後悔を矯めて沈ませて
夕べの夜波声の狭間の花火の無音
あなたをただ思って作る歌を送る

今夜は遠くまで行けそうだからさ
旅に出るには心地の良い日だろう
あなたが遠くまで行った明日の昼

暑いだろうから気を付けていって
振り返らずともいつかきっとまた
会う日も来るだろうからそしたら

あなたなんかは僕を忘れておいて
僕はあなたをこの一生忘れず歌う
七夕の夜が明けたらまた思い出す


歌声
人が最初に忘れるのは、その人の声。

雪屋双喜 2023.7.7

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