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詩 #32

世間は広い。多分、思ったよりも。

その計り知れない世界がそれ故に怖いから。

人は名前を付けたがる。

人とは常に名付けたがり屋だ。

では諸君、月も見えない夜を語ろう。

名を付けたとて変わらぬ恐怖を。


月に吠える犬は、自身の影に怪しみ恐れて吠えるのである。
            萩原朔太郎 詩集月に吠える「序」より


始まりは漆黒である

そこに針で突いたような穴が明く
とらえきれない光が舞う

しかしやはり
始まりは漆黒である

恐れるべきは闇か
それとも影か


私達は漆黒を失った

街を彷徨うような蛍が飛ぶ
とらえきれない影が浮かぶ

しかしやはり
私達は漆黒を失った

恐れるべきは影か
それとも光か


始まりはいつしか純白であった

空を渡るただ一つの星
悲しみが曇る

しかしやはり
始まりはすでに純白であった

誇るべきは光か
それとも


漆黒の中に闇が起こる
月が姿を現す
闇の中に浮かぶ影に
犬は気付かない


それは漆黒である

暗く強かに闇を染め抜く
犬は忘れて眠りにつく

しかしやはり
それは漆黒である

恐れを忘れたのは私か
それとも漆黒か


眠る犬は、自身よりも大きな影に気が付かず安心し眠るのである。

人よ、小さき犬よ。影が見えるか。



2022.2.11 月
次は「花」

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