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リーガルテックSaaSをやってみて気づいたProduct-Led Growthについてのあれこれ

こんにちは、GVA TECH株式会社の有賀(@yukikazu)と申します。

本記事は『法務系 Advent Calendar 2019』の18日目(12/18)の記事です。マギー住職さんからバトンいただきました!

もともと私には法務の経験があるわけではないのですが、5月にリーガルテックスタートアップのGVA TECH株式会社に入社したのと、たまたま同僚からこのアドベントカレンダーのお誘いを受けまして、このたび書かせていただくことになりました。

実は私、noteでブログ書くの初めてでして、いいきっかけになりました。ありがとうございます。

自己紹介

GVA TECH株式会社は「法務格差の解消」を目指して複数のリーガルテックサービスを提供しているスタートアップです。その中で私は「AI-CON」という契約書をAIでチェックするサービスや、商業登記の申請書類をオンラインで作成できる「AI-CON登記」などを担当しています。

みなさんも契約を締結する際に取引先から「こちらの内容でご確認ください」と契約書のファイルを受け取るときがありますよね。

AI-CONはこれら契約書をWordやPDF形式でアップロードするだけで、リスク箇所やトラブル事例を指摘、さらに修正例まで提案してくれる契約書チェックのためのサービスです。

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このAI-CON、今年の10月にサービス開始以来の大きな変更がありまして、その過程でユーザーとの関係性が変わった感覚がありました。

これはなんだろう?と思っていたある日、ふと、ちょっと前に目にした「Product-Led Growth(PLG)」というSaaS関連のキーワードを思い出しました。「ひょっとしてこれのことなんじゃないか?」と実感する経験がありまして、今日はその中で気づいたことを紹介したいと思います。

こんな方を対象としています

この記事はこんな課題をお持ちの方の参考になるのではないかと思っています。期待はずれでしたらごめんなさい…

・フリーミアムのWebサービスをやっていて次の打ち手をどうしようか考えている
・サービス価格が安いため追加で営業やマーケティングコストをかけにくい
・とにかく新規リードを獲得して営業するのに疲弊してきた
・SaaSやっているけど、なんか「THE MODEL」って感じじゃないんだよなぁ
・顧客のサービス利用タイミングが読めず、コミュニケーションのテンポがつかみづらい

Product-Led Growthとは

「Product-Led Growth(PLG)」とは、米国のOpenView PartnersというVCが提唱したSaaS成長モデルの考え方で、今年になってSansanの山田さんSTRIVEの四方さんなど、日本でも紹介している記事をいくつか見かけるようになりました。私もこれらの記事がきっかけでこの言葉を知りました。

私からあらためて説明するより先達の皆様の記事にあたってみましょう。四方さんのブログに以下のように記述があります。

Product led growth is a go-to-market strategy that relies on product features & usage as the primary drivers of customer acquisition, retention and expansion.

PLGとは、プロダクトの機能やユーザーの利用頻度を顧客獲得、リテンション、アップセルの主要ドライバーとするGTM戦略。
これだけだと分かりにくいが、言い換えると「今までプロダクトの外部で行っていたマーケ・営業・CS活動をプロダクトの内部で完結させて、高い資本効率で事業をグロースさせましょう」ということだ。

図にするとこのようになります。

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出典:次のSaaSトレンド!Slack、Zoomが実践する"Product-Led Growth"とは?

簡単にいうと、サービスにアカウント登録もしくはトライアル開始してからリードとしてコミュニケーションしていくということです。

一般的なSaaSであれば、サイト訪問やイベント参加で見込み客と最初の接点ができ、資料ダウンロードやお問い合わせでリード情報を入手、メールや営業提案を経てトライアルに進み、晴れて受注となったらサービスのアカウントが発行されて利用開始、という流れでした。

これは、サービスの利用を検討している段階はずっとプロダクトの外で進行し、トライアルや正式受注後はじめてプロダクトに触れるようになるということです。最後の最後でやっとプロダクトと対面します。

PLGが今までと異なるのは、サービス検討の初期に近い段階でアカウント登録、プロダクトに触れてもらいその体験を通じてリード化していくという点です。

近い考え方では、フリーミアムモデルがあります。ただしフリーミアムの場合、アカウント登録後あくまでもプランの一つとして使い続けてもらうのが前提になることが多いです。PLGではアカウント登録後もまだリードであると考えるという点がちょっと異なるようです。(とはいえ明確な線引はないようであまり気にしなくてもいいのかもしれません)


一般的なSaaSとProduct-Led Growthの違い

このPLG、一般的なSaaSリードと比較するとこんな違いがあります。

・リード段階でアカウント登録しており、何らかの利用をしている
・少なくとも「サービスを利用してみよう」というモチベーション状態ではある
・アカウント登録時に利用できる機能の範囲で、見込み客の課題を多少なりとも解決できる可能性がある

従来のリードよりも、サービスについてより深く理解をしてくれている可能性があるということです。たしかに、アカウント登録済みであればゼロからのサービス説明や長時間の課題ヒアリングは不要になるかもしれません。

この違いをどう活かせるか?がProduct-Led Growth活用の大きなポイントになると思います。

ちなみに、海外だとPLGを採用している企業はこんなにあるそうです。日本でも有名な企業がちらほらありますね。

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出典:2019 EXPANSION SAAS BENCHMARKS

よく見ると、サービスは随分前からあるのに、最近追加されている企業がありますね。DocusignやFastlyなど。これら企業は「PLGいけそう」とどこかで思ったのかもしれません。似たサービスや近いターゲットの企業はPLG採用について検討されてもよいかもしれないですね。

低価格のSaaSとしてスタートしたAI-CON

AI-CONは2018年にサービスを開始しました。

当初は他のSaaSと同じく、資料ダウンロードやお問い合わせ、展示会などでリードを獲得し営業担当が提案というのが基本的な営業フローでした。営業時に見込みがあればトライアルを案内して商談を進めます。

サービス開始してから1年ほど経過すると、利用社数は増えていましたがちょっとした課題がありました。対象となる見込み客の幅が広すぎるんじゃないかというものです。

大企業から中小企業・スタートアップ、法律事務所まで様々な層のお客様を一つのサービスで対応していました。「ターゲットが幅広くていいですね」となりそうですが、法務組織の規模が異なっていたり、課題から接触できるお客様もいればAIやリーガルテックといったトレンドワードから入ってくる企業まで幅が広くなる傾向がありました。

ちょうどこの頃初のインサイドセールスメンバーが加入し、徐々に提案段階でのニーズのずれは解消しつつあったのですが幅の広さはまだ残っていました。

ワンコイン&1通無料での契約書チェック開始によるユーザー変化

そんなさなか、2019年10月AI-CONの機能面で大きな変化がありました。

NDA(秘密保持契約書)を対象にした「即時チェック」という新機能をリリースしました。合わせて、即時チェックなら1通の利用がワンコイン(税別500円)でできるようになり、アカウント登録で1通無料で利用できるという制限に変更しました。(ちなみにこの即時チェックはすごい機能なのでぜひ一度お試しください!無料です。

これには、ちょうど同じタイミングでエンタープライズ向けの「AI-CON Pro」のリリースもあり、AI-CONは以前よりも低価格帯をカバーできるようにするという背景もありました。

今までは一般的なSaaSだったのをフリーミアム、セルフサーブ寄りに変更したというイメージです。今まではリード獲得して営業していたのを、とにかく会員登録して1通無料で利用いただくことを重視するという顧客獲得方法になりました。

やってみてわかったのですが、資料ダウンロードなどによるリード獲得とアカウント登録では似ているようで違いました。アカウント登録するということは多少なりともサービスで課題が解決できそうだから登録いただけるわけで、今まであったターゲットのずれが解消できるのではという予感がしてきたのです。

インサイドセールスからヒアリング商談への切り替え

この変更後、サービスにおけるいくつかの係数に変化がありました。

端的に言うと、リードが減りアカウント登録が増えました。これは想定していたのですが次に気づいたのが、アカウント登録は増えたが有料利用を増やすには十分ではないということでした。確かに増えたけど足りない。

ただ、アカウント登録されたうち9割以上の方に1通無料を利用してもらえました。

そんなこともあって即時チェックの感想や登録に至った背景などをヒアリングするためにお客様に連絡をしていました。実際に使ってくれた方へのヒアリングなので、従来のインサイドセールスよりはお話がしやすく、何回かやっているとヒアリングしたお客様の中から上位プランを検討いただけるケースが出てきました。

ここでやっと「あ、これはProduct-Led Growthってやつなのでは?」と感づいたわけです。

AI-CONと接点ができるユーザーのほとんどが1通チェックいただいている状態となったのをきっかけに、今までやっていたインサイドセールスをヒアリングに切り替え、上位プランがマッチしそうな商談を増やすというやり方になりました。残念ながら商談に至らなくても貴重なヒアリングができるので得した気分になれるのもポイントです。

他にも副次的な効果がありました。

・サービスの興味度合いによっては同じ企業から複数名の登録がある
・商談やヒアリング後に同じ企業の他の方から登録がある

というように検討状況や興味度合いを測るシグナルとしても活用できるようになりました。

このヒアリング商談形式にしてまだ1ヶ月も経っていませんが、話のとっかかりがだいぶ変わったことを実感しています。この変更が本当に有効だったのかはもう少し時間が経ってみないとわかりませんが、今後期間を区切って見極めていきたいと思います。

Product-Led Growth実践のために必要なこと

本稿のテーマは「Product-Led Growth」ですが、それを最初から意図していたというよりは、たまたまそれに至ったという感じです。あらためてその成立のために何が必要か整理してみました。

①サービス利用の第1歩となる体験を決める
AI-CONでは「アカウント登録でNDAを1通チェックできる」というのがそれに当たります。これはシンプルかつなるべく早く価値を感じられることが重要だと思います。そしてその第1歩の利用の障害はできるだけ取り除く必要があり、多くの場合はトライアルやフリーミアム的な利用形態がセットになると思います。

②PQL(Product Qualify Lead)を決める
これはMQLやSQLのプロダクト版ともいえるものです。今回はたまたま「アカウント登録してNDAを1通チェックしてくれた」お客様にヒアリングの連絡をしていたのがこれに当たります。

他にも特定機能を利用したユーザーや、利用頻度が一定以上になったユーザー数を基準にするようです。商談の場合、担当者や決裁者の理解度や意向でフェーズ管理をしますが、それをプロダクトとの関係性に置き換えるイメージです。このあたりの解像度が上がってくるとユーザー行動をベースにメールを送ったりといったアクションもできそうです。

それと忘れてはいけないのが必要なユーザー側の情報です。AI-CONでは無料のアカウント登録時にメールアドレスだけでなく社名や電話番号の入力を必須にしています。

③スケールしやすい滑らかな利用プランを用意しておく
リード獲得においてもお問い合わせの手前にホワイトペーパーなど提供し検討状況に応じて柔軟に接点を設けますがそれに近いです。

アカウント登録して1通無料した段階でいきなり高額なプランを案内するのは難しいので、安価なプランやスポット利用できるプランなど用意しておくと良いと思います。

おわりに

何やら聞き慣れない「Product-Led Growth」について気付いたことをまとめてみました。

名前はかっこいいですが、やっていることは割と普通です。ただ、これからサービスをさらに成長させる上で、国内のさまざまなサービスにおいても今後注目される考え方なのでは?とも思いました。

今回、弊社では結果的にPLGの考え方に触れることができましたが、自社のサービスに応用できることがないか検討してみるのはいい機会だと思います。

最後に、
GVA TECHでは、AI-CONの他にも商業登記の申請書類を作成できる「AI-CON登記」や、エンタープライズ企業向けのAI契約法務サービス「AI-CON Pro」など、複数のリーガルテックサービスを提供しています。ご興味ある方、Wantedlyコーポレートサイトからお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

それでは法務系アドベントカレンダー2019、明日はkenjisugiura01さんです。お楽しみに!

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