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【9分で読める】映画作りの基礎知識:ミザンセーヌ(セット・メイク・衣装編)

「カメラに映るモノ全て」を意味する「ミザンセーヌ」。本記事は以下の記事の派生記事として「ヘアスタイル・メイク・衣装をどうこだわるか」というお話を「エターナル・サンシャイン」という映画と絡めて勉強していきます。

ミザンセーヌのおさらい

ミザンセーヌの直訳は、「舞台の構築」。しかし、映画では「カメラに映るモノ全て」という意味で使われます。
①セット
②小道具(持ち道具)
③照明
④衣装
⑤演者
⑥コンポジション

 したがって、画面に映るもの全てには理由もとい制作者の意図があるということです。それが顕著に表れている映画はドイツ表現主義に分類される映画(カリガリ博士)やティムバートン・ウェスアンダーソンが監督する映画でしょう。
 そう言える理由は観客である我々は画面に映るモノが明らかに人の手(映画制作者)によってつくられたものだと分かるからです。 

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(カリガリ博士より)
(岩崎:確かにこんな壁は映画などのフィクションでしか見ないですね)
 しかし、リアルな映画ではミザンセーヌが考えられていないように感じる時もあります。理由は、簡単。現実世界をそのまま撮影しているかのように思えるからです。しかし、現実世界に思える映画でもしっかり見てください。カメラマンが画で物語を伝えるように、美術部も画面に映るモノを選び、物語を観客に伝えます。
(岩崎:確かにダークナイトのようなリアル系の映画だと制作者の意図が込められていると思いづらいですね)

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大事なのは美術監督とのコミュニケーション

 美術部のチーフである美術監督は何をセットに含め、何を除くかを監督と話します。例えば、「Winter in the blood」という映画は1970年代が舞台の映画です。その現場には、波形金属板を使った建物があったのですが、波形金属板は1980年代まで発明されていなかったことを美術監督が知っていたので撮影の際には波形金属板を古い金属板と取り換える作業をしていました。人によっては、これは無意味なことに思えます。「誰が波形金属板が1970年代にあることに違和感を覚えるの?」って。しかし、我々はそういった違和感を無意識に感じてしまうのです。
 極端な例を上げると1990年代の教室で黒板をノート代わりにしている生徒がいたら違和感を覚えるでしょ?他にも1960年代が舞台の映画にプロジェクターがあったら奇妙でしょ?我々が生きてきた世界と何か違うことが映画の中で起きていた場合、観客は意外と気づくものです。
 したがって、美術監督は脚本を受け取った後に時代を調査するのです。舞台が未来であろうと過去であろうとも。それができるとセットデザインを書き、監督とロケハンに行きます。そして、監督にどんなセットを作ろうとしているのかをプレゼンし、監督からのOKが出れば、本番です。
(岩崎:美術監督のお仕事をまとめてみました。オリジナルの動画にあったものを翻訳)

1.00_00_02_18.静止画001

(岩崎:監督からのOKが出たら、そのビジョンを実現するためにセットデコレーター(装飾部)に発注をします)

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 セットデコレーターは、物語の設定を調査し、何がそのセットにふさわしのかを決めます。美術監督は画全体の見た目を気にし、セットデコレーターは細部に注意を払います。セットがうまく完成したとしても登場人物がそれに合っていなければ全てが台無しです。ここで、衣装部・メイク部の出番です。

衣装部の仕事

 衣装部の最も重要な役割は「登場人物がどう変化するかを把握」することです。そして、登場人物にトレードマークと言える衣装を設定すれば監督もテーマと物語をより伝えやすくなるでしょう。

1.00_00_10_24.静止画003

 例えば、「ハリーポッター」のマクゴナガル先生と「ミス・シェパードをお手本に」のミス・シェパード。演じているのは同じくマギースミスですが、全く違う人間に見えますね。

マグゴ

無題

 衣装は登場人物について色んなことを教えてくれます。登場人物の変化を衣装を通じて表現するのも一つの技法です。

ジュラシックワールドの衣装

 例えばジュラシックワールドのクレアは物語の前半では白い装束を身にまとっています。現実との乖離や恐竜が住む世界を知らないことを暗示しています。
(岩崎:白は純粋やけがれがない印象を与えますから確かにそうですね。逆に言えば、「現実を知らない」という印象も与えることができますね)

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 しかし、物語が進むにつれて彼女の衣装はジュラシックパークに登場した
エリー・サトラーに近くなっていきます

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 この衣装変更は観客だけでなく演者に登場人物へ感情移入する深度を高めてくれます。ファッションデザイナーから監督デビューをしたトムフォードは、登場人物の下着まで用意し、人物の名前まで書いていたという話があります。
(岩崎:演者さんが衣装を「衣装」ではなく「自分の私服」と思えるための工夫ですね。勉強になります)
 ここまでのこだわりはカメラ・観客には見えませんが、演者の立場に立って考えるとよりよい演技を引き出す上でとても役に立ちます。
 衣装についてより詳しく学ばれたい方はこちらにも記事を書いておりますのでどうぞ!

メイク部

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 ヘアスタイル担当とメイク担当は同じトレーラーの中で仕事をしますが、仕事としては完全に別物です。映画はほとんど物語の順番通りに撮影されることがないため髪型が物語上、問題ないものかを(繋がり)を意識しながらしなければなりません。
*繋がり:映画の中で、「前のカットと次のカット」「前のシーンと次のシーン」が物理的に違和感なく繋がっていることです。例えば、ダークナイトの取り調べシーン。この2カットは繋がっていないのですが、分かりますか?

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 そう。ジョーカーの手が「下から通っている」「上から抑えている」の2パターンあるのです。こういうカットを「繋がっていない」と言います。これが髪型やメイクなどにも起こりうるということですね。それを防ぐために演出部・メイク部・衣装部は「衣装香盤」というものを作ります。(衣装香盤のデータも機会があれば公開しようと思います)その一覧を見れば、どのキャラクターがどのシーンでどの衣装とメイクをすべきなのかが分かる、というものです。長くなりましたが、本文に戻っていきましょう。

 ヘアスタイル担当も演者が演技に集中でき、監督のビジョンに沿った髪型にしなければなりません。だから、映画では実際に染めるよりも手間がかからないカツラがよく使われます。

 ヘアスタイル担当とメイク担当はカメラアングルや照明のように観客から見えるものですが、主張しすぎるのは禁物です。ヘアスタイル担当とメイク担当の仕事は演者を映えさせることだけではなく観客が物語により没入できるようにすることですから。
 一部のメイク部は特殊メイク専門だったりしますが、メイクの基礎として傷、タトゥーや痣の作り方などのことは知っておく必要があります。衣装部とメイク部はほとんどの時間を演者と過ごします。それぞれトレーラーを持ち、そこで準備をします。お出番の時間が迫ると助監督、衣装、メイク、ヘアーのチーフで確認をしましょう。それで問題がなければ本番です。
(岩崎:1カットの撮影後に髪の毛やメイクが乱れてしまい、「繋がり」のためにヘアスタイル、衣装、メイクを戻すことを「おなおし」と言います)
 
*エターナル・サンシャインのネタバレを以下に含みますのでまだ見ていない方は本編を見てから以下の記事を読むことをオススメします!
マルコヴィッチの穴・アダプテーションを執筆した脚本家の映画なので、オススメです!

エターナルサンシャインから読み解くミザンセーヌ

 ここまでお話したミザンセーヌを応用している映画は「エターナル・サンシャイン」のクレメンタインでしょう。衣装部・ヘアスタイル担当は観客に「オレンジ色=クレメンタイン」という印象を与えるために髪型や衣装にオレンジ色をちりばめています。

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 衣装部とセットデコレーターはお互いに協力をし、セットは彩度を落とし、クレメンタインの髪色が映えるように工夫をしています。

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そして、ジョエルがクレメンタインの記憶を消した後、ジョエルの部屋はいつも通り鮮やかとは言えない部屋ですが、オレンジ色の花瓶だけは色を放っています。
(岩崎:記憶を消してもクレメンタインという恋人の存在はどこかに残っている、ということなんですね)

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【参考にした動画】


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