【9分で読める】天才スタンリーキューブリックに学ぶ映画の画作りを体験(実際の脚本を使います)
「カメラに映るモノ全て」を表すミザンセーヌ。今回はスタンリーキューブリックがシャイニングでどのようにミザンセーヌしたかを書いていこうといこうと思います。(岩崎:「ミザンセーヌする」というのが果たして日本語なのかは分からないですが、「画を作る」という意味で使います!)
・1回目:ミザンセーヌの簡単な説明をしております。ここで基礎知識を得てから本文を読んだ方が分かりやすいです。
・2回目:映画のセットをどうデザインするのかについて書いています。
映画監督が撮影現場でやっていること
映画監督が現場でしていることはなんだと思いますか?
指さし?
カメラレンズを覗く?
あのジェスチャーをする?
なぜ、監督はこのようなことをするでしょうか?それは撮影前の段階で監督にしか見えていないものがあるからです。カメラを回すのは全てのカットをデザイン・構成した後の「仕上げ」なのです。その仕上げのために監督は自分のビジョンを実現するためにスタッフに説明・指示をすることが仕事です。
ミザンセーヌの復習
ミザンセーヌはただのキザな業界用語ではありません。映画に必要不可欠な要素であり、全ての映画監督が知ってか知らずか「何をシーンに含めるか」「何をシーンから除くか」を必ず考えています。
(岩崎:何を除くのかを決めるのも大事なんですね。勉強になります)
これについてフランスの映画批評家であるAndre Bazin氏は映画作りの方法には以下の二種類しかないと提言しました。
①モンタージュ
②ミザンセーヌ
①モンタージュ
モンタージュは、複数のカット(画)から意味・物語を観客に伝えるやり方です。
(岩崎:下の画像はインセプションです。①左上:コブが家に帰る。②右上:子どもを見つける。③左下:子どもと再会する。④右下:回るトーテム。という感じで複数のカットを集めて、物語を伝えています。そう考えると漫画もそうですね)
②ミザンセーヌ
ミザンセーヌは一つの画だけで意味・物語を伝えようとするやり方です。
実際のシーン:市民ケーン
下の写真は市民ケーンのあるシーンです。引きのショットは登場人物全員の演技が見れます。このショットからは誰が優位に立ち、誰が不利に立っているのかを知ることができます。長回しによって観客は自分の頭でそれを感じることができます。
*岩崎からの映画豆知識:「引き」というのはカメラを演者から離れた位置に置き、撮影することです。反対にカメラを近くに置く撮影は「寄り」と言います。
(岩崎:例えば手前の二人は座っていて、画面を占める割合も大きいです。また「座っている」という状態は登場人物に「安定感」を与えることができます。対して、左の男性は画面内で二人よりも小さく収めされ、立っていることから私たちは彼が弱い立場にいることが分かります。実はこの構図って僕らの日常生活の中で見つけられます。こちらの画像を見てください)
(岩崎:はい、脱サラする前の私です(笑) この写真を見るとどちらの立場が上かというのがより分かるのではないでしょうか?少し長くなりましたが、続きにまいりましょう)
無声映画時代の「ミザンセーヌ」は画面に「映るモノだけ」を意味していました。しかし、現代では効果音や音楽などの音も含まれるようになりました。もう頭がパンクしてきたのではないでしょうか?
(岩崎:はい)
したがって、ミザンセーヌに含まれるものは前回の記事で紹介した6つにさらに6つの新要素が追加されます。
【前回まで】
①セット
②小道具(持ち道具)
③照明
④衣装
⑤演者
⑥コンポジション
【追加】
⑦メイク
⑧色
⑨レンズ
⑩音
⑪フレームレイト
⑫音楽
ミザンセーヌを構成するモノ一覧
さらにミザンセーヌには2種類あります。
(岩崎:マジ?)
◎現実的ミザンセーヌ:物語が現実世界で起きているという設定で映画が現実を見ているように思えるデザイン。
(岩崎:なるほど。僕が思いつくのはダークナイトですね。みなさんはどうですか?)
◎超現実的ミザンセーヌ:現実の世界から逸脱し、誇張されたファンタジー。ティムバートンの映画が代表例ですね。彼の映画のセット・衣装・小道具。全てにおいてその奇抜さに目を奪われます。
(岩崎:私が思いつくのはスターウォーズとかですね)
(↑岩崎:バットマン!)
(↑岩崎:チャーリーとチョコレート工場!)
(↑岩崎:シザーハンズ!まだ見たことない・・・)
では、デビッドフィンチャーのような現実的映画に我々の目が奪われないかと言われればそうではありません。
(↑岩崎:ファイトクラブ!僕の師匠です!)
だから、現実的な結婚生活の映画を作る時もファンタジー映画を作る時もミザンセーヌを忘れずに画を作ってきましょう。
(岩崎:マレッジストーリー。これも見たいな)
(岩崎:AI!泣いた・・・)
具体的な作品を例にミザンセーヌを紐解いていきましょう。
(岩崎:さあ、今日の本題です!)
シャイニングのミザンセーヌを考察
下のシーンはシャイニングで最も不気味なカットです。キューブリックがどうやってこのト書きを実現したのか見てみましょう。
*映画豆知識:「ト書き」とは会話以外の文章を意味します。小説でいう「地の文」です。ただ、小説と違うのは「脚本には目に見えるものだけを書く」(心理描写は書かない)、というルールがあるようです。
(岩崎:以下の文章はシャイニングの脚本を翻訳した内容です。データも添付しておりますのでよろしければどうぞ。日本の脚本仕様にしています)
【脚本の抜粋】
叩き。ダニーが床でおもちゃの車とトラックで遊んでいる。カメラが上がりながら後退。黄色のボールが画面外から転がり込み、ダニーのトラックに当たる。ダニーが顔を上げる。
*映画豆知識:「叩き」とは演者の目線より上にカメラを設置し、撮影をすることです。反対に目線より下にカメラを置くことを「煽り」と言います。
このト書きから分かるのは、「おもちゃの車とトラック」、そして「床」の文章からカーペットが映ることが分かります。
カメラが引いて行くとカーペットの奇妙な柄に気づきます
そして、「カメラが上がりながら後退」するとカーペットの不気味な柄が明らかになります。そして、カーペットの柄がダニーがまるで囲んでいるように見えてきます。
(岩崎:確かに明るい所を見るとダニーが囲まれているように見えますね)
そして、ト書きには書かれていませんが、ダニーの口から発せられる「ぶぶぶ」という音と徐々にボリュームが上がっていく不穏な音楽も加わってきます。
では、カメラはどうでしょう?ハイキーでの撮影のため画面は明るく影もないので何も怖い要素はありません。しかし、ここで新たな小道具が登場します。「黄色のボール」いえ「ピンクのボール」です。
(岩崎:なぜ、脚本上では黄色だったボールがピンク色に変更となったのでしょうか。あの完璧主義者のキューブリックですから何かしらの意図があるのは間違いないですね)
これら全てが合わさり、観客に「ダニーが孤立し、命の危機にさらされている」という印象を与えることができます。この1カットのミザンセーヌだけでも観客を怖がらせるためのこだわりが見えてきます。
これはもちろん簡単なことではありません。他部署のチーフたちに監督のビジョンを伝え、最高の画を作りましょう。
(岩崎:この過程を日本の現場では「美打ち」と言います。監督と各部署のチーフで集まり、脚本を読みながらそのシーンに何が必要かを探っていきます。いずれ、そのやり方も公開していきます)
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