縛るもの

 ヨツメを知っているだろうか。光る四つの目を持つ異形のものだ。
 私が若い頃は霧の漂う夜に出たものだが、最近はよく晴れた夜でも人里を闊歩する。黒い巨体が音もなく転がり目から溢れる白い光が辺りを照らす。
「こわい。見つかったらどうしよう」
「大丈夫。行く先を遮らなければなにもしてこないよ」
「ほんとうに?」
「本当だよ。たまに我を忘れて暴走するのもいるがね」
 目の前に迫る眩い光が脳裏を過る。この子に大丈夫だと言い聞かせたつもりなのに心臓が早鐘を打ち始めた。
「まあ、だから近づかないのが一番いいな」
 そうは言ったものの私もこの子もここから離れられない。なぜならヨツメに食われた際に魂だけここに残されたのだから。

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