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神宮の空気を変えるエースの風格、木澤尚文最後の慶早戦

 今日、我らが東京ヤクルトスワローズの今年のドラフト1位、木澤尚文くん(慶應義塾大学4年)の仮契約が行われ、背番号が20に決まりました。

 ヤクルトの20といえば、1993年の新人王を獲った伊藤智仁さんをイメージする方が多いのかもしれませんが、木澤くん自身が言っているように20番は担当スカウト山本哲哉さんが背負った番号でもあります。

 そしてたぶんですが、2018年に引退してスカウトに転身した山本さんが、一人で?あるいはメインで?担当した初めての選手が木澤くんなのではないかと推察しています。(さすがに1年目から単独で担当はつかないでしょう、という想像です。)

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 「担当スカウトは親も同然」という言葉があるそうです。新人合同自主トレでも付きっきり。プロの入り口に立った選手たちを細やかにサポートします。年齢的にお父さんと呼ぶのはかわいそうですが、私は山本さんのファンだったので、背番号20が神宮で輝いて、そのご縁が長く続いたらいいなぁと願っています。

 とはいえ、山本さんが担当スカウトと分かる前から、木澤沼には早々に転げ落ちていました。

 2020年10月26日ドラフト最中から翌日にかけてのつぶやきです。

 柔らかい笑顔の学ラン姿の男の子がパペットつば九郎を持ったときの破壊力。球団グッズは報道関係者が用意していると聞いていますが、定番のキャップと傘ではなく、パペットつば九郎という女子のハートをガッチリ掴んで離さないグッズを用意した記者さんは素晴らしい。ボーナス倍額にしてあげて欲しいです。

 ということで、ドラフト当日から木澤沼に助走をつけて頭から飛び込んだ自分、すぐに11月7,8日に行われる慶早戦のチケットを取り、行ってきました。

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 いつもの神宮だけれどいつもの神宮ではない不思議な感覚。ちらほらとysロゴが入ったキャップやウエア、バッグを持った人も見かけましたが、圧倒的に普段プロ野球では見ないタイプのお客さんで埋まったスタンド。いつもの野球観戦スタイルで来てしまったことをほんの少し後悔しました。これが大学野球、これが早慶戦(慶早戦)なんですね。

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 背番号18は慶應義塾のエースナンバー。秋季リーグ最終戦、優勝をかけた慶早戦にエースとして臨もうとしている木澤くんに、ドラフト会見時の柔和な笑顔はありません。

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 7日は先発でした。4球団が競合した早稲田の早川隆久くんとの投げ合いです。マウンドに立った木澤くん、ヒリヒリとした空気を纏っているかのよう。凄みのようなものを感じました。

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 指名が決まってすぐにYouTubeや六大学の再放送などを見ましたが、実際に吠える姿には目を奪われっぱなしでした。

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 両者譲らぬ投手戦となり、均衡が破れたのは6回裏、早稲田に1点が入ります。7回表に慶應が追いついたものの、その裏、早稲田の2年生蛭間くんに2ランを浴び、木澤くんはマウンドを降りました。結果は1-3で早稲田の勝ち、優勝決定は翌日に持ち越されました。

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 翌8日、勝つか引き分けで早稲田の勝利、慶應は勝つしか優勝への道はありません。2日目になると、木澤くん以外の選手も少し覚えたので、より慶應を応援する気持ちが増してきました。

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 継投に次ぐ継投で早稲田を1点に抑え込んだ8回、木澤くんの名前がコールされると、球場の空気が変わりました。ブルペンから軽い駆け足でマウンドに向かうその姿に、声を出せない観客たちの「きっとやってくれる」という期待が湧き上がってくるのを感じました。すごい感覚でした。

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 先発の時と異なり、木澤くんはほとんど吠えませんでした。ここまで繋いでくれた仲間たちの思いを無駄にするまいと、力強く丁寧なピッチングで、三者凡退の好投を見せてくれました。

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 9回も簡単に2アウトを取り、このまま慶應が勝つと思われたところで、1年生の熊田選手にレフト前ヒットを許してしまいます。二死一塁で迎えるのは、前日ツーランを打たれている左の蛭間選手。慶應の堀井監督は、これまで7試合を抑え、春には蛭間くんを見逃し三振に打ち取っている、2年生の左腕生井投手への交代を告げます。

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 マウンドを降りなければいけない木澤くんは、とんでもない場面を任された生井くんに何を伝えたのでしょうか。

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 エースらしく、野手にも声をかけてマウンドを降りる木澤くん。最後まで投げさせたかったという小さな呟きは、周囲からたくさん聞こえてきました。

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 この後、蛭間くんは前日と同じように大きくバットを振り抜いて、逆転のツーランホームランをバックスクリーンに叩き込みます。早稲田のピッチャーは早川くん、そのまま逃げ切り、慶應は土壇場で優勝を逃しました。

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 試合後、フラフラと立ち上がった木澤くんを、3年生のキャッチャー福井くんが支えている姿がありました。

 それでも、被弾の責任を感じて泣き崩れている生井くんを見つけた途端、表情を変え、笑顔で肩を抱いて笑いながら話しかける木澤くん。神宮の空気がまた変わりました。

 六大学の歴史に残る名勝負を繰り広げた選手たちに向け、立ち上がって拍手を送る人たちの、素晴らしい試合を見せてくれたことへの感謝が満ちていくのを感じました。

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 2日間の慶早戦。こんなに素晴らしい気概を持ったピッチャーが学生にいたことを知り、その彼が来季から東京ヤクルトスワローズに入団することの幸せを感じた2日間でした。

 木澤尚文くん、ようこそスワローズへ。今度は赤いピンストライプのユニフォームで神宮のマウンドに立つ姿を、心から楽しみに待っています。

 さ、背番号20のユニフォーム買わなくちゃ。

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