傘差してならんで歩くその距離に

傘なんて2~3歳くらいで使えるようになると思うんですが、うちの次男は4歳になっても5歳になっても断固として拒否していました。

もちろん使えるようになってほしくて、それはもう何度も声をかけました。雨の日の幼稚園の行き帰りは必ず彼の傘も持って。でもいつも差さないし、閉じた傘を持つことすら嫌がるから、傘はつねに私の手首。

何がストレスって、手首にかけた傘が濡れた地面にべちゃっと落ちるとき。かがんで拾うのも嫌だし、拾おうとして他の荷物までべちゃっと落ちてしまったときにはもう、ストレスゲージは一気に満たんです。

ある日の幼稚園からの帰り道、私の中でぷつっと糸が切れました。私に余裕がなくてきつい言い方になってしまったのでしょう、雨の中ぐずりだして動かなくなってしまった息子を抱え、子の傘どころか自分の傘も差せず、そんな日に限って持ち帰りの荷物はいっぱいで、手首にかけた傘たちは例によってべちゃっと地面に落ち。道行く誰かが見かねて声をかけてくれたけど自分がみじめすぎてまともに返事できなかった、ある雨の日に。


それ以来、傘を持たせようとがんばるのをやめました。

小学生になってからも昇降口まで送り迎えをしているので、雨の日は私の傘に入って登下校。たまに申し訳程度に声をかけてはいましたけど、「今日傘持っていく?」「いやっ!」「わかったよ」で即終了。幼稚園のときに買った傘は持ち出されることすらなくなりました。


1年生も終わりに近づいたある日、ふと傘立てで眠るその傘を見て、今の息子が持つには小さくなったなーと思って何気なく彼に言ったんです。「新しい傘買おっか」と。

いや確かにそう言ったんですけど、まったく本気の発言じゃなかったんです。心の中では「どーせ買っても使わないんでしょ」って。

でも息子は意外に食いついてきました。「新しい傘買う」「傘、何日に買いに行くの?」ずっと言ってくるので、日を決めて一緒に傘を買いに行きました。今回は無駄にならないといいなと願いながら。

買いに行った帰り道にさっそく雨がふってきたのですが、息子、買ったばかりの傘をちゃんと差せたんです!真剣な表情で、ちょっとぎこちない動作で。


その日以降何度か雨の日がありましたが、今のところ傘を拒否することはないし、それどころか雨が降っていない日は残念そうにすることも。

これはもう傘を使えるようになったと思っていいんだろうか、一過性のブームとかでなく。そうだとしたらめちゃくちゃうれしいんですが、ぬか喜びしたくなくていまだ警戒している自分もいます。


自分で傘を持ってくれるってなんて楽なんだろうって、当たり前のことに感動します。優雅な気分にすらなる。

そして、息子が自分の傘で少し離れて歩いていることに違和感というか少しくすぐったいような感覚があります。今までずっと、ひとつの傘でべったりくっついて歩いてたから。

なんだか急に一人前になったような、くすぐったい感覚。

わが子の成長を実感するとき、頼もしさとともに少し寂しさを感じたりすることがあると思いますが、私が彼に対してこういった感情を持ったのは初めてかもしれません。



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