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「私たちは介護経験の失敗を後悔する仲間だ」

 「私たちは介護経験の失敗を後悔する仲間だ」この文章を読んだとき、私はとても救われました。
あぁ、後悔しているのは私だけではないのだーそう思えただけで、どんなに心が軽くなったか。
「あれは仕方なかったのだ」、「そうするしかなかった」何度も自分に言い聞かせるけれど、消えない後悔。
「もう少しなんとか出来たのでは」、「取り返しがつかないことをした」ふとしたときに押し寄せてくる後悔。
親を介護し、看とるということは、後悔もセットでついてくるものなのかもしれません。
 
 「私たちは介護経験の失敗を後悔する仲間だ」この言葉は、認知症の母親を看取った娘が「私が母を殺した」と悩んでいるときに、在宅介護時に担当した医師が、その娘さんにかけた言葉です。
一緒に介護してきて、娘さんの介護を見てきたからこそ、言える言葉だと思いました。
実際娘さんは、一生懸命介護をされていたのだと思います。
ですが、つい怒鳴ってしまったり、死んでほしいと思ってしまった自分を、許せなかったのでしょう。
もしかしたら、実際殺そうと思ったことがあったのかもしれません。
そんなどうしようもできない思いで悩んでいるときに、一緒に母親の介護に関わってくれた担当医からのこの一言。
仲間だと言ってくれたことで、自分は一人ではないと実感でき、彼女も救われたと思います。
そしてこの話を読んだ私も、一緒に救われました。 
 
 私はすでに両親を介護し、看取っています。
父のことはお互い満足のいく看取りができたと思っていますが、やはり後悔はあります。
ですが、私がこの言葉に救われたのは、父よりも母への後悔でした。
私も「母を殺した」と思っていたからです。
私は母の在宅介護中に体調を崩し、ケアマネージャーの提案で母を病院に入院させてしまいました。
私はその当時、母との関係が悪く、心も病んでいましたが、母を入院させたくなかったのです。
それは一度母を入院させてしまうと、私が母を家に戻してあげることができなくなると感じていたからです。
その罪悪感とさまざまなことが重なり、精神的に追い詰められた私は、母の入院先にお見舞いに行くことが徐々にできなくなりました。
ほどなくして、全く母のところに行けなくなり、そこから1年ほど経った頃、母が危篤だと病院から連絡がありました。
1年振りに会った母は、もう意識がない状態でした。そのまま意識が戻らず、母は亡くなります。
私は母に対して、後悔すらできませんでした。
私には何もできなかった。
ただそれだけでした。
そして「私が母を殺した」と思っていました。
 
 私のダブルケアはひとりで闘っているような、ひとりで抱え込んでいたダブルケアでした。
仲間なんていません。
周りは全部敵でした。
それでも仲間だと言ってくれる「私たちは介護経験の失敗を後悔する仲間だ」を読み、私はやっと肩の力が抜けて、後悔すらする資格がないという思いから、後悔してもいいんだと思えるようになったのです。
 
《介護中のあなたへ》
 介護中には「本当にこの選択で良かったのか」という迷いが出ることがあります。
選択が限られていて時間のない中、頭の中は混乱しているのに、命に関わる選択を、ケアラーは迫られることがしばしばあります。
誰かに相談する時間さえ与えられず、決断しなければならないことがあります。
いつか、この選択を後悔するときが来るかもしれない。
そう思うと、心がつぶれそうになることもあります。
でも、大丈夫。
あなたが精一杯考えて、その人を思いやって出した決断は、間違いないです。
その決断を後悔したとしても、「私たちは介護経験の失敗を後悔する仲間だ」この言葉を思い出してください。
私たちは仲間なのですから。
 
《親を看取ったあなたへ》
 親を看取って、ふとした瞬間に襲ってくる「ああすればよかった」「別の方法が良かったのでは」という後悔や悲しみ。
これは看取りの経験をしていないと、わからない感覚でしょう。
後悔や悲しみを相手にわかってもらえず、はがゆい思いをすることがあるかもしれません。
話したことで傷ついてしまうこともあるかもしれません。 

人それぞれ、相手によっても、後悔や悲しみの感じ方は変わります。
この感覚を表現すると、ぽっかり心に穴が開く感じでしょうか。
このぽっかりと空いてしまった穴は、どうやっても埋めることはできません。
ぽっかりあいた穴は時間が経つと自然と埋まるものだと思う方がいるかもしれませんが、違います。
穴はそこにあって、時間をかけて形を変え、あることに慣れていく。
慣れるけど、ふとした瞬間に現れて涙することもある。
それだけなんです。
空いてしまった穴は、無理に埋めようと考えなくても良いのです。
ただ穴がぽっかり空いた仲間がいることだけは、知っていてほしいと思っています。


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