【フリー台本】霞む星
陰鬱一人用台本です。
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【利用規則】
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【台本】
星を眺めるのが好きだった。
マンションの屋上で眺める星は、何故だか近くに感じられた。
そんなもの、ただの錯覚なのに。
星の輝きに見惚れて、勘違いをしてしまった。
気づけば冷たい雨が降っていた。
重たい雲が空をすっかり覆ってしまって、星を隠してしまう。
それでも僕は、同じ場所から動けずにただただ立ち尽くす。
ずぶ濡れになっても、凍えても、どこにも行くアテはない。
こうしている間にも星は遠くへ遠くへと行ってしまうのに。
何度、あの星に手を伸ばしたのだろう。
届くわけがないのに。
星との距離が埋まることなど永遠にあり得ないのに。
僕はこの場所で、何を期待したのだろう。
打ち付ける雨は激しさを増すばかりだ。
これが全て矢だったらよかったのに。
全身を貫いて、僕をズタズタに引き裂いてくれればよかったのに。
そんな馬鹿らしいことすら考える。
いっそ、ここから飛び降りて仕舞えば僕も星になれるだろうか。
せめて、同じところへいけないかな。
なーんて。
そんなくだらないことを考えていたら、遠くの空から一筋の光が差し込んでいるのが見えた。
どこかで誰かが願ったのだろう。
分厚い雨雲に生じた切れ間から、星明かりが見えた。
ああ、そうか。
力があれば。
選ばれるような者ならば。
その資格があれば。
星は、空は応じるのか。
きっと、あの星明かりがここに注ぐことはない。
この先も、ずっと。
どうしてなのか、その理由も全て、頭の中では分かっている。
理解もできている。
けれど何故か、感情は置き去りにされていて。
その厄介なものが冷たい雨に濡れて、重くのしかかってくるようだ。
いつか、星は見えなくなるのだろう。
少しずつ開いていく距離が、時間が、そうさせるのだろうと容易に想像させた。
それを分かっていても尚、僕はここで星を眺め続けるのだろう。
どうしようもない莫迦だ。
さっさと諦めて仕舞えばいいのに。
執着なんてしなければいいのに。
分かっていた。
きっといつかは終わってしまうのかもしれないって。
だけど心のどこかでは、ずっと続くのかもしれないと、そう思っていた。
期待してしまっていた。
割り切れなかった。
諦められなかった。
だから。
だからこそ、こんなにも早くその時が来るなんて思ってもみなかった。
これから先、僕はいつか消えると分かっていながら、少しずつ霞んでいく星を眺めることになるのだろう。
そうしてふとしたときに、随分と星が見え難くなってしまったことに気付くのだ。
その頃には、この冷たい雨は雪に変わっているだろうか。
何もかも白く染めて、何もかもを奪っていくのだろうか。
それならそれでいい。
何もかもを奪い取って、僕ごと消し去ってくれ。
星が、完全に見えなくなる前に。
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