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Fairy tale from my soldier

Day 6 , Can meet many times

もうあの世界への行き方もわからないし、戻れないのかと思うと、切ない気持ちでいっぱいになったが、何に向かい合って、何を癒すべきなのか正体が判った私はご機嫌だった。小さい頃から結構切り替え早いなと感心すべき点である。

そんなことを思いながらも私は未練がましく、エコバッグにペットボトルとコロッケが入っていないのも再確認して、ドライヤーで髪の毛を乾かし、さっさと着替えてメイクをし、オンラインミーティングのために、資料を準備して趣味の部屋として使っているアトリエに向かった。

キネマも一緒に行くと言うので、先にドアを開けてアトリエに入れてあげた。彼女もこの部屋が大好きだ。
資料を整理してパソコンを開ける。開始まで割と時間ができてしまい、私はこんなすきま時間は「いつものお気に入り」で過ごすことにしている。

『集中による無意識領域の活性化』いわゆる『SAT channel』である。
これは瞑想などが苦手な人や、余計なことを考えてしまって、無になるなんてできなーい!と思っておられる方にはぜひ試していただきたいハウツーである。
やり方は至ってシンプル。普段身の回りにあるものを使ってでもできる。

まず座りやすい椅子に腰掛けたり、楽な姿勢を取ってリラックスする。横になっても構わない。好きな香りのアロマやお香を焚くとなお良いし、余裕があったら始まる前にハーブティをいただくのもオススメだ。
そして、目を閉じて、大きく深呼吸し、これから始まるファンタスティックアワーを『これは私への本日最大のエネルギー補給。私は許された。』と言って目をゆっくり開け一点を見つめる…。その許されたテンションを保ちつつ…。

私はいつものチャンネルに合わせると、そのアーティスティックな波長に口角が上がり、全身の力がふっと抜けた。どんどん引き込まれていくエンターテイメントな世界に私の感性は共鳴し、いつの間にか湧いてくるエネルギーを抑えきれないほど、笑が溢れ、いつしか高らかな笑い声をアトリエ内に響かせていた。

そのチャンネルとは、私の場合、まずパソコンの検索画面を開け、いつものサイトに行って『お笑い 爆笑 傑作』と入力すると、数々ヒットする、それだ。

ご存知だと思うが、気に入ったチャンネルは登録しておくと、優先的に出て来て効率いいのでオススメである。
私はこの10数分のSATによって、瞑想をした後の状態に近い体感を得られているのではないかと思っている。しかし、お笑いSATで注意しなければいけないのは、2時間以上見続けると、ボケ担当の芸人さんに憧れと尊敬を抱き、NSCに入学したいなんて思ってしまわないかという懸念だ。
スレスレのところでやめておきたいものである。

人によって合わせるチャンネルは違うと思うが、大切なのは
『我を忘れてのめり込み、終わった後、爽快感を得れるかどうか』
『こんなことをしてる場合じゃない、などと罪悪感を持たずにどれほど楽しめるか』
の、二点である。

私はすきま時間には、このお笑いSATを取り入れた方法で、無意識下の領域を活性化しているが、お笑いSATだけではなく、パッチワークや手芸をしていく現実SATもある。
共通して言えるのは、集中している間は他のことは考えておらず、幸福感が増して脳内がほんわかしてくる。それを感じ取った後のお仕事やスポーツなどはサクサク良い結果が出せる。とても冴えてくるということなのだ。

私はこれを、『SAT channel』と名付けたのである。
一周まわって、幸せはこんな身近にあったのねという『幸せの青い鳥』を、なんとなく英語化したものだ。

もうそろそろ、今日のSATを終了しようとした時、あなたへのオススメ♡に、禁断の『ローテンショントーク』で止まっている画面が紹介された。私は全神経がロックオンされ、まるで、指が、導かれるようにクリックしてしまった。
東京に来てから、私は、毎回同じ笑いをエンドレスに届けてくれていたYSKを見なくなり、魂が枯渇していたのだった。

もうオンラインミーティングまで時間が迫っているというのに、『ローテーショントークだけ、ここだけ見させてください神様!』と言って、見始めてしまった。
しかし、ウエストサイドストーリー風トークに移り、ジョニーが抱きかかえられる場面になった時、異変は起きた。

突然画面がYSKの名作『あっちこっち…』に変わったのだ。それも遠くからどこかの居間でブラウン管に映っている画面が私のパソコンに映し出されている。
そして、当時のマドンナY.Sさんがしびれを切らして大声を出し、赤ふんのK.Aさんが平泳ぎで出てきた瞬間、笑い転げる女の子が映ったのだ。

「ゆ、ゆうちゃん!!??」

私はガタンと立ち上がり、キネマもびっくりして顔をあげた。

「ゆっこちゃん!!??」

私のその声が聞こえたのか、ゆうちゃんはキョロキョロあたりを見回していた。

「ここここ!私にはゆうちゃんが見てるテレビが見えてるから、んーとんーと、この角度は…多分テレビの向かいの柱時計あたり見てみて!!」

ゆうちゃんはちょっと顔を上げて柱時計を見た。時計はガラスで覆われているので、そこに私が映っているのかもしれない!と思っていたら、

「ううううあああ!!!!ミケ...ちゃん!!ミケちゃんがいる!!!ミケちゃんミケちゃん!!!!」

と、ゆうちゃんが大きな声で言った。どうやら、私の後ろにいるキネマを見て行っているようだ。その声はすぐに泣き声に変わり
「ミケちゃん、あの時助けてあげられんくて、ほんまごめんな…うちが悪かってん。許してほしいミケちゃん…。」
と、泣きじゃくりながらそういうと、キネマはうーーんと背伸びをして私のパソコンの前まできて座り、画面に向かって大きな声で「にやん」と言った。そしてそのまま、画面に映るゆうちゃんからじっと目を離さず、しばらくしたら画面に顔をすりすりし始めたのである。

あの日....当時ミケちゃんは野良猫だった。ゆうちゃんは家に連れて入ると怒られるので、近所の公園にダンボールでお家を作り、ひっそりごはんをあげていた。が、半年くらい経ったとき、いつものように公園に行くと、シーソーで友達が遊んでいて、ミケはみんなに遊んでもらっていた。

ゆうちゃんは、初めて嫉妬という感情を抑えられなくなった。
ミケをとられたらどうしようと不安でいっぱいになり、あまり遊んだ事ない友達だったけど、シーソーまで行って一緒に遊ぼうと言った。
友達らはみんなで顔を合わせて、「いいよ。じゃあネコを抱っこして一緒にシーソーしよう。」と言った。ゆうちゃんはミケが絶対怖がるからイヤだと言おうと、顔を真っ赤にして近くまで行ってミケを抱っこした。
そしたらミケは何かを感じ取ったのか、いきなり手の中から飛び降りて、そのまま道路に飛び出したのだ。あっという間の出来事だった。

いつもはほとんど車なんて通らないのに、ミケが出た瞬間に黒い車が走ってきた。全てがスローモーションだった。でも奇跡が起きた。ミケはウソみたいにタイヤの手前で立ち止まったのだ。しかし車が去った後、ミケは前足を上げて三本足で歩きながら、ゆうちゃんのところまで戻って来た。
ゆうちゃんは急いで抱き上げると友達らに病院知っているか聞いた。
しかし友達らは全員「知らない」と言って去って行った。
ゆうちゃんは家まで抱っこして、母に病院に連れて行きたいと泣いて頼んだ。
しかし、野良猫といつの間に遊んでいたのかなど怒られ、野良猫を連れて行けるようなお金ないわ!と家に入れてもらえなかった。

夜遅く、公園でミケを抱っこしていると、ミケの母猫がやってきた。彼女はミケを見つけたのか、ゆうちゃんにすり寄ってきた。ゆうちゃんは持ってきた古いタオルのままミケをダンボールのお家に置くと、母猫はぺろぺろとミケをなめだした。

ミケは苦しそうな声を出していたけど、母猫が一緒に寝だしたので、少し安心したが、今度は父母揃って公園にゆうちゃんを迎えに来たので、ゆうちゃんは泣く泣く連れられて帰って行った。

翌朝、早起きして公園に行った。恐る恐るダンボールをみたら、そこには、母猫もミケもいなかった。

それから、どんなに探しても、どんなに待ち続けてもゆうちゃんの元にミケが帰って来ることはなかった。

「ゆっこちゃん、ありがとう。その猫ちゃんミケの生まれ変わりやと思うねん。」

ゆうちゃんはキネマと見つめ合いながら、そう言った。
私はキネマに対して、あの時のミケの生まれ変わりで私に逢いに来てくれたなんて、一度も思ったことなかった。
私はキネマを抱きしめて「探してくれて逢いに来てくれてありがとう」と言って泣いてしまった。

「いいなゆっこちゃん、うちも抱っこしたい!!」

「そやし大きくなったら抱っこできるやん笑!!」

私達は泣いて笑って大変だった。キネマは「ハイハイ。」みたいな感じでまたアトリエの自分の好きな場所に行って、お昼寝し出した。

「ゆうちゃん、私もう1回そっちに行きたいわ。」
「は?セロテープめくるし、戻って行ってしもたんやん!」
ゆうちゃんはそう言っていひひと笑った。

「うちはあれが欲しいどこ行きたいばっかりで、ここから未来に行くっていうお願いはしてなかってん。でも51歳の自分に会うってお願い書いたら、53歳のゆっこちゃんが洗面所に現れてん!」
「私が洗面所に行く前、長崎のおじいちゃんが私のこの世界に一瞬現れはってん。それとなにか関係ある??」
「えっおじいちゃんに会ったん?!」

ゆうちゃんは驚いた風におじいちゃんの事を聞いてきた。

「ゆっこちゃん!!過去の世界に戻るには、おじいちゃんが必要やねんわ!!どういうことかわかった!私もおじいちゃんにお願いしてみる!」
「でも、おじいちゃんは、ゆうちゃんには、おじいちゃんのことまだ見えないって言うてたよ??」
「そのおじいちゃんと違うおじいちゃんにお願いするの!!あかんーーー!!お母ちゃんがもうすぐバザーから帰って来るわ!見られたらヤバいから、また連絡する!」
「れ、連絡ってどうするの?!」

ゆうちゃんが映っていた画面が、またジョニーに切り替わった。ジョニーは「ま、こういうこっちゃ〜。」と言って起き上がった。

ポーンと音がして、オンラインミーティング参加のパスワード入力画面が出てきた。

進おじいちゃんと違うおじいちゃん…。

またなかなか渋い線を出してきたな…と私は思った。

続く


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