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言語化特訓のススメ

聞き手「50年後の自分に向けて、一言アドバイスをお願いします!!」

私「ご、50年後?? ぇえっ…とぉ〜」


自分の思っていることや考えていること、やりたいことを相手に伝えたい。なのに言葉が出てこないことがよくある。これはきっと私だけの経験ではないはず。いわゆる“うまく言語化できない”ジレンマだ。

こうなる原因は何だろうかとあれこれ考えてみた。そしていくつかの原因が思い浮かんだので、それぞれ解説してみる。のだが、その前にまず、読者の理解を助けるため言語化の仕組みを私なりに整理しておこうと思う。


言葉が生まれるまでのステップ

例えば今あなたが主となって進めている仕事や事業があったとして、そのビジョンや背景を誰かに説明することになったとしよう。きっとあなたはこう聞かれる。

 聞き手「この事業のビジョンについて教えてくださいますか?」

次の瞬間、あなたの頭にまず浮かぶのは具体的な言葉の数々…ではなく、ぼんやりとしたイメージや漠然とした感情の数々なのである。(あなたの目はあさっての方を見ていないだろうか。。まるでそのぼんやりとしたイメージを見つめるかのように)

これらのイメージが浮かぶと同時に頭の中では次々とそれらイメージを“言葉”に変える作業が始まるのだが、ここで苦戦するのである。口から発すべき言葉はなかなか生まれてこないのだ。仕方なく「え〜」とか「んー」と言った言葉を代わりに口から放って時間を稼ぐしかない。そうやって稼いだ非常に短い時間を使い、ようやくイメージから生まれた言葉をあなたは口から打ち出すのである。

整理すると言葉が生まれるまでのステップは次の3つ
1)イメージや感情など抽象的なものが思い浮かぶ
2)浮かんだイメージなどを表現するための言葉に変える
3)生まれた言葉を口を通して外に出す
という順になる。

こう考えると言語化とは実はかなり高度なことをやっているのだと気がつく。しかも一瞬で同時にだ。そしてこれを見ると言語化がうまくいかない原因もだいたい見当がついてくる。

以下に順に説明してみる。


うまく言語化できない理由その1 まずイメージや感情が浮かばない

これは致命的である。あなたは、人に何か尋ねられた時に頭が真っ白になったことはないだろうか?言語化しようにもその素が浮かばない状態だ。そんな状態で無理に言葉に変えようとしても「今、頭が真っ白です」か「わかりません」ぐらいにしかならない。

イメージが浮かばないのは才能がないからでは決してない、単にそれまでにイメージしたことがないからというだけのことである。冒頭の質問での場合、「50年後の自分」をイメージすることなど普通はそうない。だから浮かんでこない。「50年後の自分」像に対してアドバイスなんか出てくる訳がないのだ。

ではどうしたら良いのか。手っ取り早いのはイメージする機会を作ることである。前もって思いをはせておけば、次聞かれた時にはある程度イメージが浮かんでくるようになる。ただ、「50年後の自分」についてはどうかわからないが、ある程度自分の仕事や事業に熱意や関心があれば、そのビジョンや背景について自然とあれこれ思い描くものである。したがって、イメージや感情が浮かばないということが問題になることは稀であると思う。

一つ例外的に、単純にその事柄について知らないというケースもある。見たことも聞いたこともないものについてのイメージが湧くはずもない。旅先で別の観光客から道を聞かれても、目的地のイメージは浮かばない、というのがこのパターンだ。この場合はシンプルに「知らない」で良いのだ。


うまく言語化できない理由その2 言葉を知らない

イメージは思い浮かんでいる。湧き上がる感情がこの胸にある。なんなら私には今その絵が見えている。しかしそれを表現する言葉が見つからないというケースである。

「なんて言えばいいかわかんないんだけど、こんな感じ?みたいな??」
「もう私の頭の中のぞいて!!!」

である。

しかしこういった場合、実は言葉はちゃんと知っているのである。ただイメージと結びつけたことがないというケースがほとんどなのだ。つまり本当の問題は、イメージを思い浮かべたり、感情を抱いたりする“だけで終わってしまう”ことにある。

言葉が生まれるステップを再掲してみる
1)イメージや感情など抽象的なものが浮かぶ
2)浮かんだイメージなどを表現するための言葉に変える
3)生まれた言葉を口にだす

普段の生活では大抵が、1)で止まっている。これを改善するためには意識的に、3)までもっていく必要がある。声にして出す、あるいは文字に書き出すのでも良い。やってみればわかるのだが、頭の中でイメージするのとそれを体の外にまで出す作業は全く別物なのである。

そしてもう一つ大事なことは、この言葉との紐付け作業は多少時間をかけさえすればできてしまうのである。とっさに聞かれて“瞬間的に結びつける”のが至難の技なのである。

一人でブツブツとつぶやいてみるも良し、紙に書きなぐってみるも良し。そうして慣れてくれば必ずしも3)は必要ではなくなってくる。2)の言葉への変換ができるようになれば3)自体には難はないからだ。


うまく言語化できない理由その3 イメージの解像度が低い

実際のところ、上の2つまではやっている人が多いように思う。ブログやSNSでの発信もこれに含まれているからだ。にも関わらず言語化に苦しんでいる人が多いのはなぜか。その原因はこの3つ目にあるのだと思う。

言語化したいイメージの解像度が低い。
要するにボヤけているのである。

一枚の写真を渡されて、その内容を言葉だけで誰かに伝えたいとする。その時にまず大事なのは写真に何が写っているかがハッキリしているということだ。

「たくさんの人が写っている。それぞれ手に何か持っていて、みんな同じ方を向いている。多分みんな同じ色の服を着ている。」

私は実際にこんな具合の“ビジョン”を聞いたことがある。そしてその時私はこのビジョンの持ち主に聞いてみた。

「写っているたくさんの人たちは誰ですか?それぞれ手に持っているのは何ですか?」

この時は残念ながら、ほとんど明確な答えは返ってこなかった。理由は簡単で、ビジョンがボヤけていて当の本人にも見えなかったからだ。私がした質問に答えるためには、見ているビジョンの解像度をグググっと上げる必要がある。つまり「彼らは誰だ?持っているのは何だ?」と思いを巡らせることである。これでビジョンの解像度は上がり、細部まで見えるようになる。

しかしまだ大事な質問がもう一つ残っている。それは「なぜ?」である。
「なぜ彼らなのか?なぜそれを持っているのか?」
この「なぜ?」を足すことで、イメージにストーリー性や背景といった厚みが生まれてくる。

この時の根拠は聞き手にとっては実は何でも良いことが多い。ただ根拠があるというだけで説得力が増し、相手が理解しやすくなるのである。もちろんビジョンの持ち主にとっては根拠の内容が重要であることはいうまでもない。


うまく言語化できない理由その4 うまく表現しようとする

ここまでで、かなり詳細な言語化には成功しているはずである。しかし最後にもう一つ気をつけたいところがある。それは上手に伝えようとして、かえって難解な表現になったり誤解しやすい表現になってしまうことだ。言語化で文豪になる必要などない。

ここでもう一度言葉が生まれるステップを思い出してほしい
1)イメージや感情など抽象的なものが浮かぶ
2)浮かんだイメージなどを表現するための言葉に変える
3)生まれた言葉を口にだす

そして聞き手はこの逆の順でステップが進む
1)相手の言葉を耳でとらえる
2)とらえた言葉の意味を理解する
3)言葉の意味からイメージが生まれる

言語化の目的は話し手側の1)で浮かんだイメージと、聞き手側の3)で生まれるイメージを限りなく近づけることにある。そのためには、『果たしてこの言葉で相手にこのイメージが呼び起こされるだろうか』という視点が必要になる。ところがなぜか『うまい表現はないか』『難しい言葉で表現できないか』という謎のプロ思考に陥り、出来上がった巧妙な表現に自分だけが酔いしれることが多々あるのだ。この謎のプロ思考は言語化においては全く重要ではない。誰でも知っている平易な言葉かどうか、また勘違いしようのない的確な表現かどうかが大事なのである。

よくPR関連の記事などを読んでいると「小学5年生が読んでも分かるように書け」と書かれていたりする。これはメディアの記事を書いたり、あるいはその担当者にリリースを送る人たちへ向けられる言葉である。「小学5年生」の部分は伝えたい層に読み替えて問題ないが、それぐらいしないと伝わらないということである。

伝わらなければ、当然言語化はうまくいったとは思えるはずもない。

うまく言語化できたなと思える瞬間は、自分のイメージに限りなく近いものが相手の頭にも浮かんでいるなと感じられた瞬間であるべきなのだ。


言語化能力特訓メニュー

さて、長々と言語化がうまく行かない理由について書いてきた。では、どうすればうまく言語化できるようになるのか、特訓メニューを考えてみた。

1.言語化のチャンスを作る
  具体的にはイメージや感情、思ったことや感じたことを文字にする機会を増やす。声に出すだけでも良い、SNSやブログを使ってみるのも良い。とにかくイメージ→言語のチャンスを増やす。すでにできている人はこのステップは飛ばして良い。

2.5W1Hを補う
  必ず全てを補う必要はないが、相手に忠実にイメージを呼び起こさせるために必要な情報はできるだけ揃える。このステップで5W1Hはわかりやすい目安になるのだ。ただその中でもWhy(なぜ?)は必ず入れる。「なぜ?」という質問は、下手をすると無限ループ的に繰り返せるが、とりあえず自分が満足できるところまで掘り下げられればそれで良い。

3.一晩寝かせて完全に忘れ去る
  一度言語化した内容を頭からスッキリ内容を消すことができればベストだが、これは現実には不可能に近い。しかし、一晩放置すれば目的はおおむね果たせる。目的は“何も知らない人の目線”で内容を見る事にある。自分の書いたものを翌日に見直すと、表現のあちこちから違和感が溢れだしてくる。ややこしいい言い回しや、難しい表現、勘違いしてしまいそうな書き方、無駄に説明しすぎている箇所に気が付き、一体誰がこんなものを書いたんだと言いたくなる。もちろん訂正、修正する。

4.人に読ませる/聞かせる
  3までやっても、自分では気づけないところはどうしたって発生する。なので、実際に自分以外の誰かに読んだり聞いたりしてもらって、容赦無く「なぜ?」を突っ込んでもらうのだ。これには気の知れたパートナーが必要である。そしてパートナーは自分が何かを伝えたいクラスタに近いほど良い。

極論を言えば4を繰り返すだけでも良いのだが、経験上ある程度仕上がった状態で4を実践した方が当事者たちは幸せになれることが多い。


言語化特訓メニューの狙いは自分の持つ漠然としたものたちと同じく自分の知っている無数の言葉との間に正しいつながりを出来るだけ増やしておく事にある。

その意図をよく理解して以下のような簡易メニューに変えても良い。
1.とにかく言葉にする
2.足りない情報を足す
3.他人の目線で読んで推敲する
4.なぜ?で細部にズームする→1.へ

これを息を吸って吐くように自然とできるようになれば、あなたはすでに言語化の達人になっているだろう。とっさの質問にも、浮かぶイメージから正しいつながりによって紐づけられた言葉が口をついて出てくるのだ。

読者の言語化能力が少しでも向上することを願ってやまない。

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