うつろいゆく母娘

人は体裁よく生きる生き物だ。私の母もそうだ。明るく何事にも辛抱強く、家族を守り支えてきてくれた。私もそうだと思っていた。

その時が来るまでは…。

何十年も埋もれていた過去が白日のものに曝されるまでは…。平凡な家族を引き裂く悪魔を思い出すまでは…。あさこは子供達も巣立ち、私的な時間も増えた頃、遠くに結婚している姉から電話が入った。

姉とはとても仲が良く、いつも電話で何時間もバカな話をしていた。

そんな姉が「あさこには言ってなかったけど、昔あの男に…。」

姉はその男に小さな子供の頃に性被害を受けていたのだ。

その言葉を聞いた瞬間、あさこは、今まで忘れていた怒りか込み上げてきた。

酷い男だと思っていたけど、何て卑劣な最悪な奴。絶対に許さない!

あさこは、誓った。「あの男が死ぬまでに一言言ってやらないと!」

数日たった頃、偶然にも普段現れない場所に、あの悪魔がやって来た。あさこは、チャンスだ!体の中のマグマが大きくざわつくのが分かった。
あさこは、勇気を出して詰め寄った。私の姉に何をしたの?」

男は平然と「なんのこと?」と知らぬふりをした。立て続けに、「電話で聞いたわよ。あなたが姉にしたこと。絶対に許さないから!」

男はなんのことやら?とでも言いたげにいる。

「警察に訴えてやる!」

「言えばいいだろ。」

どうせ言いっこないとでも言いたげな男の態度に、あさこは、余計に腹が立った。

「早く死んでよ‼」
あさこは、渾身の力を込めて言い切った。

何十年も忘れたいと思っていた感情が一気に関を切ったよに溢れだした。

あさこは、すぐに母にも詰め寄った。

あの男にいってやった。どうして母親なのに子供を守らないの?あのとき(昔)言ったじゃない‼」
母は話をはぐらかした。
あさこは、「違うでしょ?今はその話してるんじゃ…。」

母はそうだ。いつも現実を見ない。まるで他人事。あさこは、さらに追い詰められてゆく。

その日から母とは口も聞いていない。

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