衡平な選択⑮

【もう1つの世界】

  KEIはへとへとになりながら、北京国際空港からタクシーに乗った。まさか、あんなことがあるなんて。北京第一病院に着くと、KEIはふと立ち止まった。そういえばあの壁どうやって開くんだ?受付に言って聞いてみる。なんと聞こうか?
「あの…… 西太后さんはいますか?」
「西太后?お名前は?」
「KEIと言います」
「あ~少々お待ちを」
 少しすると、この前の壮年の男性が出迎えてくれた。
「お待たせしました。どうぞこちらへ」
 最上階まで登ると、例の壁が開く。中を覗くと、時を操る魔女がやはり寝ていた。
「xxxxxxxxxxx」
 男性が何やら語り掛ける。すると彼女は目を覚ました。
「なんじゃ、おまえさまがたこんなあけがたに」
 時刻は昼を回っていた。
「あの、元の世界に帰りたいんですけど、その1日前に」
「もとのせかい?はて」
 KEIは一から説明する。
「ああ、あのくろふくろうのことか。それでおまえさまはどちらのせかいにかえりたいんじゃ?一つはSDGsが達成された世界。もう一つはSDGsが達成されなかった世界」
 前も聞かれたような気がするが、NANOとALICEのいない世界に価値などなかった。
「そうじゃな、そうじゃな。おまえさまのようなものがおるから、あやつはなんどもくりかえしてるのじゃな」
「えっ?どういうことですか」
「いや、きにせんでもよい。ごくろうであった。それい」
 あの、話の途中だったんですけど。あたりを見回すと、そこはKEIの住処がみえる。
あれ、時を操る魔女は時間を操るだけじゃなかったのか?すると、住処から誰かが出てくる。咄嗟に物陰に隠れる。すると、出てきたのはKEIだった。なるほど、これからダイヤを売りに行くんだ。ということは成功したってことか。KEIは急いで住処に入り、二人を起こす。
「NANO、ALICE。起きるんだ。今日誰かが襲ってくるんだ」
 う~んと身体を起こす二人に、事情を説明する。ダイヤを売った件でALICEの怒りが高まったが、何とか宥めた。
「えっと金貰ったの?」

 NANOの眠たそうな問いかけに金塊を見せる。
「「おお~!」」
 二人はようやく目が覚めたようだ。
「まずは、この金で朝ごはん食べようぜ」
「私、パンケーキがいいな~」
 ことの重大さを分かっていないようだが、オオミヤに行けばやり過ごせるか。
「じゃぁ、とりあえず服を着てくれ」
 オオミヤに着くと三人は金塊を換金しに、困った時のの何でも屋に入った。
「お~KEI、なにがいいものはあったか」
 店のおやじが出てくる。やはり商売は機械相手より人の方がいい。
「これ金なんだけど、どうかな?」
「ほ~これは高額すぎてうちでは買い取れんな。売上の5%で買い取り先を紹介してやるぞ」
 ということは百万以上か、もしかすると2倍3倍ということもあり得る。
「おじさま、サービスしてあげるから1%にしてくれない?」
「はっはっは、私が捕まっちまうよおじょうちゃん」
「じゃぁ、おやじさん、5%と20万のうち高いほうならどうだい?」
 NANOが切り返す。
「ああ、わらわゃかまわんよ」
 店のおやじが不適な笑みを浮かべる。
「おやじさん、ありがとう。また来るよ」
 そう言ってNANOは踵を返した。
「おい、NANO」
 慌てて追いかける2人。
「どうしたんだ?一体?」
「あの感じだと、これは四○○万以上の価値がある。そして仲介業者に売る  よりはエンドユーザーに売る方が、高く売れる」
「それじゃ、オークションってことね!」
 ALICEが楽しそうだ。
「だけど、未成年だと保護者の同意書が必要だし、高額取引だと登録料も馬鹿にならない」
「KEI、中国籍のパスポートがあるだろ。それで同意書を作ろう。支払いは落札価格から行うとして、担保は俺たちにしよう」
「いざとなったら、私がこの力でなんとかやってやるわよ」
 本当にこの二人は頼もしい。しかし、この二人を手にかけた奴は一体?
 オークション会場には人間はKEI達しかいない。あとは映像のアバターが立ち並んでいるだけだ。半透明なので、後部座席からでも商品が良く見える。ドローンなどのハードウェアはもちろん、アプリや不動産の権利までも売られている。そこにKEI達の金塊が現れた。特に珍しいものではない。百万円からスタートが始まった。
「こちらは18金百グラムになっております」
 アナウンスが流れる。すると会場がざわめき、二〇〇万円、三〇〇万円と価格が上がっていった。NANOが満足気な顔をしている。ここで五百万円と急に価格が高騰した。

 横を見るとALICEがエネフォンを片手にニヤニヤしている。おいおいちょっと待てよ。こっちが落札したら破産しちまうぞ。すると、六百万円のサインが表示された。それからも徐々に数字が上がっていき、終了のアナウンスが流れ出したとき、金塊がふわっと浮いてクルクルと回り着地した。そのとき、一千万円のサインが付き落札となった。本当に心強い。
 それから、3人はブランチを食べながら、今後のことを話した。 

プラン1養子になる。

施設を出た子は原則、奴隷として引き取られるが、まれに養子として引き取ってくれることもある。三百万円の持参金があれば養子にしてくれるかもしれない。しかし、3人は離れ離れになってしまう。


プラン2  3人で二〇二〇年に行く。

過去の施設では一五歳まで施設にいられることができる。ただ、西太后が過去に再び戻してくれる保証がない。何しろ、交渉材料がないのだ。

プラン3今までの生活を続ける。

もっとも簡単な方法ではあるが、貧しくて飢えて不健康で不衛生な生活が持続可能とは思
えない。SDGsのことを思い出す。SDGsが達成できた世界に行くべきだったのか。
「それにしてもね~私がレイプされるなんて到底思いもつかないわ」
「俺もALICEを置いて逃げることなんて簡単だけどな」
 ぺちゃ。生クリームがNANOの鼻先につく。
「もうセックスしてあげないんだからね」
「それしか言えんのか、おまいは」
疑問点に再び戻ってくる。確かにそうなんだよな。というか今回の件は分からないことが多すぎる。
「そもそもさ、話ができすぎてない?小説じゃないんだからそんなご都合主義的なことないでしょ」
「順に考えていこう。まず、風に舞った向日葵を手に取ろうとしてKEIはKと出会ったんだな。そして、能力を強くしてもらった。で、中国に行くわけだが、国務院への突入は無謀すぎないか?殺されてもおかしくなかったぞ。それに国務院の対応がおかしい。なんで親切に、その楊貴妃だかなんかの場所を教えてくれたんだ?普通ならKと国務院、時間を操る魔女がグルだったと考えるのが自然だ。そして、KはなぜそんなにSDGsについて詳しい?まるで二〇三〇年を体験したようじゃないか」
 ALICEとNANOに突っ込まれてKEIは冷静に考える。
「Kに電話してみれば?」
 ALICEが何でもないことのようにエネフォンを手渡してくる。これは今電話をかけたらどうなるんだ?Kは二〇二〇年に残ったままのはずだ。しかし、同時に今日、KはKEIと出会うはずだ。ぐうぜんの向日葵を媒介として。Kの番号をプッシュする。すぐに電話が通じる。
「もしもし、Kか?」
「ああそうだ、お前は誰だ」
「KEIだ。二〇二〇年で別れた」
「あぁ、うまくやってるか?」
「税関で金の持ち込みが税金かかるなんて知らなかったよ。汚職国家じゃなけりゃ捕まる
ところだった」
「それは大変だったな」
「最初から全部知ってたのか?」
「ストーリーがないとキャラクターは動かない。自分の人生をA4一枚に圧縮して交換しても愛は芽生えない。ものごとが自然に進むことが大事なんだ」
「それにしてはずいぶん不自然だったぞ。ところでいまお前はどこにいるんだ?」
「悪いな。そろそろ行かなければいけない」
そう言ってKとの電話は途切れた。これがKとの最後の会話となった。エネフォンをALICEに返す。
「これはあれよね」
「あれだな」
「ねぇ、KEI。私達本当に襲われたのかな」
「おまえ、ちゃんと確かめなかっただろ?」
「そんなこと言っても血が出てたし、ナイフが刺さってたし」
「血なんて言っても成分検査したわけじゃないし、ナイフだって取っ手を私の力でNANOに固定することなんて容易いわ」
え?それじゃぁ。
「じゃぁ、これから準備しましょ。あなたを騙すために。3人で仲良くね」


二一〇〇年の世界では多くの仕事が機械にとって変わられていた。だが、まだまだ人間が介する必要のある仕事は多かった。接客などの人と対面する仕事は未だに機械より人が行うことを好む者は多かった。介護、看護、水商売などは業務効率向上に機械が用いられることがあっても、完全に人に置き換わることはないだろう。逆に、人間が行うことがブランディングになり、高所得者には人気だった。
 今やニュースも小説もほとんどを機械が書いている。人間ができるのはそれを元にした意見交換だった。3人は各新聞社や出版社に連絡を取っていた。KEIの時間旅行を始
めとした様々な体験が価値があるのではないかと考えたからだ。残念ながら、どれも信憑性がないとして一周された。KEIはKの言葉を思い出していた。

「ストーリーがないとキャラクターは動かない」
「NANO、ALICE。奇を衒った話じゃだめなんだ。もっとシンプルなストーリー。俺達の現状を書こう」
 3人がそれぞれ施設を逃げ出し、今日まで生きてきたこと。日々の暮らしを世界に伝えていこう。KEIはそう2人に提案した。つまりプラン3だ。プラン1もプラン2も自分達でリスクをコントロールすることはできない。だったら、
「たとえ途中で野たれ死のうとも、俺達が生きた証を残していこう。それを見た施設の子達の中で人生を謳歌してくれる子達がいるかもしれない。それに上手くいけば誰かが目をかけてくれるかも知れない」
「逃亡者が情報発信をする、ね~。ずいぶんマゾヒズムが過ぎることだ。もっとも施設は15歳まで俺達を保護する義務があるんだから、法律違反しているわけじゃないんだけどな」
 NANOが答えてくれる。
「私は苦労するのは嫌よ。あんたたちしっかり働きなさいよね」
 ALICEが答えてくれる。
 3人の気持ちは1つだった。
 3人のサバイバルブログは話題となり、とある芸能事務所から声がかかる。それは川口満穂が設立したものだった。


【佐藤遥とK】
 ピコン。Kのスマホが音を鳴らす。メールをチェックすると、超能力研究会の掲示板から誰かがメールを送ったらしい。その書き込みを見ると、Kは次のように返信した。
「あなたが孤独に押しつぶされる前に連絡を頂き、ありがとうございます。よろしければ一度直接お会いしてお話し伺えればと思います。都内在住K」
 そして、一週間後に新宿駅で会うこととなった。
「なんじゃ、おまえさま。おなごからのでんわか?」
「大丈夫だ。気にするな。KEI、続きをやろう」
 年明けの新宿は普段と比べると人込みが少ない気がする。受験勉強で家に籠るもの、有給で冬休みを伸ばしているもの、西口のオフィス街はもう少し混んでいるのだろうか。しかしながら、東口の喫煙所は盛況だ。今日日、大手振るって堂々と煙草を吸える場所は少ない。
「もう、なんでこんなところ選んだのよ、K。洋服に煙草の匂いがついちゃうじゃない」
 くるみちゃんは、今日はレースの襟にピンク色と黒色のワンピースを着ている。細部には白色でリスの刺繍が施されている。対してKはいつも通り、黒のサングラス、黒のニット、黒のコートである。
「匂いというのは、人を引き寄せる力がある。屋台の焼きそばを見ると、焼きそばが好きでもないのに食べたくなるだろう。それと同じことだ」
「ふ~ん、ところで満穂ちゃんといい、今回の子といい、あんた最近もってるわね」
 そこに黒のダッフルコートを着た女性が現れた。あたりをキョロキョロ見回しているが、どうもくるみちゃんの恰好が気になるようだ。
「あなたですね。こんにちは。Kと申します」
「あ、こんにちは。なんで私だと分かったんですか」
「分かりますよ。あなたは特殊な人間だ。こちら側の人間ですよ、ね?」
 女性は少し怯えたような表情を見せる。
「はい、はる…… Hと申します。よろしくお願いします」
 3人は事務所に着くと、ヒーリングミュージックが流れている。てんがいるのだ。ひとしきり自己紹介を済ませる。
「あなたは能力を制御できていない。あなたはこの能力を使いたいですか?それとも元の生活に戻りたいですか?」
「わたしは...... 普通の生活を送りたいです」
「では、簡単なことです。『私達と今日出会ったことをなかったことにしてください』これがあなたの代償となります。これであなたの能力は抑えたままにできます」
「えっ?そんな簡単なことで...... ?」
「はい、帰り道は分かりますか?」

「は、ありがとうございました」
 女性が背を向ける。ドアに手をかけると顔だけ3人の方に向けた。
「あの、勘違いかもしれないんですけど、どこかで会ったことありますか?」
「いえ、勘違いでしょう。今後会うこともないと思います」
 そうKが答えると、女性は少し寂しそうな顔をして去っていった。
「いいの~K?今回の子は当たりだったんじゃないの?」
「ああ、満穂の能力だけで大丈夫だ」
「まほほん、サイン忘れずに貰ってきてくれるかな?」
 3人は閉じられた扉をしばらく眺めていた。
 遥が犠牲になった時間軸では、遥は死ぬまで幸喜のことを想い続けた。この別れは、遥とKが二度と出会わないという永遠の別れを意味した。
「遥…… さよなら」
 翌日、KはKEIに電話を掛けた。
「仕事は終わりだ。ご苦労だった」
「えっ?遥さんは大丈夫だったのか?」
「ああ。とりあえずはな。帰る前に金をできるだけ買っておくといい」
 そう言うと、Kは電話を切った。
 佐藤遥はその後、奇妙な現象に悩まされることはなくなった。バレンタインの日に椎名智也の自宅を訪ねるが、誰も出迎えてはくれず、玄関の前に手紙と共に包みを置いて帰ってきた。これが遥と智也の関わりの最後だった。相変わらず、智也は校内外で複数の女性と一緒にいるところが目撃されていたが、遥は耳をふさぐことしかできなかった。
 もうすぐ春休みに入ろうかとしている、とある下校途中、背後から声をかけられた。
「佐藤遥さんですか?ライターの御手洗と申します。少しお時間よろしいですか?」
 話を聞いてみると、例の列車内での奇妙な現象についてだった。しかし、遥はどう説明したらいいのか分からない。超能力研究会の話はすることはできない。
「ちょっと分からないです。人違いなんじゃないですか?」
「そうですかね。あなたがこの物体を撒き散らしたところを目撃したという人物がいるのですが」
 智也だ。遥は瞬時に察する。
「これは科学技術ですか?それとも超能力のようなものですか?他にもこういうことができる方はいるんですか?」
「知りません。放っておいてください」
 そう言うと遥は駆け出した。そんなことでは逃げられないと知らずに。そのライターは定期的に現れた。しかし、どこの誰かも分からないし、家族や警察にも相談できなかった。しかし、あるときからふっと現れなくなった。まるで誰かがこの世界から消し去ってくれたかのように。
 それからの遥の生活は至って普通だった。大学受験を迎え、第一志望校には落ちるものの、都内の名の知れた私立大学に合格し、文学部に入学した。在学中は父のアルコール中毒からの脱却を補助し、父は再び筆を取るようになった。最初の復帰作の表紙を遥が描いた。モチーフは梟である。しかし、それが彼女の遺作となった。彼女は不慮の交通事故に遭い、この世を去ってしまう。
 そして二〇三〇年。温室効果ガスの削減目標を含むパリ協定とSDGsの達成は失敗した。満穂の呼びかけは短期間的なものであり、二〇三〇年までのモチベーションの維持に繋がらなかったのである。
 こうして元の世界と対して変わらない二一〇〇年を迎えた。Kのエネフォンに電話がかかってきた。
「もしもし、Kか?」
「ああそうだ、お前は誰だ」
「KEIだ。二〇二〇年で別れた」
「あぁ、うまくやってるか?」
「税関で金の持ち込みが税金かかるなんて知らなかったよ。汚職国家じゃなけりゃ捕まるところだった」
「それは大変だったな」
「最初から全部知ってたのか?」
「ストーリーがないとキャラクターは動かない。自分の人生をA4一枚に圧縮して交換しても愛は芽生えない。ものごとが自然に進むことが大事なんだ」
「それにしてはずいぶん不自然だったぞ。ところでいまお前はどこにいるんだ?」
「悪いな。そろそろ行かなければいけない」
 そう言うとKは電話を切った。
「大丈夫ですか?」
 Kの傍らの少女が尋ねる。
「ああ、大丈夫だ。それよりきみの『世界を愛させる能力』には期待してるよ」
「そんなたいそうな能力じゃないですよ。良い感じの二人をくっつけるだけですよ」
「それはくるみちゃんの力で大きくなるから大丈夫だ。じゃぁ、行くぞ」
 Kはこれまでも過去へのタイムスリップを何度も繰り返してきた。そしてこれからも何度でも繰り返し続ける。持続可能な社会のため、そして遥を救うため。
「運命を操る魔女は相当な頑固者のようだ。まぁ、私は諦めないがね」
 街中にはBGMが流れている。
「プリーズプリーズ一人にしないで置いていかないで私を」
 二〇年代の懐メロを聞きながら、二人はその場を後にした。ミュージックの後にはニュースが流れる。それは1人の女性演出家が国から表彰されたというものだった。従来、表現というものは政府に相反するものがあった。それを政府広報としてのエンタメにしたてあげた女性演出家として彼女は知られていた。その彼女がアイドル時代に唯一センターを踊った曲が先ほど流れた曲だった。


【フィナーレ】

  音楽業界の不況は続くばかりである。それは必ずしも違法ダウンロードが原因というわけではない。公式の配信サイトやライブ、握手会などへと価値が移行しているのである。モノから体験に。そんな代表格とも言える有名アイドルグループのライブが新潟のイベントホールで行われている。
「会いたっくて、会いたっくて、会いたっくて、あなたに~」
 会場が盛り上がる中で一人の袴姿の女性が入ってくる。
「遅くなってごめんなさい!川口満穂!本日大学を卒業しました~!」
 会場が一層盛り上がる。
「そして、大好きなこのグループからも卒業しま~す!」
まほほん。辞めないで。ずっと応援してるよ。様々な掛け声が聞こえる。
「私は、これからこういう空間を、組織をもっともっと作っていきたいです。男性も女性も演者にも応援者にもなれる時代を作っていきましょう!では、聞いてください。『あなたと共にいつまでも』」。
「プリーズプリーズ一人にしないで置いていかないで私をプリーズプリーズ一人にしないで置いていかないであの子を私がどんな人でも構わないでしょあの子がどんな人でも気にしないでねあなたの中で生まれんだからあなたを大切にしていきたいのいつまでもあなたとともにいつまでも」
 黒のニット帽に黒のコート、黒のサングラスを掛けた男がイベントホールの傍で佇んでいる。周りには、チケットを買えなかったファンがライブ配信されてるスマホを片手に掛け声をかけたり、販売されているグッズを購入したりしている。
 男は踵を返すと、その場を後にし、喧騒の中へと消えていった。黒梟の旅は終わらない。今日もまたどこかで獲物を狙っている。そして、獲物に甘い言葉を囁くのだ。あなたは特別だ。あなたには才能がある。囁かれたものは自尊心をくすぐられ、代償を厭わず、その能力を使う権利を行使してしまう。だが、社会とはそういうものだ。才能を自他問わず認められたものが、その能力を活かし、社会を支えている。能力を眠らせておくことは、社会の損失である。ただ、一方でそれが個人の幸福を最大化する保証はない。
 黒梟は囁く。持続可能な社会のために。まるで誰かにそれを命じられているかのように。悲喜交々の声が上がる中、黒梟は翼を広げ舞い上がる

まだま若輩者ではございますが。皆さんの期待に応えられるように頑張ります(*'ω'*)