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『アメリカはなぜ日本より豊かなのか』     全文公開:第7章の6

 『アメリカはなぜ日本より豊かなのか』(幻冬舎新書)が8月28日に刊行されました。
 これは、第7章の6全文公開です。

6 ローマは非寛容になって衰退した。アメリカは? 

寛容性を失いかけているアメリカ

 第5章の3で述べたように、古代ローマは、寛容政策によって繁栄した。しかし、いつまでもそれが続いたわけではない。4世紀の末頃から、ローマ帝国に排他的感情が急速に広がったのだ。これは、ローマ帝国を急速に変質させた。そして、ローマ帝国は崩壊したのである。
 「同じことがアメリカでも起きるのではないか?」との懸念を持つ人々がいる。エイミー・チュアは、アメリカの寛容性を賞賛した後で、「今日のアメリカは、その寛容さを失いかけている」と言っている。
 トランプ氏が2016年にアメリカ大統領に就任して、この懸念がさらに広がった。トランプ氏は、実際に人種的非寛容政策を進めたからだ。
 アメリカのIT産業における外国人の就労は、「H ― 1Bビザ」によって支えられるところが大きかった。これは、特殊技能職に認められる就労ビザだ。ところが、その発給が厳しくなった。とりわけ、イスラム圏の人々を排除しようとする動きが顕著だった。
 これまで述べてきたように、才能を持った多くの人々がアメリカに集積したことの効果は、きわめて大きかった。そうした効果が排他政策によって阻害されてしまえば、有能な人々がアメリカに集まらなくなる。
 そして、アメリカの基礎技術開発力の最も重要な部分が失われることになるだろう。
 アメリカの文化は、多様性の尊重の中から生まれてきた。そのような文化を否定することは、アメリカの社会の基本を否定することになる。これはアメリカにとって深刻な事態だ。

アメリカの強さを支える基礎条件を捨て去る
 アメリカの強さの基盤が多様性の容認であることは間違いない。さまざまな人種的偏見を排除し、他国からの移民を受け入れることが、アメリカの強さの基本的な原因になってきた。
 一方で、トランプ氏がこのような多様性を捨て去ろうとしていることも間違いない。
 トランプ氏は、「アメリカの利益のために」とか、「強いアメリカを再現する」と言っているが、実際に第一次政権で行なったのは、全く逆に、アメリカを弱くする政策であったのだ。
 そして仮に第二次トランプ政権が成立すれば、その方向をさらに強めることも間違いない。こうしたことは、単にアメリカ国民に不利益をもたらすだけでなく、世界のさまざまな国民に不利益をもたらす。なぜこんなことが起きるのか、誠に不合理なことだとしか思えない。


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