アメリカ並みの「無条件納税猶予」を宣言し、連鎖倒産を食い止めよ
アメリカ政府は、18日、33兆円もの規模の納税猶予を決定した。売上げ急減で資金繰りが急迫し、連鎖倒産が生じる危機への対策だ。日本では危機意識が薄すぎる。
◇ 行動制限で売上げが急減
コロナウィルスに伴う経済的コストの大部分は、感染拡大防止のために人々の移動や集会を制限することによって生じる。
日本でも、すでにそれがはっきりと表れている。
まず、各航空会社が減便で収入が激減している。百貨店や小売店の売上も激減している。
自営業やフリーランサーでも、損失が既に発生している。今後は、損失がさらに拡大する可能性がある。
今後、大規模な世界的スポーツイベントを中止または延期せざるを得ない状況が想像される。
その場合には、多くの事業者が予定していた収入が得られなくなる。資金不足は、直接の事業者だけでなく、関連の人々に波及し、大混乱が生じる危険がある。
いま政府・日銀が全力をあげるべきは、資金繰り対策だ。つまり、流動性の確保(マネー の流れを止めないこと)である。
社債やCPの購入も考えられるが、これらは、大企業、それも優良企業でないと発行できない。
資金繰りに苦しむのは、ずっと広範囲の企業だ。
資金繰り対策として公的金融機関などによる緊急融資が始まるが、それだけでは十分でない。
個人事業者、フリーランサー、企業の業績悪化で今後解雇される可能性がある雇用者も対象とする必要がある。
◇一刻も早く納税猶予宣言を
現在の経済異常事態で、一刻も早く必要とされるのは、納税猶予だ。
緊急の措置として、申請なしに無条件で認める必要がある。
最初は、4月16日が期限の所得税と消費税。時間の余裕はあまりない。
つぎに、3月決算企業の法人税や消費税などが5月末が期限。
以後、事態の推移を見て、地方税にも拡張する。
さらに、源泉所得税の納税も延期し、企業は源泉徴収前の給与を従業員に支払う。
2018年において、給与所得者 1人当たりの源泉税額は約25万円(給与の約5%)。仮にこれが1年間猶予されれば、すべてのサラリーマンに1人当たり25万円の 緊急融資 がなされるのと同じことになる。
また、健康保険料や健康保険税、また年金保険料などの社会保険料に拡大することも考えられる。
年金は運営主体が国だし、積立金もある。健康保険は運営主体がさまざまなので容易でないが、必要性は高い。社会保障負担 は、所得税負担よりはるかに重い。
なお、地方税や社会保険料については、国が財源措置を講じる。
ここまで拡大すれば、多くの人が救われる。
これは異例の措置だが、それによって連鎖倒産を食い止め、この非常事態を乗り切ることが必要だ。
◇ 現在の納税猶予措置ではまったく不十分
国税庁は、3月13日の通達で、納税猶予 措置を示している。
しかし、これは、本人や家族が感染した個人や、従業員が感染して消毒で設備や商品が使えなくなった場合や、感染拡大の影響で利益が激減した場合などに限定されたものだ。
申請が必要で、まず税務署に電話で相談する。
これは、従来からある納税猶予 措置の枠内のもので、まったく不十分。
「すべての納税者を対象とした一般的措置」「申請なし」「無条件」が必要だ。
後で述べるアメリカの措置は、こうしたものだ。
同じく納税猶予という言葉を使っても、内容には、日米で雲泥の差がある。
◇ 国は自ら腰を上げる必要
日本政府は、電気、ガス、電話などの公共料金の支払い猶予を事業者らに要請している。
しかし、この程度の規模では、焼け石に水だ。
しかも、政府が行なわずに事業者に依頼するという腰の引けたことでは、問題は解決できない。
いまは、公共料金の支払い猶予などという悠長なことを言っている時ではない。国が自ら腰を上げなければならない。
◇ 緊急時を乗り切るためには異常な政策が必要
異常時には、一見異常に見えるが、実行可能で健全な 施策が必要だ。
事態はいつかは回復する。異常期間には、わずかな減税(または給付)ではなく、巨額の猶予こそが必要なのだ。
政府+日銀だけが、このような巨額の支払い猶予をファイナンスできる。これは 減税ではないので、必ず取り戻せる。租税債権は最も強い債権だ。
◇ 事務手続きを軽減
無条件で一律の納税猶予は、宣言さえすれば、直ちに効果を発揮する。
緊急融資も重要だが、申請・審査に時間がかかり、現場に事務負担を強いる。
消費税を減税すれば、商店などの現場は大混乱に陥るし、一般の取引も混乱する。いま現場に過剰な事務負担を課すべきではない。
それに、減税しても消費は増えないだろう。なぜなら、集会や移動を自粛せよと要請しているのだから。これによって消費が減少しているのが、問題の本質だ。
時間は切迫している。連鎖倒産・破産が始まってからでは手遅れになる。
◇ アメリカは、巨額の納税延期を決定
米財務省は、すべての個人納税者は百万ドルまで、企業は千万ドルまでの税を、7月まで納税延期できると発表した。
手続きは確定申告するだけ。これで、総額3000億ドル(約33兆円)の流動性が確保されると、上記の発表文に明記してある。
日本で 納税猶予 といっているのは、コロナで損失が生じた場合と感染者のみの限定的措置。
アメリカの納税猶予は、すべての納税者。
必要なのは、アメリカ並みの措置。
これから、日本のあらゆるところで、流動性不足(資金ショート)のための連鎖倒産地獄が発生する。その中で、日本政府は巨額の流動性を経済から引き上げようとしている。これは、信じられないようなことだ。
アメリカが何をやっているか、見る必要がある。
アメリカがなぜ素早く決断したか、考える必要がある。
アメリカが33兆円もの規模の納税猶予を決定して経済危機に対処しようとしているのに、日本政府の危機意識は弱い。アメリカがなぜこれほど巨額の措置を決めたのかを、理解できていないのではあるまいか?