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『日本の税は不公平』全文公開:    第1章の3

『日本の税は不公平』(PHP新書)が3月27日に刊行されました。
これは、第1章の3全文公開です。

3 裏金問題は、脱税問題ではないのか?

キックバック収入:個人が受け取ったのなら雑所得

 パーティー券売り上げのキックバック収入は、税務上どう扱うべきか?      それを考えるには、まず、キックバックを受け取ったのが、政治家個人だったのか、それとも、その政治家の資金管理団体だったのかを知る必要がある。
 授受の実態がどうであったかは、本稿執筆時点では必ずしも明らかにされてしていない。
 政治資金のやりとりは、資金管理団体によって行なわれるべきだが、政治家が、その管理する資金管理団体を通さず、個人として、資金を受け取ることはありうる。キャッシュバックという裏金については、とくにそうだ。現金のやり取りが行なわれた場合は、その可能性がとくに高いと考えられる。
 個人が受け取ったのであれば、すでに述べたように、雑所得だ。キックバック収入の多くは、これに該当するのではないだろうか?
 なお、政治家個人に対する寄付は違法である場合もあるが、違法に得た所得であっても申告の義務がある。たとえは悪いが、泥棒で金品を得るのは違法だが、だからと言って申告しなくてよいということにはならない。

資金管理団体が受け取った場合:「確実に公益目的」と言えるか?

 キックバック収入については、派閥から、「資金収支報告書に記載しなくていい」と言われたと報道されている。
 政治資金であれば記載する必要があるのだから、「記載しなくていい」というのは、「政治資金ではない」という意味だと解釈せざるを得ない。
 相続税法第21条の3第1項第3号では、「寄附収入は、公益を目的とする事業を行う者が贈与により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なものについては非課税」としている。「確実なもの」と限定していることに注意が必要だ。「資金収支報告書に記載しなくてよい」というのでは、公益を目的とする事業の用に供することが確実とは到底言えないだろう。
 したがって、これは課税所得だと考えられる。そうであれば、税務申告する必要がある。今回、検察は、国会議員では3人だけを起訴して捜査終結としたが、残りのキックバック受領者にも、この問題が残っていることに注意が必要だ。

政治活動に対するあまりに寛大な扱い

 今回の問題について、国民の怒りは、政治資金の税制上の扱いが、あまりに寛大であることに向けられている。
 前節で書いたように、パーティー券収入は非課税とされている。しかし、それは、現行の扱いが事実上そうなっているというだけのことであり、明文の規定でその扱いが正当化されるというわけではない。
 政治家のパーティーは、事実上のビジネスだ。その収入は、民間であれば、当然課税対象になる。ところが、政治活動だからという理由で非課税になるのは、いかにもおかしい。そして、民間主体が脱税すれば極めて重い罰を受けるにもかかわらず、今回の問題がそうならない可能性がある。そもそも脱税問題とされない可能性が強いし、政治資金収支報告書を修正すれば、それで済んでしまう可能性が強い。
 ただし、2024年2月になって、国会の審議でも、裏金問題が収支報告書の不記載問題にとどまるものでなく、課税上の重大な問題であることが問題にされた。そして、少なくともキックバックを個人が受けた場合に雑所得になることについて、ようやく広い認識が形成されつつある。
 この問題は、決してうやむやのままで済ますことができないものだ。

すべてが政治資金に使われたら、課税対象にならないのか?

 右で述べたことに関して、鈴木俊一財務相は、2023年12月8日の予算委員会で、立憲民主党の石橋通宏氏の質問に対して、「必要経費を差し引いた残額が課税対象となる。すべてが政治活動に使われていれば、課税対象にならない」と答弁した。
 しかし、この説明は説得的でないと思う。その理由は、次のとおりだ。
 政治資金の資金源としては、キックバック収入以外のものが沢山あるだろう。そして「金に色はない(fund is fungible)」から、どの収入をどの支出に対応させるかは、いくらでもやり方がある。したがって、キックバック収入は全て政治活動に用いたとの主張は、簡単にできてしまうだろう。
 しかも、政治家の場合には、非課税で得た収入を用いて支出した領収書がいくらでもあるだろう。だから、われわれが領収書を集めるのよりずっと簡単に、領収書を集められる。だから、「政治活動に使った」との言い訳は、簡単にできる。
 問題は、「なぜ記載しなかったか?」ということなのだ。それは、その資金を政治活動以外に使えると考えたからだろう。
 もし最初から全額を政治活動に用いるのであれば、キックバック収入は堂々と収支報告書に載せて公開するだろう。そうしなかったのは、それによって、政治活動以外の用途に使える資金源が増えると考えたからではないのか? つまり、脱税の意図があったと推定されるのではないだろうか?
 そして、何事も起こらなければ、つまり今回のような問題が起こらなければ、結果的にも納税はなされない(実際、これまで長年にわたって、そうした事態が続いていたのだ)。
 前節の最後の項で、国会議員には非課税の収入が多いのでうらやましいと述べた。「それは多額の収入が得られるからうらやましい」という意味ももちろんあるのだが、「非課税収入について申告手続きの苦労を味わう必要がない」という意味の方が強いのである。
 納税の苦しみを知らない人たちが、税制の基本を決めるのは、大いに問題なのではないだろうか?

「政策活動費」という巨大な魔物

 ところで、以上の議論の前に立ちはだかるものがある。それは、「政策活動費」だ。政党が国会議員に支出し、使途を報告する必要がない。領収書の添付義務も、精算や納税の義務もない。
 総務省が2023年11月24日に公表した2022年の各政党の報告書によると、党から渡された金額は、自民党の場合は14億1630万円だった[6]。自民党前幹事長の二階俊博氏は、約5年の在任中に計約48億円を受け取っていた。
 これが、今回のキックバックの弁明に使われているようだ。池田佳隆議員事務所は「政策活動費だと認識して収支報告書には記載しなかった」とコメントを出した。
 しかし、この釈明はおかしい。なぜなら、政策活動費は政党からしか出せないものだからだ。しかも、池田議員は、証拠隠滅のためにドライバーでPCを破壊した。政策活動費であれば、何のためにそんなことをしたのか? だから、言い訳にはならないとは思う。
 ただし、キックバック問題とは別の問題として、こうした制度があることを放置するわけにはいかない。しかも、各党は税金を原資とする政党交付金(政党助成金)を受けている。これは政策活動費には使われていないと説明されているが、金に色はないので、無意味な説明だ。

税制に対する国民の信頼が崩壊するおそれ

 政治資金の問題は、これまでも何度も問題にされてきた。今回の事件がそれらと異なるのは、民間活動との比較がなされてしまうことだ。
 同じことを民間が行なえば重い罰を科されるにもかかわらず、政治活動の場合にはそうならないという問題だ。扱いの違いがあまりに大きいために、不公平感が極めてはっきりした形で感じられてしまうのである。確定申告のために、数百円、数千円の領収書を集めている我が身が、なんとも惨めに思えてくる……。
 これだけ国民の関心が高まった問題だ。この機会に、政治資金の課税問題を、根本から考え直すべきだ。このままでうやむやに済ますわけにはいかない。
 この問題がうやむやのままで処理されてしまえば、税制そのものに対する国民の信頼が崩壊してしまう危険がある。
 本章の5で述べるように、税の不公平を発端として起こった革命は、歴史上、いくつもある。われわれがいま直面しているのは、それと同じように重要な問題だ。


[6] 朝日新聞「使途途不明の『政策活動費』1年間で計16億円 自民が最多14億円」2024年1月13日


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