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『円安と補助金で自壊する日本』:全文公開 第3章の6

『円安と補助金で自壊する日本』 (ビジネス社)が9月26日に刊行されました。
これは、第3章の6全文公開です。

6 日銀とヘッジファンドの戦いは終わらない

政策変更の可能性は6月に比べて後退した

 3で述べたように、2022年6月には、海外ファンドの日本国債先物売りにより、長期金利が0・25%を超えて上昇した。しかし、その後は、再び0・25%を超えるような事態にはなっていない。
 これは、「日銀が長期金利上昇を容認する決定を行う可能性は低い」と考えられていることの結果だろう。つまり、「金融政策変更の可能性は、6月に比べて後退した」と考えられたのだろう。
 右の判断には、22年7月の参議院選が無事に乗り切れたことも大きく影響しているのだろう。物価高騰は問題にされたものの、これを円安と結びつけて金融政策の変更を求める主張は、立憲民主党以外の野党からは提起されなかった。そのため、金融政策に関する広範な議論は巻き起こらなかった。
 政府が格別の円安対策を講じていないにもかかわらず自民党が圧勝したことから、日銀の緩和政策続行に一定の承認が得られたと解釈されたのであろう。
 22年6月にショート・ポジションを取ったヘッジファンドの多くは、すでにポジションを解消しているといわれる。つまり、6月の攻防戦においては、日銀が「勝った」ということができるわけだ。
 もっとも、これで「日銀が勝って一件落着」ということにはならない。日銀とヘッジファンドの戦いは、終わったわけではないのだ。

問題はますます深刻化する

 日本国内の状況を見ても、事態がこれで収まったというにはほど遠い。むしろ、日銀が金融緩和を変更しないことによって引き起こされる問題は、今後ますます深刻化するだろう。
 まず、これからさらに円安が進行すれば、国内の物価はさらに高騰する。他方で賃金が上がることはほとんど望めないので、国民生活の窮乏はさらに進む。
 これに対して、現在政府が実行ないしは計画している物価対策では、到底対応し切れない。物価高騰の重要な要因である円安を、ぜひとも抑えることが必要だ。
 また、金融政策の正常化は、いつかは実現されねばならないものだ。物価上昇率が2%を超える経済で、長期金利が2%を超えないということは、ありえない。
 経済が正常化すれば、金利の上昇を認めることはどうしても必要であり、それによって日銀が債務超過に陥ることも避けられない。出口問題をいつまでも先送りするわけにはいかないのだ。日銀は、金融正常化に向けての道を明確に示すべきだ。


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