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『日本の税は不公平』全文公開:    第1章の4

『日本の税は不公平』(PHP新書)が3月27日に刊行されました。
これは、第1章の4全文公開です。

4 税負担の不公平が、裏金事件の本質

市民団体が自民党裏金問題を脱税と告発

 自民党の裏金事件に関して、脱税であるとする告発状が市民団体から提起された。
 この団体は、「自民党ウラガネ・脱税を許さない会」。安倍派の実力者ら幹部議員7人と、政治資金規正法違反の罪で立件された議員や元議員3人が、派閥からの還流分を所得として計上せず、脱税したとして、2024年2月1日、所得税法違反の疑いの告発状を東京地検に提出した。
 多くの国民は、今回の事件に関して、「収支報告書不記載は確かに問題だが、報告書を修正すればそれで終わりというものではない」と考えている。右の告発は、それを明確な形で表現したものだ。

政治家と一般国民が、納税義務で別扱い

 普通の感覚で考えれば、キックバック裏金は課税対象であり、したがって税務申告が必要なはずだ。それにもかかわらず、申告がなされていないのではないか? つまり脱税ではないか? という疑いを、多くの人々が持っている。
 そして、そうした扱いが慣例化して長年にわたって続いてきたという事実を、自分が重い税負担に苦しんでいることと比較して、何と不公平なことかと憤っている。
 国民は、政治資金規正法で課された公開義務に違反したことだけを怒っているのではない。納税という極めて重大な問題に関して、自分たちと政治家が、全く異なる扱いを受けていることに対して怒っているのだ。
 市民団体による告発状は、裏金事件は、収支報告書不記載問題だけでなく、課税上の重大な問題でもあることを提起するものだ。

キックバックは議員個人の所得であり、申告が必要

 前記団体の告発状は、キックバックされた資金は、非課税の政治資金ではなく、議員個人の所得であり、所得税の脱税にあたる疑いがあると主張している。
 東京新聞によれば、国税庁は毎年、「政治資金に係る『雑所得』の計算等の概要」と題する文書を作成し、確定申告前に議員に向けて配布しているそうだ。
 文書は、「政党から受けた政治活動費や、個人、後援団体などの政治団体から受けた政治活動のための物品等による寄付などは『雑所得』の収入金額になりますので、所得金額の計算をする必要があります」と、下線を引いて注意を呼びかけているという。
 こうした呼びかけがなされるのは、実際には雑所得にあたるにもかかわらず、申告がなされていないケースがあるからだろう。
  では、今回問題とされているようなキックバックの裏金は、ここで注意を喚起されている問題に該当するのだろうか? それに対する国税庁の見解をぜひ聞きたいものだ。
 東京新聞の記事では、「提出された確定申告を見て、必要があれば調査する」ということになっているのだが、裏金問題は今年だけの問題ではなく、これまで長年にわたって続いてきた。過去の申告について、国税庁はどのような判断をしたのだろうか?

なぜ政治家だけが税負担を免除されるのか?

 本章の3で述べたように、私も、前記市民団体の主張とは若干異なる理由によるが、裏金を議員個人が受けても、その議員が管理する資金管理団体が受けても、課税の対象になるはずだと考えている。
 ところで、現行の規定に照らして、キックバック資金をどう扱うべきかは、もちろん重要な問題だ。現実の裁判の過程では、現実の法規を前提として結論を出さなければならない。
 ただ、問題は、それだけで済むわけではない。現在の規定を所与のものと考えて是認し、それに照らして現実の問題をどう判断するかというだけのことではない。
 それと並んで重要なのは、そもそもその規定が正当化できるものかどうかだ。そのレベルの問題として捉えれば、どう考えても政治家だけが特別扱いされていると考えざるをえない。そして、それは納得できない。
 国民がこの問題について怒っているのは、政治家が税負担からほとんど逃れてしまっていると考えざるをえないからだ。政治家は、税制を決めるが、自ら税を負担することは少ない。税を負担するのは国民であって、政治家はその例外、という世界になっているとしか思えない。これが、今回の問題の核心だ。
 なお、全国商工団体連合会は、2024年2月26日、裏金が所得税の課税対象になりうるとして、党所属の議員に対する税務調査を実施するよう、国税庁に要請書を提出した。

負担の公平がなければ、高齢化社会を乗り切れない 

「寡きを患えずして均しからざるを患う」という言葉が論語にある。
 これは、負担についても言える。「言える」というより、負担についてこそ、公平が最も重要だ。
 今後の日本に即していえば、負担が増えることを憂える余裕はないのである。負担増は、人々が高齢化社会において医療や介護のサービスを受けるために、どうしても必要なことだ。そうした社会においては、負担の公平こそが重要だ。それが確保できなければ、日本は、高齢化社会を生き抜くことはできない。
 仮に今回の市民団体による告発に対する最終的な結果が「脱税とは認められない」ということになれば、「政治家だけは特別」ということが確定してしまう。そうなれば、国民の税負担意識は崩壊してしまうだろう。それは、国家の崩壊以外の何物でもない。


東京新聞「億単位の裏金がバレても『政治資金』で届けたらOK 庶民なら『脱税』なのに…」2024年2月2日


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