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『「超」創造法 』生成AIで知的活動はどう変わる?

『「超」創造法』 生成AIで知的活動はどう変わる?(幻冬舎新書)が9月27日に刊行されました。
これは、第12章の2全文公開です。

2 文章を書く仕事はどう変わるか

大幅に減少する仕事  

 生成系AIが人々の仕事や雇用に与える影響を考えるには、まず生成系AIの機能を理解することが重要です。多くの人は、生成系AIは創作をしたり、データを集めて提供するものだと誤解しています。
 しかし、これまで述べたように、生成系AIは創作もできず、正しいデータを提供することもできません。生成系AIとは、指示に従って文章を生成するための仕組みです。このことを明確に理解することが重要です。以下では、この理解をもとに、文章を書く仕事を中心として、これからどのような変化が起きるかを考えることとします。
 生成系AIの登場によって、すでに潜在的には不要になっており、将来は大幅に減る仕事として、つぎの3つがあります。
(1) 翻訳:とくに業務用の翻訳や資料翻訳です。十分実用になる翻訳を生     成系AIが作成できます。要旨の作成も可能です。これらについての生成系AIの仕事ぶりは、ほぼ完全と言ってよいでしょう。
 なお、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少しますが、完全になくなることはないでしょう。
(2) 文章の校正・校閲:形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能です。ただし、表現法などに関する好みの問題は残るでしょう。
 事実や統計数字のチェックは、生成系AIにはできないので、これらについての誤りの検出が、校閲の主要な作業となるでしょう。
 なお、校正と校閲は文章の誤りを訂正するという点では同じですが、「校正」は誤字脱字や文法上の誤りなどを訂正する作業を指し、「校閲」は主に事実やデータの誤りを訂正する作業を指します。右に述べたのは、校正作業の多くは生成系AIに任せることができるが、校閲作業は人間がやらなければならない、ということです。
(3) ライターの仕事や文字起こし: 録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できます。したがって、ライターや文字起こしの作業は、不要になるか、内容が大きく変わるでしょう。例えば、事実やデータのチェック、資料の収集などを主な業務とする形に変化するでしょう。

著者、記者、編集者、分析者など

 著者の仕事そのものは残るでしょうが、作業内容は大きく変わる可能性があります。音声入力と生成系AIの組み合わせをうまく利用することによって、作業効率が飛躍的に向上するからです。また、外国語の文献の要約などを依頼することによって、資料が得やすくなります。
 ただし、事実の調査やデータの入手が、現在より格別に簡単になるわけではありません。著者の最も重要な仕事はテーマの選択ですが、この重要性はさらに増すでしょう。
 文章を書く前段階でのデータ分析は、一見すると生成系AIによって自動化できる場合が多いように思われるのですが、第2章の4、5で述べたように、実際にはそう簡単にはいきません。適切なデータの選択・収集から始まり、それをどう分析するかなど、依然として人間がしなければならない仕事が多いのです。
 記者の取材活動を、生成系AIで代替することもできません。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスです。信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は、重要なものとして残ります。
 編集者の仕事は、場合によって、大きく異なります。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるでしょう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは、生成系AIによっては置き換えられない仕事です。
 生成系AIの進歩は金融業務にも影響を与えますが、分析的作業への影響は比較的少ないでしょう。ただし、データサイエンスへの影響は大きいでしょう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるでしょう。
 なお、2013年に発表した共著論文で「米国の雇用の47%が自動化されうる」と予測して注目を集めたオックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏は、「AIがクリエイティブな領域で人間を置き換えることはない」「AIは創造性を補強し、新しい創作を可能にする」「重要なのは技術の進化に対応していくこと」と述べています。
 また、『AI 2041』(文藝春秋、2022年)の共著者であるカイフ・リー氏(グーグル中国法人元社長)は、「人間に残された優位性は、創造性や分析能力、複数の専門的な知見を統合して推論する能力(中略)人と信頼関係を結ぶコミュニケーション能力」と言っています(いずれも日本経済新聞、2023年4月21日)。


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