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『CBDC 中央銀行デジタル通貨の衝撃』:全文公開 第3章の1

『CBDC 中央銀行デジタル通貨の衝撃 』(新潮社)が11月17日に刊行されました。
これは、第3章の1全文公開です。

第3章 デジタル人民元は大きな脅威となる

1 デジタル人民元の基本構造

実証実験を通じて基本構造が明らかに
 中国のCBDCであるデジタル人民元の準備が着々と進行している。2020年10月の深圳市での試みに続いて、12月には、蘇州でも大規模実証実験が行われた。
 蘇州市の実験では、デジタル人民元ウォレットのオフライン支払い機能も有効になった。これはインターネットの接続がなくても、スマートフォンなどを相互に近づけるだけで取引が行える機能だ。
 なお、デジタル人民元は、「DC/EP」(Digital Currency / Electronic Payment)とも呼ばれる。
 実証実験を通じて、デジタル人民元の基本構造が明らかになってきた。以下では、それを説明しよう。

4大銀行のウォレット間をコインとして流通する

 デジタル人民元では、4大銀行が仲介機関となる。
 利用者は、4大銀行のいずれかに持っている預金を取り崩して、自分のウォレットにデジタル人民元の残高を得る。
 こうして、4大銀行の預金は、デジタル人民元の運用に不可欠の存在となり、4大銀行は預金を持つ金融機関として今後とも残ることになる。
 なお、アリペイやウィーチャットペイなどの電子マネーが仲介機関になるのかどうか、なるとしてもどのような形で参画するのかは、いまのところはっきりしない。
 ウォレットは、銀行ごとに別のものになる。ただし、その開発は中国人民銀行(中央銀行)が行う。
 異なる銀行のウォレット間の送金も、当然できるだろう。そうであれば、ウォレットに残高を持っている人は、自由にそれを使うことができる。現在の電子マネーは、それを受け入れる店舗でしか使うことができないので、デジタル人民元の方が利便性が高いことになる。
 利用手数料については、送金者側でも受け取り側でも、おそらくゼロに近い水準になると考えられる。少なくとも一定額以下の取引に関しては、ゼロになるだろう。
 ウォレットに移されたデジタル人民元は、「トークン」となる。つまり、それ自体として価値があるものとして、他のウォレットに送られる。したがって、コインの取引を銀行口座に反映させることはない。発行元の銀行口座に戻されたときにコインが消滅するが、それまではウォレット間を転々流通する。


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