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『経験なき経済危機』:第3章の4

経験なき経済危機』が、ダイヤモンド社から刊行されます。

10月28日から全国の書店で発売されます。

これは、第3章の4全文公開です。

4 政府の経済対策

政府の経済対策:第1次補正予算
 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言に伴い、政府は緊急経済対策を打ち出した。2020年4月20日に閣議決定された新型コロナウイルス感染症緊急経済対策は、事業規模が117.1兆円、財政支出が48.4兆円のものとなった。
 事業規模と財政支出の額が大きく違う。なぜこのようになるのだろうか?
 それは、施策の中には、融資や納税猶予などの施策が含まれており、これらは財政支出を伴わないからだ。施策の「規模」を考えるには、この点を考慮する必要がある。
 以下の議論においては、財政支出がどれだけあるかを問題とする。これは、しばしば、「真水がどれだけあるか」といわれることだ。
 前記の財政支出のうち、国費は33.9兆円だ。4月30日の参院本会議で可決・成立した20年度補正予算は27.5兆円である。そのうち、一般会計が25兆6914億円だ。これは、過去最大の規模だ。これは、GDP(20年1~3月期、季節調整後年率で545兆円)の4.7%にあたる。
 一般会計の補正予算での増加分25兆6914億円のすべては、国債の追加発行で賄う。うち、特例公債(赤字国債)が23兆3624億円だ。補正後の新規国債発行額は58兆2476億円となり、過去最大となる。歳入に占める公債金収入の割合(国債依存度)は、当初予算段階では31.7%だったが、補正後では45.4%となった。
 経済対策の中で最も額が多いのは「雇用の維持と事業の継続」のための経費だ。これは、事業規模で88.8兆円、財政支出が30.8兆円となっている。このうち、規模が最も大きいのは、10万円の特別定額給付金だ。このための費用は、12兆8803億円だ。これは、GDPの2.4%だ。

政府の経済対策:第2次補正予算
 政府は、2020年5月27日、第2次補正予算案を閣議決定した。
 財政投融資や民間融資なども含めた事業規模は117.1兆円で、1次補正と同じ。一般会計が31兆9114億円。このうち10兆円は予備費。閣議決定後に国会へ報告すれば事実上、政権が自由に使える。
 財政投融資に39.3兆円を計上。20年度の当初計画は62.8兆円だったので、急増だ。事業規模には、さらに民間資金が大幅に算入された。
 国債の新規発行額は、第1次補正予算より31兆9114億円増えて、90兆1589億円となる。20年度末の普通国債残高は、約964兆円となる。これは、一般会計税収(約64兆円)の約15年分に相当する。財投債を加えると、900兆円台後半で推移していた発行残高は20年度末に1097兆円となる。
 ただし、10年物国債利回りはマイナス0.005%で安定的だ。これは、第5章で述べるように、事実上の「財政ファイナンス」が行なわれた結果だ。

日本の経済対策は対GDP比で世界一というのは本当か?
 政府は、日本の経済対策は、対GDP比で世界一だという。本当にそうだろうか?
 BBCの NEWS JAPAN は、新型コロナウイルス経済支援の国際比較を行なっている。対策のGDP比を見ると、日本は20%を超えており、(EUの基金からの利益を受けるマルタを除くと)世界一だ。
 しかし、すでに述べたように、これは事業規模だ。この中には性格の異なるさまざまなものが含まれているため、国際比較には適さない。日本の場合の「真水」の対GDP比は、右に述べたように、10%程度でしかない。他国についての「真水」は分からないが、日本は、世界平均程度なのではないだろうか?
 BBCの記事は、国民1人当たりの給付金額をも示している(元資料はOECD)。それによると、日本は752ポンド(10万円)であり、世界の平均程度だ。アメリカは964ポンドで、日本より多い。これは、年収9万9000ドル(約1050万円)以下のすべての米国市民(全世帯の約9割)に、成人1人当たり最大1200ドル(約12万7000円)を支給する施策だ。
 なお、IMF(国際通貨基金)の2020年6月24日のレポートによると、世界各国の新型コロナ対策は6月時点で合計11兆ドル弱となり、4月時点の8兆ドルからさらに拡大した。08年のリーマンショック時(5兆ドル)の2倍強の財政出動だ。
 ヨーロッパでは、賃金補助政策が広く行なわれる。国によって違うが、一時帰休になった労働者などの賃金の8割程度を支給する。アメリカの場合に現金給付が多いのは、賃金補助制度がないからだろう。
 こうした違いを考えると、国際比較はあまり意味があることとは思えない。



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