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『アメリカはなぜ日本より豊かなのか』     全文公開:第7章の4

『アメリカはなぜ日本より豊かなのか』(幻冬舎新書)が8月28日に刊行されました。
 これは、第7章の4全文公開です。

4 第一次トランプ政権の経済政策を振り返る


米中関税引き上げ合戦
 本章の1で述べた諸問題を考えるにあたって、第一次トランプ政権の経済政策がどのようなものであったかを理解しておく必要がある。そこで、本節では、米中経済戦争を中心として、第一次トランプ政権の経済政策を振り返っておくこととしよう。
 2016年の大統領選で、トランプ氏は、中国との間の貿易不均衡が問題であるとした。そして、11月に大統領に選出されると、「対中貿易赤字の解消」を公約に掲げた。
 2018年3月に、中国の鉄鋼製品などへの関税引き上げを宣言した。その後、トランプ政権は、中国製品への関税引き上げを次々と行なった。これに対して、中国も、アメリカからの輸入品に報復関税をかけ始めた。
 こうして、2018年の終わりには、アメリカは中国製品のほぼ半分に関税をかけ、中国はアメリカ製品の約7割に関税をかけるという関税戦争となった。しかし、これによってアメリカの対中貿易赤字が縮小することはなかった。
 2018年10月4日、ペンス副大統領は、ハドソン研究所で行なった講演で、中国を強く批判した。不適切な貿易慣行や関税・輸入枠、通貨操作、技術の強制移転、知的財産の窃盗、不適切な補助金の配布など、自由で公正な貿易と相容れない行動をとっているとした。
 2018年11月には、中国の通信機器大手であるファーウェイへの締め付けを強化した。この背後には、中国がハイテク技術の分野で急激に台頭し、覇権を握ろうとしていることへの危機感があった。2019年には、ファーウェイをエンティティ・リスト(禁輸企業リスト)に追加した。

米中貿易合意と新型コロナの感染拡大
 2019年12月、米中両国は第一段階の貿易合意に達したと発表した。そして、2020年1月15日に、第一段階の「米中経済・貿易協定」が署名された。
 1月16日にアメリカは対中関税を初めて引き下げ、中国はアメリカからの輸入を大幅に増やすこととした。こうして、貿易戦争は一時休止となった。
ただし、これによって貿易摩擦が完全に解消されたわけではない。大部分の追加関税措置は維持された。現在でも、中国からの輸入に対する平均関税率は依然として高く、中国以外の国・地域に適用される関税率を大きく上回っている。
 米中貿易合意の直後に、新型コロナの感染が世界的に拡大し、国境を越えた人や物の移動が制限された。このため、世界的なサプライチェーンが寸断され、混乱が拡大した。
 そして、中国に生産を集中させることのリスクが顕在化し、サプライチェーン再構築の必要性が認識されることとなった。

バイデン政権も対中強硬策を継続
 2021年1月にバイデン政権が成立した。政権発足前には、対中政策の軌道修正がなされるとの見方があったが、実際には、バイデン政権は、トランプ政権の対中強硬策を継続した。そして、トランプ政権が導入した多くの対中規制を解除せず、中国への輸出規制をさらに強化した。
 2022年に発表した「国家安全保障戦略」においては、中国を「世界秩序を再編する意図と、それを成し遂げるための経済・外交・軍事・技術力を併せ持つ唯一の競争相手」であると位置づけた。中国に対抗するため、同盟国と協力しつつ、貿易・投資などを規制することを通じて先端技術の中国への流出を止めなければならないと主張した。
そして、新たな輸出規制を導入し、中国政府への圧力を強めた。
 バイデン政権は、新しんきょう疆ウイグル自治区における強制労働などの人権問題を懸念し、ウイグル強制労働防止法を施行して、中国への輸出入規制を強化した。
 米中両国間の最大の懸案は、先端半導体分野での対立だ。バイデン政権は、2022年秋に、先端半導体が中国によって軍事転用されることを防ぐため、先端半導体の対中輸出規制を強化した。2023年には、半導体製造装置で高い世界シェアを持つ日本とオランダに同調を呼びかけた。また、先端半導体を製造する台湾の地政学的リスクが認識された。
 以上の経緯を考えると、仮に第二次トランプ政権が成立すれば、中国との間で貿易摩擦が再燃する可能性がある。実際、トランプ氏は、大統領になれば中国製品に60%の関税を課すとしている。


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