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『AI時代の「超」発想法』 序 章   アイディアの価値が高まっている

『AI時代の「超」発想法』が2019年9月19日にPHP出版社から刊行されます。
 これは、その序章です。

◇ 新しいアイディアとビジネスモデルで成長したGAFA
アイディアの価値が高まっています。
優れたアイディアを生み出した企業が事業を発展させ、経済を牽引しています。
その代表が、GAFAと呼ばれるアメリカの企業群です。これは、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのことです。これらの企業は、いまアメリカ経済を牽引する中心的な存在となっています。
これらは、20年前には、ごく小さな企業でした。これらの企業が急成長したのは、新しいアイディアを生み出して、新しいビジネスモデルを確立したからです。
グーグルの場合、きわめて優秀な検索エンジンを開発し、利用者が集まりました。しかし、最初は、これを収益化する手段が見つかりませんでした。利用料金を課せば、利用者は他の検索エンジンに移ってしまうでしょう。そこで無料で検索サービスを提供したのですが、それでは収益はあがりません。
グーグルが検索エンジンから収益を得られるようになったのは、「検索連動型広告」という新しいタイプの広告を始め、しかも、それが効率的に機能するようなさまざまな仕掛けを考案したからです。
検索連動型広告を行なうためにはデータが必要ですが、それは検索サービスを通じて無料で収集することができました。必要とされたのは、それをどのようにして効率的な広告に結びつけるかというアイディアだけだったのです。
フェイスブックについても、同じことがいえます。SNSサービスを通じて利用者の詳細な個人データが得られるので、それを広告に結びつけるアイディアがあれば、巨額の広告料収入を得られました。
アイディアさえあれば、工場や販売店などの施設に特別の投資をしなくとも、巨額の収入をあげることが可能になったのです。
GAFAの中で、アップルとアマゾンは、製造業と流通業ですので、グーグルやフェイスブックとは少し事情が違います。ただし、アイディアが重要な役割を果たしたという点では同じです。
アップルは、ファブレ(工場なし)という新しい製造業のビジネスモデルを作りました。製造過程を中国などの企業に任せ、自らは製品の開発と設計に特化したのです。これによってきわめて高い利益率を実現しました。
アマゾンは、物流過程の効率化を進めるとともに、「購入者に関するデータを利用してリコメンデーション(お勧め)を行なう」という仕組みを作り、従来の書店では扱うことのできなかった販売点数が少ない書籍を扱うことに成功しました。こうして、実店舗で販売する従来の流通業とは全く異なるビジネスモデルを確立したのです。

ポイント GAFAはアイディアによって新しいビジネスモデルを生み出して急成長し、アメリカを牽引する企業群となった。アイディアさえあれば、特別の投資をしなくとも、巨額の収入をあげられる。

◇アイディアの重要性が増した
従来の経済活動においても、アイディアや発想は重要でした。
しかし、アイディアだけで巨額の収入をあげることはできませんでした。アイディアが持つ潜在的な価値を現実のものにするためには、工場を新設したり、販売店を増設したり、大量の人員を雇ったりする必要があったのです。
現代の世界で、そうしたものが全く不要になったわけではありません。ただし、つぎのような意味で、物理的な施設や人員の重要性が減少し、その半面でアイディアの重要性が増大したのです。
第一は、先進国における製造業の比重の低下です。製造業では、巨大な生産設備の建設がどうしても必要です。製造業は長い間先進国の経済の中心的な活動だったのですが、1990年頃以降、中国をはじめとする新興国の工業化が進展し、安価な労働力が供給されるようになりました。このため、従来は先進国で行なわれていた製造業活動の多くが新興国に移行したのです。
こうして、先進国においては、製造業を中心とする従来のタイプの経済活動の価値が相対的に低下しました。
その代わりに先進国で進展しているのは、モノではなく情報やデータを扱う経済活動です。右に述べたGAFAの企業群が行なっているのが、まさにそうした活動です。
情報やデータを扱う経済活動では、サーバー等の施設は必要とされるのですが、製造業や従来の流通業のように、大規模な工場を作ったり販売施設を作ったりする必要がないのです。GAFA企業がアイディアによって成長できたのは、そのような条件があったからです。

ポイント 先進国における製造業の比重が低下したことがアイディアの価値を高めた。

◇情報やデータを用いる新しい経済活動の進展
第二に、新しい情報技術の進展に伴い、情報やデータを用いて収益をあげる活動がさらに進展しています。
まず、AIの教育・訓練にデータが用いられています。これによって、従来は不可能と思われていたパターン認識などが可能になってきています。この技術は、自動車の自動運転などに用いられ、世の中を大きく変えていくことになるでしょう。
もう1つの利用は「プロファイリング」と呼ばれるものです。これは、ビッグデータによって対象者の性格を推定しようとするものです。これによって、ターゲティング広告(検索連動型広告のように、対象を絞った広告)の性能の向上、信用度の測定、あるいは、選挙での利用などが進められています。
新しい発想の重要性は、GAFAに限ったことではありません。経済全体として高度サービス産業の重要性が増しています。こうした変化は、アメリカではとくに顕著に進行しています。日本でも、そうした変化が進行しようとしています。
「士業」と総称される分野があります。弁護士、公認会計士、税理士などです。
これらの業種では、定型的な事務はAIによって代替されていくでしょう。例えば、弁護士であれば、判例の参照など。公認会計士や税理士であれば、記帳事務などです。
こうした事務が自動化されるため、与えられた案件の処理だけではなく、積極的な提案等を行なうことが重要になってきています。例えば、弁護士であれば、「訴えられないような金融商品をどう設計したらよいか?」といったアドバイスです。公認会計士や税理士であれば、新しい事業の提案が求められるでしょう。
これは、アイディアの重要性が増すことと解釈することができます。つまり、こうした仕事においても、発想の価値は上がることになるのです。
このように、アイディアの重要性が、情報技術の進歩に伴ってますます増大しています。どんなビジネスパーソンにとっても、アイディアを出せるかどうかが重要な課題になっています。
アイディアを出せる企業や人が、これからの社会を作っていくことになるでしょう。  このような大きな変化の中で、われわれがいかに仕事をし、生活していくべきかを考え、そのために新しいアイディアをつねに生み出していくことが求められています。
本書は、このような時代的な変化を背景として、アイディアを生み出すにはどのような仕組みが必要かを考えたものです。

ポイント 情報技術の進歩に伴って、アイディアの重要性が増している。これまで人間でなければできないと思われていた仕事がAIで代替されるので、人間はアイディアを出すのが主要な仕事になる。

◇ AIが進歩した世界において、人間の創造力の価値が増す
AIの進歩によって、これまで人間が行なってきた仕事のうち、ルーチン的な性格が強いものは、AIで代替されるようになっています。例えば、AIが人間の声を理解できるようになってきているため、コールセンターの業務をAIが代替する動きが進行しています。自動車の自動運転が可能になれば、自動車をめぐる環境は大きく変わるでしょう。
このような世界においては、人間が行なうべき仕事は、新しいものを発想することだけになっていくかもしれません。つまり、アイディアの重要性は、さらに高まるのです。
ただし、アイディアを生み出すことができるのは、人間だけではありません。すでにAIは、これまで人間が行なってきた創造的な仕事を、部分的には代替するようになっています。
第5章の4で述べるように、データを与えてAIにニュースを書かせることは、すでに行なわれています。音楽を作曲させたり、映画の脚本を書かせることも行なわれています。
このように、創造は、必ずしも人間の独占物とはいえない状態になりつつあるのです。
すると、AIの創造力とは本物の創造力なのか? それは、人間の創造力とどこが違うのか? といったことが重要な問題となってきます。
AIの創造力は、さまざまな組み合わせの中から、可能性があるものをうまく引き出すというプロセスを行なっています。
それを考えるには、そもそも人間はどのようにして新しいアイディアを生み出しているのか? ということを明らかにすることが必要になります。
この問題は、本書が対象としている問題そのものです。
これは、本書の第1章から第3章で論じられています。
人間もさまざまな組み合わせから発想しているのですが、「それだけか?」ということが大きな問題です。実は、ある種の直観に導かれていることが重要なのです。
したがって、第5章の4で述べるように、人間の創造力とAIの創造力は本質的に異なるものだと考えられます。そして、AIは、人間の発想力を超えることはできないだろうと考えられるのです。
ただし、この問題について、最終的な答えが得られているわけではありません。AIの進歩はきわめて急速なので、現在では想像もできないことが実現するのは、十分に考えられることです。AIの創造力と人間の創造力の競争は、まだ決着がついた問題ではありませんが、人間の創造力が今後ますます重要になっていくことは間違いありません。

ポイント いかにAIが進歩しても、人間の創造力を超えることはできないだろう。AIが進歩した世界では、人間の創造活動の重要性はさらに高まる。



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