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『データエコノミー入門』 激変するマネー、銀行、企業 :全文公開 第5章の2

『データエコノミー入門 』激変するマネー、銀行、企業(PHP新書)が10月15日に刊行されました。
これは、第5章の2全文公開です。

2 オープンバンキング、チャレンジャーバンク、ネオバンク

オープンバンキングの二つの形態
 公開された銀行APIを用いて、新しいサービスを提供しようとするのが、「オープンバンキング」だ。オープンバンキングは、次の二つの形態に区別できる。
 第一の形態は、チャレンジャーバンクだ。銀行業務ライセンスを持つ企業が、当座預金、普通預金、住宅ローンなどのサービスを、スマートフォン上のアプリで提供する。第二の形態は、ネオバンクだ。銀行業務ライセンスを持たない企業が、銀行と提携して、チャレンジャーバンクと同じ金融サービスを提供する。
 アメリカやヨーロッパでは、こうした形の新しい銀行が、続々と登場している。様々な新しい試みが行なわれているので、概念を整理するのが難しい。図表5─1は、私見も加えての分類だ。

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チャレンジャーバンク
 チャレンジャーバンクとは、デジタル技術を駆使して既存の銀行に挑戦する新興銀行だ。チャレンジャーバンクは既存銀行のように店舗は持たず、インターネットを通じたサービス提供、とくにスマートフォンアプリを用いたサービス提供にフォーカスしている。
 ユーザーはスマートフォン一つで口座開設、決済、国内外送金、投資、融資などを行なうことができる。手間や手数料も、既存の銀行より少ない。
 イギリスでは、政府が規制緩和を進めたため、チャレンジャーバンクが次々と認可された。同国は、オープンバンキングの先進国だ。
 Monzo(2015年設立)、Starling(2014年設立)、Revolut(2015年設立)などが有名だ。
 これらはどれも企業評価額が10億ドル(約1100億円)を超えるユニコーン企業だ。そして、設立されてから5年そこそこの新興企業だ。
 欧州のほかの国では、もともと特定分野にフォーカスしてビジネスを伸ばしてきたネオバンクが、さらに成長を図るため銀行ライセンスを取得して、チャレンジャーバンクになるケースが多い。
 中国にも強力なチャレンジャーバンクがある。AlibabaグループのMyBankとTencentホールディングスのWeBankがそれだ。
 ベトナムにはTimoがあるし、韓国にはK BankやKakao Bankがある。
 日本では、auフィナンシャルホールディングスと三菱UFJ銀行が共同出資する「auじぶん銀行」や、ふくおかフィナンシャルグループが子会社として設立した「みんなの銀行」などがある。

ネオバンク
 ネオバンクは、チャレンジャーバンクのように銀行ライセンスは保有せず、既存銀行のシステムとオープンAPIを介して連携することによってサービスを提供する。最終的に利用者に対して提供するサービスの形態はチャレンジャーバンクとほぼ同じであり、利用者から見ると、両者の差異はあまりない。
 アメリカにおいては、チャレンジャーバンクの業態はあまり見られず、ネオバンクのビジネスが成長している。サンフランシスコを本拠地とするデジタル銀行Chime(チャイム)が急成長を遂げている(推定時価総額:約58億ドル)。ほかにも、Varo、Current、GoBankなどがある。Chimeは、「給料の2日前入金」を実施している。
 日本では、住信SBIネット銀行から生まれたNEOBANK(ネオバンク)がある。

銀行サービスを提供するのに、支店網はいらなくなった
 ところで、当座預金、普通預金、住宅ローンなどのサービスは、格別新しいものではない。銀行がずっと昔から提供していたサービスだ。変化したのは、これらのサービスを、支店網を通じて提供するのではなく、スマートフォンのアプリで提供できるようになったことだ。言い換えれば、銀行のサービスを提供するのに、支店網は、もはや不要になったということだ。支店という施設も、そこで働いている人たちも、いらなくなった。
 金融サービスは基本的に情報を扱っているのだから、情報技術の発達によって、その提供形態が変化するのは、当然のことだ。
 これまで、出版、新聞、広告など情報を扱う産業は、インターネットの普及によって甚大な影響を受けてきた。しかし、金融業は変わらなかった。それは、金融業が規制産業で、新規参入が制限されていたからだ。そのため競争原理が働かず、古いビジネスモデルがいまにいたるまで温存されてきたのだ。それが、いまやっと変わろうとしている。なお、以上で述べた新しい形態の銀行は、「デジタルバンク」と呼ばれることもある。
 ところで、オープンバンキングは、銀行の持っている情報の活用だ。これは、銀行の救世主となるだろうか?
 もちろん銀行は、データを提供することによって利用料を得ることができる。しかし、その半面で、これまで支店で行なっていた業務が侵食される。
 オープンバンキングを通じて提供されるサービスが、従来と同じ預金や融資だけであれば、現在の巨大な組織を支えることはできないだろう。したがって、これまでは提供されていなかった新しいサービスを創出することが必要だ。




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