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『入門 米中経済戦争 』:全文公開 第6章の3

『入門 米中経済戦争 』(ダイヤモンド社)が11月17日に刊行されました。
これは、第6章の3全文公開です。

3 米中で対照的な株価の動向

当局による締め付け強化で中国IT企業の株価は低迷
 中国巨大IT企業も、事業の内容としてはアメリカの巨大IT企業とほとんど同じことを行なっている。それにもかかわらず、最近の利益や株価の状況を見ると、両国の間に大きな差がある。
 例えば、アリババとアマゾンを比較してみよう。これらは、それぞれ中国とアメリカを代表するeコマースの大手だ。ところが、2020年秋以降の両社の株価動向を見ると、極めて対照的な動きをしている。
 アマゾンの株価は、20年初めには1900ドル程度であった。それから上昇を続け、20年7月終わりに3000ドルを超えた。21年4月末には3400ドルを超えた。つまり、コロナ前に比べて8割程度上昇した。第3四半期の売上高見通しが市場の予測を下回ったことから7月末に急落したが、それでも3328ドルだ。
 アップルやグーグルなどIT大手を含むナスダック総合指数も、高値を続けている。巨大IT企業に対する風当たりが強まり、グーグルやフェイスブックが独占禁止法違反の疑いで提訴されていたにもかかわらず、こうなっているのだ。
 他方で、アリババの株価は、20年初めには210香港ドル程度だった。そして、10月末には307・4香港ドルになった。しかし、そこをピークとして、その後は下落を続けている。21年7月末の株価は189香港ドルであり、ピーク時の6割程度になっている。

「コロナ下でIT企業の利益が増加」が常識だったのだが……
 「コロナ下でIT企業の利益が増加している」。2020年の秋頃まで、これが世界の常識だった。例えば、20年9月8日付の日本経済新聞は、「世界の稼ぎ頭、激変 コロナ下でIT躍進」という記事を一面トップで報じた。そこで強調されていたのは、時価総額のランキングで、中国のアリババ集団が前年同期の43位から順位を上げて、9位に入ったということだ。
 新型コロナウイルスの感染拡大によって、在宅勤務が進められたり、外出が抑制されたりした。そのため自宅で過ごす時間が多くなり、仕事、買い物、レジャーなどさまざまな活動がオンラインに移行した。だからIT企業の利益が増加したというのは、ごく自然の成り行きだ。
 アメリカでも、巨大IT企業に対しては逆風が吹いている(本章の8参照)。しかし、これらのことがグーグルやフェイスブックの株価に悪影響を与えているようには見えない。巨大IT企業全般の株価も上昇を続けている。アメリカの巨大IT企業と中国の巨大IT企業は、明らかに異なる状況に直面している。



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