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『入門 米中経済戦争 』:全文公開 第6章の6

『入門 米中経済戦争 』(ダイヤモンド社)が11月17日に刊行されました。
これは、第6章の6全文公開です。

6 米中金融デカップリングは中国経済に計り知れない悪影響をもたらす

アメリカ側からも問題視される中国IT企業
 米議会は中国企業を問題視している。米上下両院は20年、米上場の中国企業の監査体制が不十分であるとした。そして、米当局による検査を拒んだ場合、3年後にアメリカでの株式売買を禁止する法案を可決した。
 TikTok などの特定の中国企業が安全保障上のリスクをもたらすとの考え方は、バイデン大統領もトランプ前大統領と同じだと言われる。実際、バイデン大統領は21年6月、中国企業59社への投資を禁じる大統領令に署名した。「アメリカや同盟国の安全保障、民主主義的な価値を損なう中国企業への投資を禁じる」として、軍事開発と監視技術を手掛ける企業をリストに並べた。
 こうして、アメリカ政府からも規制を強化され、中国政府からも管理される。グローバルな活動を行なおうとする中国のIT企業は、今後のビジネスがやりづらくなる。

アメリカも中国企業の上場を望んでいない
 アメリカは、中国企業のアメリカ市場での上場を望んでいない。その理由は、財務諸表等の開示が不完全であること、実地監査ができないことなどだ。
 こうした観点から、トランプ前大統領は、開示が不完全であるアメリカの中国企業を上場廃止にする処置を進めてきた。そして、2020年12月に「外国企業説明責任法」に署名し、成立させた。これは、アメリカで上場する外国企業の会計監査について、公開会社会計監視委員会(PCAOB)による検査を3年にわたって受け入れない場合には、上場廃止にするとした法律だ。
 アメリカの公開会社会計監視委員会は、21年5月、「外国企業説明責任法」における「完全な調査・検査が行なえない会計監査法人」の認定の細則を発表した。これによって、アメリカの証券取引所に上場する中国銘柄の株価が急落した。電子商取引大手のピンドゥオドゥオ(拼多多)は前日比7・11%下落、動画配信サービスのビリビリ(哔哩哔哩)は同6・83%下落、アリババ(阿里巴巴)集団は同6・28%下落した。
 中国のハイテク企業は「前門の虎、後門の狼」の状態だ。

金融デカップリングの悪影響は計り知れないほど大きい
 こうして、米中間の「金融デカップリング(資金面での切り離し)」が進む可能性がある。アメリカでも中国でも、当局はそれを望んでいる。そうであれば、デカップリングは急速に進行するかもしれない。
 それにもかかわらず、これは中国、アメリカの双方から見て望ましくない結果をもたらす。財やサービスの自由な貿易が関税や規制によって制約されることは、輸入国にとっても輸出国にとっても望ましくない。資本取引についても同じことが言える。
 つまり、金融デカップリングは、経済的に合理的でない政策だ。とりわけ中国の立場から見てそうだ。これによる悪影響は、中国にとって計り知れないほど大きい。
 中国は、1980年代の「改革開放」政策の導入以来、資金を外国から調達することによって成長してきた。
 世界銀行の資料によって、中国における直接投資のネットの流入(対内投資から対外投資を引いた額)のGDPに対する比率を見ると、90年代の中頃には6%程度の水準だった。これは他国に比べて飛び抜けて高い水準だ。
 中国の経済発展を支えた投資は、自国内で生み出された貯蓄によって賄われたのではなく、主として外資によって賄われたのである。つまり、中国の経済発展は外資によってなされてきたのだ。
 この数字は、最近では1%台にまで低下している。しかし、過去に流入した資本があるから、ストックで見れば依然として高い。
 また、最近の中国の国際収支(2019年)を見ても、経常収支が1413億ドルの黒字であるにもかかわらず、金融収支は570億ドルの赤字(純資産の減少。負債の増加)だ。つまり、現在でも中国は外資に頼っている。
 米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」によると、21年5月時点で、アメリカの主要3取引所に上場する中国企業は248社で、時価総額は計2・1兆ドルにのぼる。
 中国を本拠とする企業によるアメリカでのIPOは、20年は120億ドルで、3年前から3・4倍に増えた。21年には前半だけで91億ドルに達しており、通年では14年以来の高水準となる見込みと言われていた。
 習近平は、中国のプライドを追い求める。しかし、その結果、外国から資金を調達できなくなり、自ら喉を締めることになる。自給自足主義をとれば、必ずそうした結果になる。毛沢東による1950年代の「大躍進政策」を思い出さざるをえない。


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