日本経済最前線

財政検証で欠けている分析


 2019年財政検証は、国民が本当に知りたいことを示していない。

◇財政破綻はいつ生じるか?
 第1は、「消費者物価や実質賃金が検証の想定するような高い値にならず、これまでの趨勢が続いたどうなるのか?」ということだ。

 この場合の結果は、定性的には推測できる。
 マクロスライド経済が実行されず、「実質賃金効果」も期待できないので、所得代替率は下がらない
 これは年金受給者にとっては有り難いことだ。しかし、保険料伸び率が給付伸び率を下回るので、年金財政は悪化していく。最初のうちは積み立て金を取り崩して対処するが、やがて積立金は枯渇する。
 つまり、年金財政は破綻するわけだ。
 これがいつごろの時点に生じるかを知りたい。

 「積立金が枯渇して年金財政が破綻する」という点は、重要だ。
 財政検証の基本的な考えは、「保険料率や国庫負担率は固定し、マクロスライド経済スライドと実質賃金の引上げで、所得代替率を低下させることによって収支のバランスを維持する」ということである。
 そして、それが実現するように、物価上昇率と実質賃金上昇率を非常に高い値に設定しているのだ。
 「実際には、それは実現できない。では、どうなるか?」というのが、以上で述べたことである。

◇必要なデータが公開されていない
 この計算をするためには、加入者数(保険料の負担者数)と受給者数の将来推計が必要だ。
 加入者のデータは、下記に示されている。
 「国民年金及び厚生年金に係る 財政の現況及び見通し(詳細結果) 」
P88、被用者保険 被保険者数の将来見通し

 ところが、受給者数の将来推計のデータが公表されていないのである。
 2014年の財政検証では、非常に分かりにくい形ではあるが、下記に示されていた。
 https://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/report/pdf/section4.pdf  P225 第4-7-2表  厚生年金の被保険者数、受給者数の見通し

 それが今回はなくなっている。
 したがって、残念ながら、この推計はできない

◇支給開始年齢の引き上げや在職老齢年金廃止の影響は? 
 年金財政が破綻に直面した場合、支給開始年齢を70歳に引上げることが必要になると考えられる。しかし、その試算はない。これが第2の問題だ。
 せめて、オプション試算として示すべきだったろう。
 なお、財政検証のオプションBで示されているのは、「選択制支給開始年齢を選択した場合にどうなるか?」という試算だ。これは、支給開始年齢の強制的引き上げとは別の問題である。

 第3は、在職老齢年金を廃止した場合に、年金財政がどうなるかの検討だ。年金支給額が増えるから、年金財政は当然逼迫する。その場合、財源手当をどうするかが問題となる。
 オプション試算のB②として、所得代替率が示されている。これが財源手当だ。しかし、就業数の変化を見込んでいないのは、おかしい。
 これでは、廃止が不適切だと前提しているようなものだ。

 在職老齢年金が存続するのか廃止されるのかは、退職後どのように働くかの計画を立てる際に、きわめて重要な要素だ。それがわからなければ、人々は長期的な人生計画を立てることができない


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