超整理日記(第972号):資本主義は死んだのか?(その1)
◇資本主義=市場主義経済は、計画経済に対立する概念
「資本主義は死んだ」ということがしばしば言われます。
この問題を考えるとき、まず、「資本主義とは何か?」をはっきりさせておく必要があります。
「資本主義経済」は、「社会主義経済」=「計画経済」と対立する意味での、「市場経済」と定義するのが最も適切だと思われます。
「市場経済」と「資本主義経済」は厳密に言えば異なるものですが、以下では、ほぼ同じものであるとして話を進めます。
◇「市場経済が全ての問題を解決できる」などと考えている人はいない
「資本主義が死んだ」と言われる理由として挙げられるのは、所得分配の不平等、外部不経済効果(環境問題)、短期的な利益の追求などです。
市場経済がこれらの問題を解決できないということは、昔から認識されています。
「アダム・スミスは、見えざる手がすべての経済問題を解決するとした」と言われることがありますが、それは不正確です。
スミスが言ったのは、「個人的な利益の追求が、経済全体の利益と矛盾しない」ということであって、「すべての問題を解決できる」などとは言っていません。
所得分配の是正は政治の課題です。税や社会保障制度によってこれを行なう必要があります。
外部不経済がもたらす環境問題も市場が解決できない問題であり、規制や税制によって対処しなければなりません。これも、多くの人が認めるところです。
また、株式会社は株価を重視するあまり、短期的な利益だけを追求すると言われます。しかし、投資家は、必ずしも株価の短期的な上昇だけを求めているのではありません。機関投資家などは、長期的な株価の上昇に関心をもっています。
企業の側においても、短期的な利益だけに関心を持つのではなく、長期的な利益を見なければいけないという考えが、しばしば強調されます。
例えばIBMは、「賢明な利己主義」といことを標榜しています。そして地域社会に対する貢献などが、結局は長期的な利益に貢献することを願っています。
あるは、Googleは、ドローンに関する国防省との契約を中止しました。これも短期的な利益の観点からいえばマイナスですが、長期的にGoogleの評価を高めることになると意識しているのでしょう。
資本主義なり市場経済なりが以上のような問題を持つことは、広く認識されています。
ただし、問題は資本主義なり市場経済に代替しうる経済制度がありえないということです。サッチャーは、このことをTINA(There is no alternatives)という言葉で表現しました。
◇計画経済は実現不可能
資本主義に対立する概念は、計画経済です。これは価格の機能を使わずに経済全体の資源配分を行なおうとする考えです。
これが失敗に終わったのは、ソ連の経験を見れば明らかです。
経済全体の資源の配分を指示するために、中央計画当局は極めて大量の情報を扱わなければならず、それはいかにAIが進歩しても不可能なことです。
また指令経済においては、経済主体のインセンティブを維持することができません。
ジャック・マーは、「AIが進歩すれば計画経済が可能になる」と言っていますが、この考えは誤りです。