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松本山雅 4-3-3の正体

久しぶりの記事になってしまいました。
記事を書いていない期間もXのスペースで話してはいたのですが、先日行われた鳥取戦で2度目の披露となった4-3-3が面白かったので少し感想を書こうと思います。
ゆるりと読んでいただけたら幸いです。

突然のシステム変更

その時は突然にやってきた。

第13節で大宮に快勝したものの、長野県サッカー選手権大会決勝はアディショナルタイムに同点に追いつかれてPK戦の末に敗北。さらに翌第14節北九州戦もアディショナルタイムに同点弾を叩き込まれてドロー決着と、明らかにムードの悪い中2週間のオフに突入した。
オフ期間には認識のズレが顕在化していた部分をすり合わせて原点回帰するのだと思っていたが、蓋を開けてみると新システムが飛び出してきたというわけだ。

オフ明けの今治戦で披露された新システムは4-3-3。中盤にアンカーとインサイドハーフを配置して逆三角形の並びにして、両サイドハーフをやや上げてウィングとして張り出させている。


今治戦


鳥取戦

2試合とも中盤より前の構成は同じで、アンカーに米原秀亮、インサイドハーフは右に山本康裕・左に菊井悠介というチョイス。ウィングは右に村越凱光・左に安藤翼。
最終ラインに負傷離脱者が続出している関係で、右センターバックに宮部大己、右サイドバックは藤谷壮と樋口大輝がそれぞれ起用されている。


役割の違うインサイドハーフ

個人的に面白いな~と思ったのは左右で各選手の役割が全然違うことだ。

まずは守備時のお話

右ウィングの村越凱光はウィングでありながら守備時にはかなり中央へ寄ってくる。それもそのはず彼のマークすべき対象は相手の左センターバック。浅川隼人と2トップのような横並びの関係性となり、4バックの2センターバックへプレッシャーを掛けていく。
村越凱光がセンターバックへ寄せにいくことで空いてしまう相手の左サイドバックは山本康裕が出張してマークする。藤谷壮or樋口大輝は相手の左ウィングと1対1の状況となるので、何が何でも対面の相手を止めるのが仕事となる。

反対に左ウィングの安藤翼は相手右センターバックへ単純に寄せていくことはほとんどない。安藤翼は右センターバックだけでなく右サイドバックも監視する仕事を任されているからだ。常に右センターバックから右サイドバックへのパスコース上に立ち、ちらちら首を振ってサイドバックの位置を確認しつつ中間ポジションを取る。
安藤翼の役割は、味方のポジション配置と相手の出方次第で誰に寄せるかを柔軟に判断すること。常に状況を正しく認識して、左サイドの守備に穴を開けないようなポジショニング・プレッシングを行うことこそが彼の最重要ミッションとなっている。状況判断に優れ、スピードもある安藤翼だからこそ託せる役割だ。

米原秀亮は山本康裕が空けるスペースを埋めるべくやや右寄りにポジションを取ることが多く、連動して菊井悠介も左インサイドハーフではあるが、やや中央寄りに意識が向いていることが多そうだ。すごく単純化してしまえば、基本フォーメーションは4-3-3だが、4-4-2の並びになると思ってもらえばいい。浅川隼人と村越凱光の2トップ、山本康裕が右サイドハーフになり、米原秀亮と菊井悠介がダブルボランチを組むような並びだ。

さながら4-4-2

今治戦ではこれほど左右の違いは見られなかった。鳥取戦で左サイドがやっていたような守り方を全体で行っており、その結果、村越凱光が相手の左センターバック・左サイドバック・アンカーの誰をマークすればよいか混乱していたのが印象的だった。
そこから修正を施した結果、右サイドだけ守り方をチューニングして左右差が出ているという流れである。

村越凱光という選手は元々超攻撃的な選手ということもあって守備がそれほど得意ではない。献身的に走るし、プレスバックする責任感もあるものの、「相手の立ち位置からマークする人を判断して柔軟に守りましょう」みたいな難易度の高い守備戦術に組み込もうとすると混乱してしまう傾向が見られる。難易度の高い守備=考えることが多く、プレーの選択肢が多いからだと思う。
それでも彼の特徴であるスピードは相手にとって脅威であり、攻撃の切り札としても起用したい!となって編み出されたのが変速的な守備。村越凱光には予めマークすべき選手を決めてしまう。そしてマークすべき選手に対して全速力でプレッシャーを掛けてもらうというもの。空いてしまう選手やスペースは周りの浅川隼人や山本康裕が上手く埋めれば良いという考え方だ。村越凱光が誰に寄せるか明らかなので周りも合わせやすいし、相手の次のプレーも読みやすいというメリットもある。
左サイドは安藤翼がいるので、彼の優れた状況判断を最大限活かすように守備でのやや難易度の高いタスクを渡している。


次に攻撃の話

左サイドは山本龍平のクロスという明確な強みがある。最近より精度を増している左足を活かすべく、なるべく良い形で山本龍平にボールを渡すことを目的とし、そこから逆算して設計されている。
安藤翼は左ウィングだが大外に張ることは少なく、基本的には内側に入って相手のマークを引き付けて山本龍平が駆け上がるスペースを空けておくスタンス。山本龍平が1対1で仕掛けられそうであればそのままクロスを上げればよいし、もし突破が難しそうであれば安藤翼が内から外へ斜めのランニングをして相手の背後を突くというのも1つの形になってきている。
もうひとつのキーマンは菊井悠介。崩しのアイデアを豊富に持っている菊井悠介とサッカーIQの高い安藤翼が絡むとダイレクトプレーが増えて攻撃のテンポが上がっていく。相手に囲まれた狭いエリアでのプレーも苦にしない2人なので、ワンツーや山本龍平を絡めたパス交換で崩すというのも左サイドの主たる攻撃手段である。

右サイドも同じようにサイドバックが積極的に攻撃参加することは変わりないが、村越凱光は安藤翼ほど内側に入ることを求められていない様子。大外に張ることも許容されているし、サイドバックと連携して場面ごとに内外の区分けができていれば問題ないということなのだろう。
また、ビルドアップの局面では藤谷壮が入ると低い位置からの組み立てにも参加するが、樋口大輝が起用されたときは山本康裕が降りてサポートすることが多かった印象。サイドバックに起用される選手の特徴にあわせて山本康裕が柔軟に役割を変えつつ、右サイドの攻撃が円滑に回るように振る舞っているというところだろう。
また、明確なクロッサーがいない分、左サイドよりもペナルティエリアのポケットを取る意識が強そうである。大外から内側の山本康裕へ横パスを出して、ポケットに侵入した選手へスルーパスを通すという形が定着していた。


今後どうなっていく?

4-3-3への変更理由について監督コメントではこう語られていた。

人と人の距離が近いので認知のスピードを上げて速く判断できるのがこのシステムの一番のメリットだと思っています。

今治戦後の監督コメントより

これまでの4-2-3-1ではボランチがビルドアップの主体となりながら、サイドの崩しにも参加するというタフな役割を背負っていた。そこから4-3-3に変更したことで菊井悠介・山本康裕という崩しのキーマンからビルドアップの主体となる役割を剥がすことで、サイドのサポートに入りやすい環境と用意したというのがポイントだろう。
それによりサイドバックとウィングの2枚だけでの関係性になりがちだった局面を常に+インサイドハーフで3枚での崩しに進化させることができれば、チャンスが生まれやすくなり得点数も増えるという狙いがありそうだ。

果たして鳥取戦はこの狙いがバッチリハマった試合となった。一方で今治戦は村越凱光の迷いに代表されるように守備がハマらず、強力なウィングとサイドバックの1対1でも後手を踏んでしまって劣勢を強いられた。2試合とも相手は同じシステムだが、チームの特色の違いがあったので全く別の展開になったと言える。
相手が3バックだったらどうか?ダブルボランチだったら?ロングボールを蹴ってくる相手だったら?など、まだまだ4-3-3が昇格戦線殴り込みへの切り札になるかは未知数な状態だ。

それでも、停滞感の強かったチームに新しい風を吹き込み、何より選手たちが楽しそうに充実感あふれる表情でプレーしている姿はサポーターとしてグッと来るところがある。

今季始まる前のこと。4-2-3-1の各ポジションで求められる役割や選手像は固まっており、監督・フロントの間でも共通認識があるので、マッチした選手を補強したと語られていた。たしかに各ポジションで基準があるのだろうなと思わされる補強だったのは間違いない。
その一方で、各ポジションごとに求める役割がカッチリ決まりすぎていて、いざ試合になると選手たちが型通りに動くことに精一杯になっている印象も拭えなかった。型が決まりすぎているがゆえに相手にも対策されやすく、ポジションごとの役割にハマりきれない選手がストロングポイントを出せずに苦労している様子も相まって、躍動感に欠けるサッカーになっていたのだと思う。

2週間のオフを挟んで導き出された4-3-3は、おそらくシステムありきではない。今季ここまでの反省を活かし、各選手のストロングポイントを活かしつつチームとしての最大出力を引き出そうとしたときの配置として4-3-3だったというだけ。システムに選手を当てはめていた当初のチーム作りとは真逆に近い発想だと推測しており、もし本当だとしたら興味深いポイントだ。

ここで頭によぎるのは、チーム立ち上げ当初から言われていたのは「個人に依存しないサッカー」だったということ。
個人主義に見えるようだが、大事なのは「システムを変えても基本的な概念は変わらない」と明言されていること。つまり霜田監督就任後に継続して積み重ねてきた「ボールを大事にする」「攻守で走り負けない」「ポケットを取り確率の高いチャンスを創出する」といった基本思想は変わらないということだ。

むしろチームの中で基本思想となる土台が少しずつだが着実に積み上がっているからこそ、大胆にシステムを変え、選手の役割を変えたとしてもチームの向いている方向性が大きくブレることはない。オフ期間で再確認した全員の共通認識を土台に、より選手個々のストロングポイントを活かしてウィークポイントをカバーし合えるようなシステム・役割に変更したと見るのが良さそうだ。楽観的かもしれないけど。

選手個々の特徴を活かすという背景がありそうなので、起用される選手に寄って違った顔を見せそうなシステムであることも今後に向けた期待。
右ウィングに佐相壱明が入ったら…
インサイドハーフに安永玲央だったら…住田将だったら…
右サイドバックが馬渡和彰だったら…
選手それぞれ特徴は違うので、メンバーが変わったときに11人それぞれに与えられた役割がどう変化しているかを観察するのも面白そうである。

未完成な状態ではあるものの、伸びしろ十分な武器を手に入れた。

まだ松本山雅の旅は終わらない。


俺達は常に挑戦者


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