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【結果オーライという見方もある】2023 J3 第12節 松本山雅×SC相模原 マッチレビュー

スタメン

前節からスタメン5枚変更。出場停止の野々村鷹人と菊井悠介に代わって橋内優也と滝裕太がスタメンに名を連ね、村山智彦・宮部大己・住田将も先発に食い込んできた。GKの使い分けについては明言はされていないものの、押し込まれる展開が予想されたりセットプレーに強みを持っている相手には空中戦を得意とするビクトル、松本がライン設定を高くしたりボールを持てそうな場合は村山智彦が起用されているように感じる。

一方の相模原は大枠変わらないメンバーだが、GK古賀とセンターバックの國廣が今季初先発となっている。J2残留争いをしていたときはベテラン+レンタルで構成されていたが、戸田新監督が就任した今季はスカッドを一新。大卒選手を数多く加え、下部リーグからの叩き上げ選手も複数人が主力として活躍している。クラブとしても複数年でのチーム再構築を見据えているようで、地盤づくりと育成に舵を切る一年となるのかもしれない。


効果的だったミドルプレス

今季の松本といえば前線からのハイプレスが代名詞。最近苦しんでいるセカンドボール回収もハイプレスに出るがゆえに、相手が局面をひっくり返そうとしてロングボールを選択してくるから起こっている。しかし、この日はハイプレスは封印。
2トップは相模原のボランチをプレスの基準点に起き、基本的にはボランチの近くをふらふらしながらセンターバックも監視するというポジションを取っていた。これまでであれば2トップは相手のセンターバックに寄せていくのはマストで、なんならGKまで追いかけていたことを考えると控えめである。

ミドルプレスに切り替えた理由はいくつかありそうだが、起用できるメンバーが大きな要因になりそう。前節の立ち上がり20分くらい、今季ベストと言っていいようなプレッシングの完成度を見せた。しかし完成度を支えていたのは中盤を広範囲でカバーしてた安東輝で、彼を欠いた時間帯はセカンドボール回収で後手を踏むことが多くなっていたのが事実。その安東輝を今節も欠くので、ベストな完成度を出すことが出来ないという理由がひとつ。

ただ、霜田監督の振る舞いを見ていると、完成度うんぬんよりもスタイルを貫いてチームとして積み上げていくことを重要視していた。キーマンを欠いたとしてもハイプレスを継続することは出来たはずだ。

そうさせなかった理由が、菊井悠介と野々村鷹人の出場停止かなと思っている。今季のボランチで計算されている選手は、安東輝・パウリーニョが基本セットで、次点で住田将と菊井悠介、そして米原秀亮・喜山康平が控えている。このメンバーのうち安東輝を菊井悠介を欠いているので、ベンチに控えているのは米原秀亮と喜山康平となる。2人とも中盤の広範囲をカバーする守備というよりは、中盤の底でビルドアップの起点となる仕事を得意とする選手。ハイプレスに出ていく際のボランチは、少し得意な領域とは外れてくる印象がある。
だからこそ、先発したパウリーニョと住田将を出来るだけ長い時間引っ張りたかったのかなと。前節のようなハイプレスはボランチに過剰な負担をかけ、消耗も激しい。それよりかはプレッシングの基準点を下げて、ミドルプレスに切り替えて相手にボールを持たせるようなやり方を選んだのかと思っている。

果たして、苦肉の策に見えたミドルプレスは相模原を苦しめた。小松蓮と渡邉千真の2トップは、ともに戦術理解度が高くサッカーIQも高いコンビなので、巧みに相模原のボランチを消し続ける。特に出色だったのは渡邉千真で、1.5列目の立ち位置を取って小松蓮が出ていった背後でパスコースを常に遮り続けるという相模原からしたら厄介極まりない存在になっていた。プレスに出ていく/ステイする判断が常に適切で、これは彼にしか出来ない芸当かもな…と思ってしまった。追いかけ回さずとも、”見ている”だけでDFにプレッシャーを与えることもできるのだよと教えてもらった気がする。

早々に相模原の連携ミスから先制できたことも、この日の松本にとっては追い風だった。無理をする必要がなくなり、ミドルプレスと蹴らせたボールの跳ね返しに集中することが出来たからだ。


滝裕太の活躍と悩みのタネ

この試合で特筆すべき選手がいるとすれば滝裕太だろう。4/9の北九州戦以来6試合ぶりのスタメンとなった彼は、これまでと違って左サイドで起用された。菊井悠介の出場停止という事態によって生まれたものだったが、本来のポテンシャルをいかんなく発揮していたと思う。

特に評価したいのは自陣からの持ち運びの部分。相模原にあえてボールを持たせるような格好になり、自陣に引き込む時間帯も多かった。その中で滝裕太の推進力は間違いなくチームを助けていた。単純に距離を運ぶこともできるし、DFからボールを隠すのが上手いのでファウルをもらうこともしばしば。ドリブルのコース取りが嫌らしく、プレスバックで戻ってくる相手の前に出るようなコースへドリブルするので、相手からしたら止まりきれずに押してしまってファウルになる。ファウルを受ければマイボールになるだけではなく、相手を全体的に押し下げて敵陣からやり直させることに繋がるので、巧みにファウルを誘えるという能力は貴重になってくる。(さながら今季マンチェスターシティでキーマンになっていたグリーリッシュのような)

また、彼自信が右利きであるため、縦突破に加えてカットインという選択も出せる左サイドのほうがプレーしやすそうな印象を受けた。チーム4点目となった得点も、切り返しからフィニッシュまでのテンポが素晴らしかったのだけど、左サイドに配置したからこそ生まれた場面だとも言える。

これだけクオリティの高いプレーを見せられると霜田監督は頭を悩ませそうだ。今季左サイドは菊井悠介が主戦場としており、トップ下のような役割も兼任しながら攻撃のタクトを揮ってきた。大卒ルーキーの國分龍司も同じく中央~左サイドを得意としているように見える。まさに激戦区で、クオリティのある選手を併用するため、菊井悠介とプレーエリアがかぶらない右サイドで滝裕太は起用されていた。

菊井悠介と國分龍司はトップ下が本職なので、司令塔のようなタスクを得意としている。滝裕太は元々サイドハーフの選手なので、縦への推進力だったりクロスといった選択肢も巧みだ。若干プレースタイルが異なる3選手をどのように起用していくか。菊井悠介が復帰する次節以降の楽しみになりそう。


3失点を考える

2018年5月以来の5得点に湧いたのもつかの間、すぐに1点を返されると終盤に2失点して追い上げられるという後味の悪い終わり方になってしまった。
3失点を食らってしまった理由は様々あるだろうが、ここでは今季ずっと見られていて、今後も引き続き課題になるであろう点にフォーカスを当てたい。

負荷が高く、かつ全体の連動が生命線のスタイルを志向している分、何らかの理由でどこかの機能性が落ちると、全体が破綻するというのが今季のあるある。

何らかの理由、最も多いのは疲労。

この試合、前半はミドルプレスでやや控えめに振る舞っていたが、ハーフタイムを経てハイプレスを再開。前線のメンバーは前半はロングカウンターで、後半はプレッシングでかなり運動量が多かった。それ故に60分過ぎくらいから強度が落ち始めており、前線のプレッシングによる制限が緩まっていたと思う。前線が疲れてきて制限がかからなくなると、その分の負担がボランチと最終ラインに回ってくる。ライン設定は高くしている中で簡単にスルーパスが出てくるので、走り合いになったりして上下動が多くなっていく。
75分すぎから前線のメンバーを入れ替えてフレッシュにしたのでハイプレスの強度が復活するが、その頃には今度は最終ラインがエネルギー切れになっており、思うようにラインが上がらない。ラインが上がらず全体が間延びし始めると、中盤のスペースでプレス回避されて押し込まれるという負のループへ。

加えて、最近になって顕在化してきたのは選手交代

チーム全体で共通の設計図を描いて、それを頭に入れながら連動してプレーすることが求められるので、設計図を理解できていることが起用される大前提になっているのは明らか。つまり、設計図を理解して体現できなければ、尖った武器があったとしても試合に絡むことすら出来ないということでもある。
今季スタートした段階で、既に全体で理解度の差があることは示唆されていた。シーズンが進む中で、その理解度にもっと差が出ているのではないかと思っている。そして理解度の差こそ、選手交代をしたときに全体の連動性が落ちてしまい、相手に付け入る隙を与えている根本原因になっている。

ずっと、時間とともに理解度も上がってくのだから差は縮まるのでは?と思っていた。けど最近気づいた。
理解度が高い選手たちは、毎週末にリーグ戦に出場できる。公式戦という真剣勝負の舞台で、トライ&エラーを繰り返し、頭で理解した設計図を身体に叩き込んでいる。結果、どんどん理解度は上がっていく。
一方で、まだまだ理解度が基準に満ちていない選手たちは、週末の公式戦には出ることが出来ずトレーニングマッチでプレーすることになる。ただ、理解度の高い組は当然ながらトレーニングマッチには出場してこない。そうすると実践の中で、お手本となる選手を横に見ながらプレーしたりすることは叶わなくなる。
要するに、全体的に理解度は上がっているものの、リーグ戦に出ているメンバーの方が成長が早すぎて差が出てしまっているということ。

何が言いたいかというと、相模原戦で5得点してからの時間帯はベンチに入っていた理解度がまだ十分ではないメンバーに向けた、トライ&エラーの場だったのではないかということ。点差が開いた分、いつも以上にリスクをとることができるので、多少チームとしての形は崩れたとしても公式戦の舞台で経験値を積ませることを優先したのではないかなと。事実、ルーカスヒアンなんかは、最初プレッシングで戸惑っていたが、2回目に同じシチュエーションを迎えたときには下手に出ていかずウィングバックを監視するという動きができていた。試合の中で相手を見て学び・修正するという良いサイクルが回せている証拠。

「点差が開いていたので、いろいろ試しました」なんて対外的には言えたものではないので、霜田監督の真の意図は明かされないだろう。ただ、ここに来てルーカスヒアンのような少し尖った個をチームに組み込もうとしているのは間違いない。フィットするには時間がかかるし、ある意味シーズン中盤戦以降に向けた投資と捉える必要がある。最後の2失点は、投資をするにあたって払った代償なのかなと思っていたりする。

大勢に影響がない範囲での犠牲を払いながら、選手の底上げをしていくことで、疲労から全体の連動性が落ちてしまう問題も解決に向かうはず。選手交代しても全体の連動性が落ちないとわかっていれば、試合ごとにターンオーバーを組むことも視野に入るだろうし、試合中でも柔軟な選手交代に踏み切れる。ここの問題は実は繋がっていると思っている。


総括

またしても終わり方が良くない試合展開だったので印象が偏りがちだが、全体で見れば悪くない内容だったと思う。いろんな選手を試せたことも考えれば結果オーライかなと。

上位争いをしている他チームが意外にも突き抜ける感じではなくて団子状態なのも松本にとってはラッキーと言える。ここで差をつけられてしまうと、シーズン終盤に向けて完成度を上げても追いつけない可能性が出てくるが、まだまだ余裕がある。最終的に順位表の一番上にいれば良いのであって、シーズン通して首位に立っている必要はない。むしろ、トライ&エラーができる時期にやり切って、終盤に蒔いた種を収穫していくような過ごし方こそ今季の理想形になるはず。

変に反省しすぎることなく、引き続き出来たこと出来なかったことを冷静に見つめながら、チームの進歩に伴走していきたいと思う。


俺達は常に挑戦者


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