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【耐え忍んだ先にある光】2023 J3 第9節 松本山雅×FC大阪 マッチレビュー

スタメン

リーグ戦2連敗中の松本は今季まだ勝てていないホームにFC大阪を迎える。前節から中3日、さらに中3日で信州ダービーを控えているということもあり大幅なターンオーバーも予想されたが、メンバー変更は最小限にとどめてきた。GKはハイボール処理やシュートストップを評価されているビクトルに変更。消耗の激しいサイドバックは藤谷壮がスタメンに名を連ねたところまでは順当。唯一サプライズだったのは負傷離脱していた安東輝の復帰だ。公表されていた離脱期間から考えるとそろそろ復帰かと思っていたが、いきなりリーグ戦のスタメンで使ってくるとは思わなかった。代わって今季全試合に先発していた住田将を完全休養とした。

対するFC大阪は齊藤が沼津戦で負傷し、代わって舘野が左サイドバックに入る。とはいえ舘野も今季先発出場も多い選手なので大幅な戦力ダウンとはならないはずだ。ここまで守備が大きく崩れることは少なく、少ないチャンスを決めきることが出来た試合では勝ち点を拾えている印象。セットプレー、ロングスロー、鋭いカウンターなど、武器としているのはかつて松本が得意としていたプレーばかり。曲者という印象の強いチームである。


中央ルートを封鎖せよ

試合は序盤からボールを握る松本とプレッシングを掛ける大阪という展開が色濃く出る。
これまでも松本のボール保持に対してハイプレスを掛けてくる相手は多かったが、大阪は少し変わったルールを敷いていた。

最も特徴的だったのは徹底的に中を締めてくるスタート位置。さながら4-2-2-2のようにサイドハーフが中央に寄ってきて、松本のボランチ付近に密集を作ってきた。松本のビルドアップがセンターバック+ボランチで行われ、必然的に中央にボールが集まりやすいという点を抑えに来た格好だ。

大阪は、ただ単に中央に人を集めてきたわけではなく、ポジションごとに決まり事が見て取れた。
まず2トップのスタートポジションは松本のダブルボランチ。センターバックを無闇矢鱈に追いかけ回すのではなく、必ず松本のボランチの位置まで下がってきて、そこからボランチへのパスコースを消すようにしてセンターバックへ寄せていく。
もうひとつ2トップに課されていた約束事は、最終ラインにボランチが降りる動き(=サリーダ・ラボルピアーナ)に対しては徹底的にスルーをかますこと。センターバックの間に降りるのが安東輝であろうがパウリーニョであろうが、2トップは静観を貫き、センターバックにパスが出た瞬間にプレッシングのスイッチを入れる。
ボランチが降りている時は、3対2で数的不利なプレッシングになるので空振りになる可能性が高く、最も警戒すべき中央のスペースを利用されることに繋がることを嫌ったのだろう。

サイドハーフはボール非保持の局面になると、まず松本のボランチの脇あたりに初期位置を取る。そこから2トップの追い込みを観察しながら、松本サイドバックにパスが渡りそうならば外に開き、中央に縦パスを入れてきそうならばパスの受け手を潰しに行く。カチッとタスクが決まっているというよりは他ポジションと松本の出方次第で柔軟に振る舞いを変える役目を背負っていた。

最後にボランチに関しては、中央エリアに入ってきた縦パスをインターセプトすることが最重要ミッション。勇気を持って松本のダブルボランチと菊井悠介に対して背後から忍び寄り、トラップ際を常に狙い続けていた。

このように大阪は各ポジションに明確なタスクを振り分け、チームとして中央エリアで奪ってショートカウンターで仕留めるという狙いを持って臨んできていた。
なぜ中央エリアに狙いを絞ったのか?
それはつまるところ松本のビルドアップが『ダブルボランチの一角を占める住田将、もしくはトップ下からサポートに降りてくる菊井悠介を経由したがる』という構造的な問題を抱えていることに起因する。もともとビルドアップの主体になることを求められているのがセンターバック+ボランチなので中央にボールが集まりやすいのだが、地上でビルドアップの出口となる菊井悠介も中央を根城にしていることでより密集度が高くなっている。

実際、菊井悠介が降りてきて安東輝からボールを引き取った際、瞬時に3人の選手に囲まれてしまいボールを失いかけたこともあった。いつもならば、ビルドアップに手詰まりになると菊井悠介に頼っていたのだが、この日は消されてしまったので松本のビルドアップはよりぎこちなく見えてしまった。

加えて厄介だったのは、強烈な風。
前半は大阪が風上を選んだこともあり、シンプルにロングボールを蹴ってきた。松本が前線からプレッシングを掛けて全体を押し上げようとしても、大阪にロングボールを蹴り込まれてしまい、対応するために自陣まで押し戻されてしまう。そしてマイボールにしても最終ラインからのビルドアップvs大阪のハイプレスからやり直し。という松本にとっては地獄のようなループにハメられてしまい、前半45分はほとんど何もさせてもらえなかった。

ただ、この苦しかった前半に失点しなかったことが大きかった。逆に大阪は風上を選んだ前半に相当エネルギーを突っ込んできており、松本を封じ込めたところまでは良かったものの、先制点を奪えなかったのは痛恨の極みだろう。ロングボールで陣地回復するプランは理にかなっていたし、数多くあったセットプレーから仕留めたかったはずだ。


声援と風を背に受けて

後半立ち上がりに大阪がけったロングボールが相当風で押し戻されてしまい、それを見て悟ったのか、大阪は一転して地上戦に切り替えてきた。
このプラン変更は松本にとっては幸いし、パウリーニョ・安東輝というボール奪取に優れたダブルボランチが躍動するようになる。

前述の通り前半に松本が苦労したのは、敵陣に押し込みたくても風に乗って伸びるロングボールでひっくり返されてしまったこと。
大阪はロングボールを敵陣に蹴り込んでいる間に陣形を立て直し、自分たちの理想とするプレッシング開始位置を取り直すという好循環を送っていたのだが、その初手であるロングボールを効果的に活用できなくなったことでプレッシングの圧力も半減。

これは松本にとってはチャンスだったはずだが、前半あれほど執着していた丁寧なビルドアップを放棄しはじめた点はややもったいなかった。小松蓮や榎本樹へラフなボールを入れる場面が多くなり、自分たちからボールを捨てて試合をオープンな展開に持ち込んだのは得策ではなかったかなと。
むしろ前半同様にビルドアップで大阪を走らせて、敵陣に押し込んでじっくりと攻め込むほうが松本側の体力消費も抑えられて一石二鳥な気がしたのだけども。

大阪としてはオープンな展開はもってこいで、疲れの見えるポジションを次々に交代して全体の強度を維持する方向に舵を切った。松本も試合の流れを継続していたが、もともと時間限定だった安東輝に替えて米原秀亮を投入した意図を推察するに、もう少し試合を落ち着かせたかったのかもしれない。

試合の均衡が破れたのは74分。
松本に疲労の色が濃くなり、反対に早めに交代カードを切った大阪が持ち直して来た時間帯。後ろが付いてきていない状態で小松蓮と菊井悠介がプレッシングをかけてあっさりかわされると、中央突破を許して最後はペナルティエリア内でごちゃつき、なんとかコーナキックに逃げたところから。
一度はクロスを跳ね返し、左サイドから入れ直したボールはボール前の密集を超えてゴールラインを割ると誰もが思った中、山本龍平が懸命に追いかけて前線へ蹴り込む。ハーフライン手前で攻め残っていた菊井悠介がボールを引き取るとドリブル開始。左足でステップを踏んで舘野の重心を右に移動させ切り返すと、シュートフェイントを2度3度入れ、この日何度も駆け上がりクロスを繰り返していた舘野のバランスを崩す。ゴール前を左から右へ横断するように切れ込んだことでGKは左にステップを踏んだのだが、それを分かっていてか、背番号15は腰を捻ってゴール左隅へシュートを流し込んだ。

抜け出したときに結構時間があったので、ドリブルしながらいろいろ整理していました。相手がどこにいて、どのスピードで…というのを頭の中でイメージしていました。そのイメージ通りにドリブルがいけましたし、相手の動きも見えていましたし、GKの動きも最後まで見えていたので、ドリブル中にイメージしたことが結果に繋がってよかったです。

ヤマガプレミアム 試合後選手コメントより

数十メートルをドリブルで持ち上がりながら、相手の動きもGKの動きも見えていたってマジですか。

恐ろしいほどに冷静だったキャプテンの一撃で試合をリードすると、スタジアムの雰囲気が一変。再び熱を取り戻した1万人以上のサポーターの声援を受け、選手の動きも先程までが嘘のように軽やかになった。ホームでの得点は何よりもの特効薬ということだ。

終盤には、喜山康平と橋内優也というベテランを投入し試合をクローズしにかかるという霜田監督らしくない采配も飛び出した。ホームで先制して勢いに乗る中、橋内優也投入という「何が何でも失点しない」というベンチからの明確なメッセージは、ピッチ全体の意思統一にはもってこい。2点目を取りに行くという基本コンセプトは変えず、目の前の勝利をもぎ取るためにチームをアジャストさせてきたベンチワークに霜田監督をはじめとしたスタッフ陣も勝利を渇望しているのだと感じさせた。

センターバックの松田を前線に上げるパワープレーにも屈さず、無失点試合を締めた松本が3試合ぶりの勝利。ホームでは昨季最終節、相模原戦以来の白星となった。


総括

かなり苦しんだ試合だった。
風上の利を最大限活かしたロングボールによる局面リセットと要所を抑えたハイプレスのコンボは強烈で、松本を自陣に釘付けにするには十分すぎる完成度だったと思う。ただ、既に書いた通り苦しんだ前半に失点しなかったことが勝利の呼び水になったのは間違いない。

サッカーは相手あって成立するスポーツなので、トレーニングでは出来ていたことが公式戦のピッチでは出来なくなるなんてことは日常茶飯事だ。今の松本は、自分たちのプレーコンセプトは大きく変わっていないが、毎試合のように相手の振る舞いが微妙に違うのでアジャストするまでに時間を要してしまっている。
相手の振る舞いに関わらず殴り倒せるようになるのが理想だが、まだ武器を磨いている最中。しばらくは90分の中で少なく見積もっても半分くらいは、思うようにいかない時間帯があるだろう。その苦しい時間帯を耐え切れるかどうかに勝敗がかかっている。あとは相手に主導権を握られる時間帯をいかに短くしていくか。最初から主導権を握り続けることも然り、相手が変化してきたことで主導権を渡してしまった後にいかに早く取り戻せるかも然りだ。

苦しい時間帯を乗り切るという意味では、ビクトルの安定したシュートストップは頼もしい限り。最後はGKが防いでくれさえすれば何とかなるのもサッカーというスポーツである。
また、安東輝がピッチに帰ってきたのも大きい。ピッチを所狭しと走り回れる機動力とボール奪取力を併せ持つ彼がいるだけで、中盤を力技で制圧できる試合も出てくるだろう。

そして松本が主導権を握り返す切り札になりうるのは米原秀亮。もともとのパスセンスは誰もが知るところで、あとは守備面が改善されれば大枠のグループには間違いなく入ってくる選手だ。試合後のコメントで終盤になってもゲームを作れるボランチになりたいと語っていたが、まさに今日の彼に求められていたのは試合を落ち着かせ、テンポを作り出す役割。試合のテンポを上げてアクセルを踏める選手は多くても、途中出場でアクセルも踏めるしブレーキも掛けられる選手は貴重だ。試合展開に応じてゲームをいかようにもコントロールできる選手になれば霜田監督は重宝して離さないだろうし、スタメン争いにも食い込んでこれるはず。彼にとってこの試合は今シーズンのスタートでしかない。

ホームで勝点3をもぎ取ることに成功したチームを待つのは信州ダービー2連戦。タフな試合になることは間違いないが、持てる力を最大限発揮し、正面から殴り勝ってほしい。そんな姿に期待している。


俺達は常に挑戦者


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