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【信念を貫くなら最後まで】2023 J3第7節 松本山雅×アスルクラロ沼津 マッチレビュー

スタメン

GKが村山智彦からビクトルに戻り、榎本樹が右ウィングに入っている。ここまで不動の存在だった滝裕太がベンチ外となっているのは注目されるトピック。たしかに直近数試合のパフォーマンスは彼のポテンシャルを考えれば納得できるものではなかったが、ウィングというポジションは潤沢に選手を抱えているわけでもないのでベンチには置いておきたい存在のはず。大事ではないことを祈る。

対する沼津も前節からは2名変更。鈴木と和田が、それぞれ佐藤とブラウンノアに代わって先発に名を連ねている。最終ラインは比較的昨年対戦と変わらないが、前線はかなり様変わりしており、特にインサイドハーフに入る持井は攻撃の中心人物。要注意である。


順調だった風向きが変わったのは?

試合の立ち上がりは松本ペースだった。サイドバックを高い位置に押し上げ、センターバックも敵陣に侵入してボールを散らしていく。サイドバックとウィングの距離感もよく、何回か決定機を作り出すことに成功。悔やまれるのは、前半10分までのチャンスで先制点を奪えなかったことだろう。2対1で後は決めるだけ!という決定機も作り出せていただけに、フィニッシュの精度を欠いたツケが後で回ってくることになる。

松本ペースで進む中、気がかりだったのは沼津の振る舞いが普段と違ったこと。この日は割り切ってロングボールを蹴り込んでくるシーンが目立った。これは一重に、松本が志向する前線からのハイプレスを無効化するためだろう。パスを繋ぎ倒してプレッシングをかいくぐるというのも一つの手だが、最も効果的かつシンプルな対抗策は、ボールを持たないこと。つまりはプレッシングに来たところをロングボールでひっくり返してしまうことである。

開始10分までにロングボールを起点として局面をひっくり返されてカウンターを受けるシーンが2回ほど。うち1つはシュートまで持ち込まれており、ここらへんから松本の最終ラインが思い切って高いライン設定をできなくなっていく。描いていたゲームプランが少しずつ崩れていった一因だ。

ゲームプランが崩れた原因のもうひとつはビルドアップにある。
具体的にはボランチの受ける位置。
比較的良くボールが回っていた立ち上がりは、2センターバックがボールを持ちダブルボランチがその前で構える、さながら2+2ような形を取っていた。沼津は左右のウィング(津久井と鈴木)はサイドバックについているため、インサイドハーフが松本のボランチを監視して、CFの和田がセンターバック2枚を追いかけ回すことになる。2センターバックが適度に距離を取っていたことで、和田の追い回しを無効化して前にボールを運ぶことができていた。

ところが9分にターニングポイントが。野々村鷹人から縦パスをもらってターンした住田将が和田のプレスバックに捕まってピンチを迎えると、住田将がリスクを取らなくなってしまったのだ。センターバックがボールを持つと必ず最終ラインまで降りて3バックを形成し、3+1でビルドアップをするように。
これがまずかった。沼津のCF+インサイドハーフ3枚と、2センターバックに住田将を加えた3枚のビルドアップ隊がガッチリ噛み合ってしまい、余ったパウリーニョは3枚のプレッシングに背中で消されてしまう。リスクを抑えて安全にビルドアップを試みた結果、沼津がプレッシングを掛けやすくなり、かえって自分たちの首を絞めることになってしまったと思う。

相手のプレッシングをかいくぐるためのトレーニングとしてよく用いられるのがロンド、通称鳥かごである。山雅もキャンプからロンドをよくやっている。例えば5対2のロンドなら、近い味方とのパス交換で中にいるDF2枚をズラして、最終的にはDF2人の間を抜くような縦パスを通すことが1つのゴールになる。DFの間を抜くことができれば一気に2人を置き去りにして縦にボールを運ぶことができ、局面を打開することが可能だからだ。今季Jリーグでこれが上手いのはアルビレックス新潟。
そして、この感覚こそ、2センターバックとダブルボランチでのビルドアップに近いはず。2センターバックで横パスを繋ぎながら、プレッシングをかけてくる相手の間にボランチが顔を出して縦パスを引き出す。ボランチが前を向ければ、プレッシングをくぐり抜けて一気に攻撃がスピードアップする。
重要なポイントは、相手の間で受けるということ。この試合に話を戻せば、和田・徳永・持井といった選手の間でダブルボランチが縦パスを引き出せるかどうかの勝負だったと思う。立ち上がりは意識できていて、ボランチがターンして局面を打開したり、ボランチを警戒した裏をかいてセンターバックが持ち運んだりすることができていた。
ただ、前述の通り住田将が最終ラインに降りてしまったことで、相手の間で受ける選手が減ってしまった。理想は3枚でパス交換をしながらパウリーニョへ縦パスを付けることだが、残念ながら数的同数でプレッシャーをかけられると相手をズラしてギャップを作り出すような余裕を持てなくなっているのが現実だ。

今回は住田将がフォーカスされてしまっているが、これはチーム全体が抱えている問題。今のところ誰がボランチをやっても同様の問題は発生している。強いて言えば、喜山康平は自分がポジショニングを変えるだけではなく味方を動かして相手のプレッシングをコントロールできているが、どうしても後述するような守備面でのタスクとの兼ね合いで起用しにくいかもしれない。霜田監督の悩みのタネになっていることだろう。


同点弾から見える功罪

ビルドアップで沼津のプレッシャーをかいくぐれなくなったことで思うように前進できず、沼津を押し込めなくなってしまう。

前進できなくなった松本は、前線へのロングボールとロングカウンターにあ活路を見出す。前者は小松蓮を起点にし、後者では鈴木国友の推進力を全面に押し出していく。
小松蓮がネットを揺らした同点弾はまさにロングカウンターが結実した場面だった。鈴木国友がDF2人に囲まれながらも左サイドを独力で打開すると、右サイド深い位置に流れたボールを拾った榎本樹が正確無比なクロスを供給しファーで小松蓮が合わせた。

まずこの形で良かったのは小松蓮がエリア内でフィニッシャーの仕事に専念できていること。霜田監督がキャンプから常々口にしているように、前線の4枚が得点を重ねている状態が今季目指すところで、中でもCFに入る選手の得点数はバロメーターになるはずだ。

一方で、得点に至るまでのプロセスは今季目指す姿とはかけ離れている。鈴木国友の縦への推進力はさすがの一言であるが、自陣から一人で強引にボールを運んでいく姿はさながら昨季の横山歩夢やルカオを彷彿とさせる。「得点確率の高いプレーを積み重ねていく」という原則に照らし合わせれば、自陣から数的不利な局面にドリブルで突っかけるプレーはボールロストの可能性が高く、得点確率が高いとは言えない。加えて「特定の個人に依存しない」という点に関しても、今季目指すスタイルとは少し外れている。

得点が取れているからOKと目を瞑るのか、まだ開幕して7試合目であるのだから多少強引でも原理原則に沿ったプレーを求めるのか。目の前の勝利を目指すならば、選手の特徴が活きる形で攻撃を仕掛けたくなるのは自然なことでもある。ただ、選手の特徴を最大限に引き出し、個々の化学反応をベースにチームを作り上げていく方法は昨季そのもの。昨季は目標未達に終わり、今季違った方向に舵を切った。

評価が分かれそうな同点弾だと思う。
個人的には100か0かではないと思っていて、小松蓮が得点したという結果は評価されるべきだが、得点に至るプロセスは見直しの余地ありだと考える。


タスク過多に陥るダブルボランチ

鳥取戦でも見られた現象がこの試合でも繰り返された。
相手の中盤が深い位置でボールを受けた際、ダブルボランチの片方が一列上がって寄席に行くので、ダブルボランチの相方がめちゃ大変になる問題だ。

この試合で言えば、アンカーの菅井を誰が見るか?が松本の振る舞いを決めるポイントだったと思う。果たして菅井に寄せていたのは住田将。トップ下に入る鈴木国友は小松蓮と並んで2トップを形成して、沼津のGK+2センターバックにプレッシングを掛ける。彼らがプレッシングに行こうとした瞬間、ボランチの片方はダッシュで菅井に寄せることが求められていた。

残されたパウリーニョの役割は、住田将が抜けた中盤の広大なスペースを管理しながら、そのスペースをふらついている徳永を監視すること。
松本にとって誤算だったのは、沼津がロングボールを蹴ってきたことだろう。残されたボランチのタスクに、野々村鷹人や常田克人が競ったセカンドボールの回収という仕事も加えなければいけなくなったからである。
セカンドボール回収に専念できるのであれば、センターバックの近くにいて落下地点を予測して~というパウリーニョが得意とする動きをしていればOK。ただ、徳永を気にしながら、住田将が出張した後のスペースも埋めながらとなると話は変わってくる。セカンドボールを拾うために常に良いポジショニングができているわけではないので、センターバックが競った後のボールを沼津に回収されてカウンターに繋げられてしまうことが多かった。2失点目なんかはその典型と言っていいだろう。

じゃあどうすれば良かったのか?
実は試合後の監督コメントで答えが語られていた。

――守備ではセンターバックの前のスペースを使われたり、中締めができていなくて縦パスを通されたりしていました。それがずっと続いていたような印象もありますが、あのエリアをどう守っていきたかったですか?
そもそもあのスペースを作りたくないので、センターバックが相手の1トップをしっかりと置き去りにできれば、何も問題がなかったと思っています。センターバック2人には話をしますが、彼らが下がってしまうと、彼らの前にスペースができてしまう。我々は前からプレッシャーをかけに行ってるので、相手が適当に蹴ったボールでも、そこにこぼれてしまうと相手ボールになってしまう。意図的に繋がれるだけではなくて、意図的に蹴られてこぼれ球がそこに転がってしまうと、相手に先に拾われてしまう。そういう仕組みもあるので、できるだけ我々は前からプレッシャーに行ったときに、ディフェンスのラインを上げないといけません。

ヤマガプレミアム 試合後監督コメントより

もうこのコメントの通りで、センターバックがスペースを埋めれば良し!というシンプルな話。
そう言われると、いやいや何で試合中に出来なかったんですかという話になるのは当然。センターバックが和田だけではなく、左インサイドハーフの持井も相手していたことが最も大きな要因になりそう。2センターバックのどちらかが余っていれば、中盤のスペースを埋めるためにフォローに入れただろうけど、持井がずっと裏抜けを狙って仕掛けてきていたので、野々村鷹人も持ち場を離れるわけにはいかなかったのが実情。

霜田監督のコメントの中で言う、「意図的に蹴られてこぼれ球がそこに転がっている」状態である。沼津は松本のセンターバックとダブルボランチをタスク過多にして、中盤の主導権を握ることに成功していた。

これを解消しようとすると、極限まで最終ラインを上げてボランチがカバーするエリアを狭めていくことくらいしか出来なさそう。センターバックよ、もっと勇気を持って!という精神論に行き着いてしまって申し訳ないのだけど。


一瞬の受身が運の尽き

そんなこんな言いながら、セットプレーから榎本樹の技ありヘッドで追いつき、下川陽太が直近数試合のクロス精度うんぬんの雑音を振り払うような高精度クロスで山本龍平の逆転弾をお膳立てするなど、82分に勝点3を一度は手中に収めた。

問題はここからの振る舞い。

全体的に体力が限界に近かったこともあり、チームは完全に受け身に回ってしまった。自陣ペナルティエリア近くにブロックを敷き、残り10分近く沼津の攻撃を跳ね返そうというスタンスが見て取れた。
みすみす沼津を自陣深くまで引き込み、決定機を与えることになってしまったのだけど。

住田将・鈴木国友・榎本樹が交代で下がった状態にあって、自陣で跳ね返す判断が正しかったかどうかは疑問が残る。ましてや霜田監督の目指すところを考えれば、残り10分で1点差を守り切るよりも、4点目を取って沼津の反撃ムードを断ち切ることが重要だったのではないか?4点目を取りに行く姿勢を見せられなかったことが逆転劇を引き寄せてしまったのではないか?と悔やまれる。


総括

どうして今季は難しい試合が続くのだろうか。。

毎試合のように自分たちの信念の強さを問うてくるような試練が襲ってくる。プレッシングを無効化するロングボール攻勢、アンカーを捕まえに来るボランチを逆手に取った中盤タスク勝負、数的同数のプレッシングによるビルドアップ阻害。
この試合に限っても多くの課題に直面することになった。

どれも一朝一夕で解決できるような課題ではない。地道に積み重ねていって、自分たちの歩んでいる道が正しいことを信じてピッチで100%表現し続けるしか無い。そのためには、勇気を持つことが大事。
チャレンジする勇気、止めない勇気、一歩前に出る勇気。

今のところ試合序盤15分やハーフタイム明け10分など、チャレンジングな姿勢を見せられているのは時間限定になってしまっている。いかに長い時間続けられるかが、チームの成長をモニタリングしていく上でのバロメーターになりそうだ。

信念を貫けるかどうか、チームは岐路に立たされようとしている。


俺達は常に挑戦者


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