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【違和感の正体は】2024 J3 第4節 松本山雅×福島ユナイテッドFC マッチレビュー

スタメン

ミッドウィークにルヴァンカップで120分戦った松本は先発8人を入れ替え。野々村鷹人・住田将・山口一真以外が総入れ替えとなった。前節負傷交代となっていた高橋祥平が無事にスタメンとして戻ってこれたのは良いニュースで、ベンチには菊井悠介も復帰している。
一方で120分の激闘をこなしたことでやりくりが難しくなったのも事実。藤谷壮は足を攣っていたのでメンバーに入れられなかっただろうし、連続してフル出場となっていた常田克人も先発を外れることとなった。

対する福島はルヴァンカップから6人変更。前節とは全く同じメンバーとなった。昨季との違いは結構多い。まず長く使われてきた3バックから4バックにシステムが変わっており、加えて新加入選手が7人先発している。中盤のトライアングルはリーグ屈指のテクニカルな面々で、彼らから繰り出されるショートパスを起点にしながら組み立てていくスタイルへと変貌している。


再現性のある崩し

立ち上がりの主導権を握ったのは松本だった。

昨季から継続して取り組んでいて、かなり整理されてきたボール保持時のポジショニングで福島のプレッシングを無効化していく。

開幕戦のマッチレビューで利用した画像を引用

画像にあるように同サイドの3人がトライアングルを作るような立ち位置を意識的に取り。常にパスコースがあるような状態を作り出す。
この試合ではもうひとつレベルを上げて、4人目の選手が絡んできて菱形を作り出すようなところまでスムーズに行えていた。

開幕戦のマッチレビューで利用した画像を引用

こうすることでボールホルダーに対して複数のパスコースを提示し、ワンツーなどダイレクトプレーも繋がりやすくなっていたのが印象的だった。

この手の立ち位置の整理は敵陣に入ってからも見受けられ、特に右サイドは成熟度が上がっていたと思う。馬渡和彰・村越凱光・山口一真・山本康裕が絡む攻撃は立ち位置を入れ替えながら、ただ4人が描いている画は同じという理想形に近いものだったと思う。描いている画が同じというのは、最終的にどこを崩すかどのスペースを陥れるかのイメージが共有できていたということ。多くはペナルティエリア左右のスペース、いわゆるポケットと呼ばれるスペースを使うことを狙っており、これはチーム内でコンセプトが共有されている効果が現れていた結果だと思う。

すごく良い崩しの形を何度か見せていたのだが、まだまだ課題も多かった。

まず、この試合では良い形を見せられる場面が右サイドに極端に偏っていたこと。理由は明確でセンターバックに左利きの選手(=常田克人)がいなかったからだ。最終ラインからビルドアップしようとしたときに、高橋祥平も野々村鷹人も右利きなので自然と身体の右側にボールを置く。パスを出しやすいのは右サイドになってくるので、せっかく高橋祥平までボールが渡っても樋口大輝にはパスが出ずに右サイドへ戻ってくるシーンも多かった。
ボランチに左利きの住田将を起用していたのだが、彼はどちらかというと最終ラインに落ちてビルドアップをサポートするというよりは、本来のボランチの位置か少し前でボールを引き出す動きを多くしていた。ビルドアップのサポートには右利きの山本康裕が入っていたので、ここでもやはり右サイドからの攻撃回数が多くなってしまっていた。

もうひとつの課題は、同サイドに選手が4人揃わないと崩しの形が再現されにくいこと。先程は馬渡和彰・村越凱光・山口一真・山本康裕が絡んだ攻撃が魅力的だったと書いたが、例えば山本康裕が疲れてきて攻撃参加が遅れてしまったり、サイドチェンジによるスライドが間に合わず山口一真が絡めなかったりすると、途端に攻撃が詰まってしまう。
おそらく4人が絡んだ崩しの形はキャンプから相当練習を重ねてきていて、分かっていても止められないレベルに近くなってきている。しかし4人揃わなかった時にどうするか?という部分がまだ未整備で、やや選手のアイデア任せになってしまっている気がしている。

浅川隼人の得点力を活かすならばポケットを取る崩し、そこからの折り返しは最も効果的なパターンになってくる。そこまで計算して浅川隼人を獲得し、チームとしても崩しの成熟度を上げてきているはず。狙っている理想パターンを繰り出す回数を増やしたいところなのだが、4人揃わないと発動条件を満たさないとなってくると少しハードルが高い印象がしてしまう。
打開策としては、3人だったりで崩せるような形を生み出していくか、元々想定していた誰かが絡めなかった時に他の選手がリカバリーするか。なんとなく後者でチームは歩みだしている気がする。村越凱光が逆サイドまでサポートに出張してきたりする理由はここにあるのではないかと思ったり。

めちゃ強い武器だけど、実戦投入してみたら使える条件が厳しくて使えないので、それ以外の攻撃手段を模索しているというのが実情なのかもしれない。


大きすぎた様子見の代償

立ち上がりの主導権を握ったのは松本だったと書いたが、握れていたのはほんの少しの時間帯。それ以降は握れていたというよりは握らされていたという表現が正しかったと思う。

松本はかなり慎重な姿勢で試合に入った。霜田監督の目指すスタイルのウリだったはずのプレッシングを自重し、ピッチ中央辺りにブロックを敷いて福島のパス回しに対して様子見のスタンスをとったのだ。

特に福島のセンターバックがボールを持ったときは顕著で、アンカーの加藤が降りていってボールを触ったときも同様。プレッシングにいく素振りすら見せず、明らかに”捨てている”ゾーンがあった。その代わり山口一真と安藤翼は中央を占めるように意識していて、両サイドハーフも大外に張っている福島サイドバックに最初からついているのではなく内側に絞った立ち位置を取るようにしていた。福島の生命線が中盤トライアングルによるパス回しで、特にインサイドハーフがパスを引き出す動きに対して敏感になっているようだった。

中盤逆三角形の布陣でショートパスを繋いでくる相手であれば対応方針としては王道だと思う。ただ、それにしてはブロックを組んだときの完成度が低すぎたし、そもそもミドルブロックを組んで迎撃するような練習してないのではないか?と疑問を感じるレベルだった。

特にまずかったのは、相手選手がブロックの中に入ってきたときの対応。左インサイドハーフの大関はかなり上下に動くタイプで、ブロックの外に出てパスを引き出したり、ブロックの中に隠れたりを常に繰り返していた。相手のキーマンであり、ここに一番パスを通されていはいけないので監視すべきだったはずなのに、多くの場面でフリーにしてしまっていたのはいただけない。ブロック守備=マークにつかなくていいという状態になってしまっていたので、結構自由にさせていたと思う。

同じく自由にさせてしまっていたのは左ウィングの森。彼はウィングでありながらも基本プレーエリアはトップ下に近いような場所で、中央に入ってくるような選手。本来ならセンターバックが見ているべき選手だが、この日は誰がマークに付くのか曖昧になってしまっていた。

ミドルブロックで構える対応が上手くハマっておらず、ヤバいなーと思っていた矢先に先制を許してしまう。フリーにさせていたセンターバック堂鼻から鋭い縦パスが大関に入ると大関はスルー。松本のブロックの間をすり抜けたパスを矢島がフリックして食いついた野々村鷹人を置き去りにすると、完全フリーになっていた森へボールが渡ってしまう。慌てて寄せた高橋祥平が入れ替わられてしまい冷静なフィニッシュを沈められて失点。

一連の流れはまさに松本が様子見をしている時間帯に、捕まえられていなかった選手たちにやられてしまったもの。福島のクオリティも高かったが、松本が自分たちで招いてしまった失点であることは間違いない。特に堂鼻からの縦パスで山口一真・住田将・村越凱光の3人が一気に置き去りにされてしまった部分はよろしくない。ブロックを敷いていたなら最も警戒しなければいけないパスコースだし、その前にも何度か大関にパスを通されているので早めに対応しなければいけなかった。全員が立っているだけ状態になってしまってミドルブロックを成していなかったのは残念だったし、このあたりからトレーニングを積んできた形ではなさそうだなと思ったりした。

失点後すぐに修正が施されてミドルブロックを組む形からハイプレスに切り替えたのは良い対応だったと思う。傷が深くなる前に手を打ったのはその後失点しなかったことに繋がっているし、チームの対応力は上がっているなと思わされた場面でもあった。

一方でハイプレスが効いていたかと言われると、それは別の話。本来のようにセンターバックへプレッシングを掛けるようになったが、福島はここも織り込み済みで、ハイプレスに連動して前に出るボランチの背後を狙ってきた。
わざと自陣深くでビルドアップをして、1トップの矢島はわざと下がらずに前線に残ることで松本センターバックを引きつける。そうすると前に出る前線と矢島が気になってラインを上げられない最後尾との間に大きなスペースができてしまう。福島が狙っていたのはココで、森だったりインサイドハーフの選手だったりが上手く位置取りをして、松本のプレッシングの逃げ口を作り出していた。

守備面ではプレッシングがなかなか機能せず、攻撃面では時間を追うごとに疲労から人数をかけられなくなっていって、自分たちの狙いとする崩しの形を再現できず。菊井悠介と浅川隼人の関係性で決定機を作りはしたが、それ以外は大きな変化を起こせないまま試合を終えることになってしまった。

気になるのは、前節終了後に霜田監督が試合内容について辛口のコメントをしていたにも関わらず、同じような試合の入りをして敗北してしまったという点だ。

個人的な推測として、前節を含めて試合のテンポを落とすような展開は選手達が自発的にやっているのではないかと思っている。開幕2試合を戦って序盤からハイプレスをかけると息切れが早いという状況を鑑みて、ベテラン選手が作り出すゆったりとしたリズムで試合をコントロールする方向に針が傾いたかなと。加えてハイプレスの申し子になっていた菊井悠介が離脱したことも流れに拍車をかけた可能性がある。

大前提として霜田監督はピッチで表現するサッカーに関してかなり多くの権限を選手に渡している。状況に応じたシステム変更すらも許容すると記事に出ていたのだから、相手に合わせてどんなテンポで試合をするかも当然選手に考える権利があるはず。
権限委譲をしたことで試合中の修正が早くなったというメリットもあったが、デメリットとして表面化したのがここ2試合のスローテンポな試合運びな気がしている。奇しくもボールを多く触って試合のテンポを作り出すビルドアップを担う選手にベテラン組が多いこともあるだろう。そしてベテラン組を温存したルヴァンカップでは従来のようなハイテンションを見せていたことも引っかかる。

選手達が自主的に考えて判断をしていくことは悪いことだと思わないが、その結果として霜田監督が植え付けたチームコンセプトまで揺らいでいるのだとしたら不健全な状態だと思う。チームコンセプトという大きな枠組みが土台としてあり、その上で相手との噛み合わせを見ながらどう表現するかを選手に任せるという形であるべきだろう。


総括

ほぼ見せ場を作れないまま開幕からの無敗が3で途絶えてしまった。そして改めて見れば3戦未勝利である。

先に書いた権限委譲のメリデメはあくまで推測でしかないが、霜田監督が掲げていた、下條さん含めてクラブとして目指していたサッカーからここ2試合遠ざかっているのは事実。

霜田監督としてもだいぶ思ってたんと違う!状態になってそうなので、少し心配している。共通認識となるスタイルが土台としてあるからこそ個人個人の個性や創意工夫がアクセントになるのであって、土台が崩れてしまうとただ個人がバラバラに動いているだけになってしまう。
そうならないことを切に願うが、なんだか嫌な感じがした試合だった。


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