見出し画像

【未来へ託す執念のドロー】2024 J3リーグ 第2節 松本山雅×FC琉球 マッチレビュー

スタメン


開幕戦を辛くも勝利した松本はアウェイ連戦。コンディション不良の菊井悠介・滝裕太がメンバー外となり、安藤翼がトップ下にスライドして右サイドハーフに村越凱光、左サイドハーフには山口一真が入る。また、ボランチでは安永玲央が先発に名を連ね、開幕戦スタメンだった住田将がベンチスタートとなっている。
サブでは村山智彦と山本龍平が外れて、大内一生と藤谷壮が入っている他、國分龍司と米原秀亮が控える。今節もFW登録選手はベンチに入らなかった。

対する琉球は、実に7名が新加入選手。高安・福村などが負傷離脱する中、高卒ルーキー幸喜が2試合連続スタメンに名を連ねるなど大胆な采配も見られる。昨季リーグワーストの61失点を喫した守備を立て直すべく、六反や藤春といったベテランに加えて、鈴木や増谷と実力者を補強。クラブとしての本気度がうかがえる陣容となっている。


ポジティブだった要素

結論から言ってしまおう。
部分部分で良いところも見られたしトライをしていたことは間違いないが、それ以上に構造的なダメージが大きく、内容としては納得いかないものだった。という感想を抱いている。
まず良い部分について書いた後に、それを帳消しにしてしまった構造的な課題について整理していく。

まず前半の決定機の数。
開始早々に浅川隼人が放ったシュートはポストに嫌われたが、その後も浅川隼人や安藤翼に何度も決定的なシーンが訪れた。前半は向かい風で、試合の主導権も相手に握られている時間が長かった中で多くの決定機を作り出したのはポジティブな要素だった。
加えて、浅川隼人が多くのチャンスを掴んでいたのもチームとしては良い傾向。昨季の小松蓮がそうだったように、このチームの設計図におけるフィニッシャーは1トップの選手である。1トップの選手がいかにネットを揺らせるか、周りはどれだけ多くのチャンスを1トップの選手に供給できるかが肝になるわけで、こと前半においては少なくとも4回は決定機を供給できていた。

決定機という点に派生するが、セットプレーも良かった点に挙げられる。安藤翼と樋口大輝がそれぞれフリーで合わせるシーンを迎えることができていた。高さに強みのある選手がニアに複数走って相手を引っ張り、残りの選手はファーに逃げてゴール前中央のスペースを空ける。そこに走り込んできた選手がバチコン合わせるというデザインされたセットプレー。これは琉球のマンツーマンディフェンスを逆手に取ったものだったし、スカウティングを重ねたうえで導き出されたものだったはず。今季はキャンプからセットプレーに相当力を入れていたので、得点には繋がらなかったが一定の成果を出したことは良かった点だろう。
決定機に繋がった背景としてスカウティングが当たったことはもちろん、デザインされた通りに実行できる馬渡和彰のキック精度が素晴らしかったと思う。曲がりながら鋭く落ちてくるボールはGKも飛び出しにくく、いずれもピンポイントで味方に合っていた。

良かった点として最後3つ目。相手とのミスマッチを見つけ出したことを挙げたい。
詳しくは後述するが松本はビルドアップに苦しんでいた。そんな中でひとつの解決策になっていたのは安藤翼。相手のアンカー岡澤とのマッチアップで空中戦に競り勝つシーンが多々あり、個の力で優位に立てていた。
安藤翼のトップ下起用自体が急遽決まったものであり、事前にスカウティングして仕込んでいたというよりは試合を進める中で発見したものだっただろう。この発見を上手く活用したのが先制点のシーン。前半相当に苦しんでいた自陣深くからのビルドアップを止めて神田渉馬はロングキックを選択。安藤翼が競り勝ったところから敵陣での攻撃が始まり、村越凱光のミドルシュートに繋がっている。その後はあまり活用シーンが見られなくなってしまい、個人的にはもっと徹底的に突いて良かったと思っていたので残念だったが、流れの中で見つけたミスマッチを意図して利用し成果を掴んだのは良い成功体験だったと思っている。


ビルドアップで苦しみ続けた理由

良かった点はここまで。ここからは構造的に苦しんだ部分をいくつか書いていきたい。
まずはビルドアップ。

今節も変わらずというか、昨季からずっとベースとなっているお約束で、ビルドアップは2センターバックとダブルボランチの合計4人で行うというのが基本形だ。この4人の立ち位置は厳密に決まっておらず、ボランチがその時時の判断でセンターバックの間に下りてきたり、センターバックの左右どちらかに下りてきたり、相手との噛み合わせなども見ながら柔軟に変化していく。

前節宮崎は4-2-3-1のシステムでトップ下は2トップ気味になって2センターバックに寄せるので、中盤は実質ボランチの2枚だけ。松本はダブルボランチとトップ下の3枚だったので、それほどプレッシャーがきつくなく、3人のうち誰か1人はフリーになるという状況だった。だから菊井悠介も下りてきたりしてうまくビルドアップの出口になっているシーンがあったと思う。

ただ、今節は相手のシステムが異なる。中盤逆三角形の3-5-2を使う琉球相手だと、松本のビルドアップの形はガッチリと噛み合ってしまうのだ。

2トップで高橋祥平と常田克人を監視し、インサイドハーフで山本康裕と安永玲央を見る。安藤翼のそばにはアンカーの岡澤がいて、馬渡和彰と樋口大輝の対面にはウィングバック。ここまで書いて分かるように中盤から後ろの選手には常にマンツーマンで人を付けられるような配置になっている。
ビルドアップの局面においては、いわゆる”システムの噛み合わせが悪い”というやつだ。
さらに厄介なことに、琉球は松本のスタイルを相当研究してきており、ビルドアップの生命線がボランチへのパスコースであることも見抜かれていた。そのため2トップは無理にセンターバックまで寄せに来ることはなく、基本スタンスとしてボランチへのパスコースを遮断することを第一としていた。

松本も安永玲央が最終ラインに下りるなど、相手に容易に捕まらないよう工夫をこらしていたが、結局2トップ+インサイドハーフの4枚で監視されているという状況は変わらず。常に4対4の数的同数を作られているのでボランチがどう動こうと手詰まりな状態を抜け出すことは難しかった。

数的同数でプレッシングを掛けられた場合には、GK神田渉馬をビルドアップに組み込むというのが王道の解決策。実際に松本も行っていたし、神田渉馬も自分の役割を自覚して積極的にペナルティエリア外へ飛び出してきていた。ただ、もったいなかったのは神田渉馬がボールを持った時のセンターバックの立ち位置。

神田渉馬がボールを持った時に、高橋祥平と常田克人はもっと外に開かないと効果が半減してしまう。というのも、近い位置にいると相手の2トップが同一視野でGKとセンターバックを見ることができるので、ボールを持っている人が違うだけで状況はあまり変わっていない。相手からすればGKがそのままドリブルすることはないわけで、あえて寄せにいかず、GKからパスが出たらプレッシングに出れば良い。言ってしまえば”怖くない”のだ。
理想としては、もっとセンターバックが外に開いて、2トップが同一視野ではGKとセンターバックを見られないくらいの位置にいるとようやく効果が出てくる。2トップの選手に、センターバックに付いていくべきか中央に残るか迷いが生じるからだ。
もちろん、GKとセンターバックが距離を空けるとパスカットされるリスクが高まる。これまでずっと松本というクラブの思想として、自陣でのビルドアップではリスクを犯さないというのが原則だったので、慣れていない選手が大半だ。神田渉馬は技術的には問題ないと思うが、どちらかというと周りの選手も含めたメンタリティの部分。このあたりを浸透させるには時間がかかるかもしれない。

システムの噛み合わせが悪かったという話をしていたが、メリットデメリットは表裏一体で松本にとって良い部分もあった。それはアンカー脇のスペースだ。インサイドハーフが松本ボランチに食いついて前線へ出ていく分、背後のスペースケアが甘くなっていた印象。ここを狙う役割を担っていたのは村越凱光と山口一真。

山口一真は序盤から「分かっていた」ムーブをしており、琉球の右インサイドハーフ平松の背後にポジションを取り続け、ビルドアップで困っていてもあえて残り続けていた。ところが彼が恵まれなかったのは、この日のボランチはどちらも右利きの選手だったということ。どうしても右足でボールを扱うがゆえに松本の攻撃は右サイドに偏ってしまいがちで、左利きとして頼みの綱である常田克人もプレッシングを受けて縦パスを入れる余裕を与えてもらえなかった。そのため山口一真はすごく良い位置をとっているのに、肝心のパスが来ないというフラストレーションの溜まる60分間を過ごすこととなった。
では右サイドはどうだったかというと、村越凱光がなかなか本来いるべき位置で我慢できず上手くいっていなかった。元々ドリブラー気質でボールを持ってナンボの選手である村越凱光は、無意識なのかボールホルダーに近づいていってしまう。ボランチのあたりまで下がってきてボールを受けようとすることもしばしばで、チームとして居てほしい位置に留まることができていなかった。なかなか自分のもとにボールが来ず、もどかしくなるのは理解できるが、そこでいるべき立ち位置を捨てて下がってきてしまうのはチームにとってマイナスが大きい。自分はどこに立ち位置を取るべきか理解し、焦れずに留まり続けられるか。ここが今季の村越凱光にとって最大の課題になるだろうし、改善できないと安藤翼からポジションを奪うことは難しい。サイドハーフにとって必須要件に近いプレー原則だからだ。
しっかりといるべき場所で待てたときは良いボールが入り、実際にシュートに持ち込むこともできていた。前半24分過ぎのミドルシュートに繋がったシーンだったり、前半終了間際に高橋祥平から鋭い縦パスを受けたシーンがそれに当たる。この形は琉球の構造的欠陥を突いていたし、再現性のある局面打開だったので、もっと前半に回数を増やせていれば…と悔やまれる点である。



狙われ続けた背後

もうひとつ構造的に苦しみ続けた場面があった。それは2失点ともに直結している最終ラインの背後へのランニングだ。

松本の基本思想としてサイドバックは高い位置を取る。高い位置を取るということはその分背後に広大なスペースが生まれるということだ。琉球は快速FWで徹底的にこのスペースを突いてきた。

両サイドともに狙われていたが、時間経過とともにビルドアップが上手くいかない状況を見て馬渡和彰が下がってくるようになったため、より多く狙われていたのは樋口大輝が出ていく左サイドだった印象。常田克人がPKを献上してしまったシーンもそうだし、2点目も同様に左サイドだ。

難しいのは上がっている樋口大輝が悪いのか?というとそうではないということ。サイドバックが上がるのはチーム全体としての決まりごとで、むしろ松本にとってはストロングポイントにしていきたい点である。つまりサイドバックが上がった背後を狙われることも当然想定内だったはずで、誰がカバーする算段だったのかが焦点となる。

原則としてはセンターバックになるだろう。特に2トップが背後へ抜け出したときはなおさらだ。センターバックには抜かれたら終わりの1対1で止めることが求められているのは昨季から変わらずで、常田克人は白井を封じなければいけなかった。

一方でインサイドハーフが飛び出してきた場合はどうするか?
ここについては開幕戦、いやキャンプで横浜FMとトレーニングマッチをした時からずっと課題になっている。センターバックは2トップをマークしなければいけないのでカバーに出れず、やや宙ぶらりんになっているシーンが見受けられた。ボランチがカバーするのが定石になるだろうけど、ビルドアップの局面であちこちポジションを移動していたりする関係で間に合わないこともあったりする。
今後も毎試合のように狙われるポイントになってくるだろうし、誰がカバーするのが原則なのか、(おそらく決まっているのだろうけど)改めて認識統一が必要だと思う。

この試合に限った話をすれば、1点リードした段階で樋口大輝の上がりを自重させるべきではなかったか?と思っている。サイドバックが高い位置を取るのが基本形だったとしても、露骨に逆手に取られている状況が目の前にあるのだから、リードした段階で修正をいれるべきだったかなと。特に後半、チーム全体の運動量が落ちてきてプレッシングが効かなくなってきてからも、樋口大輝は攻守両面で常に高い位置を取り続けていたのが気になった。ルーキーに試合展開に応じて考えてポジション修正しろと言うのはハードル高いと思うので、ベンチからの指示かピッチ内の誰かが指示を出してあげるべきだったなと思う。2失点とも、サイドバックの上がりを自重していれば防げた失点だった。


総括

ラストワンプレー、野々村鷹人のヘディングでなんとか勝点1をもぎ取った執念は称賛に値する。
けれど、この引き分けの価値を高められるかどうかは今後の戦い次第だ。

菊井悠介という絶対的な主軸を欠いていたという緊急事態ではあったものの、チームとして抱えている構造的な課題は変わっていない。むしろ開幕2戦で露わになってしまった分、今後の対戦相手に狙われる可能性のほうが高い。

新加入選手も増えてきてチームビルディングの真っ最中。今回のような苦しい試合が続くかもしれない。より自分たちで首を絞めないよう、いかに早い時間に複数得点を奪って試合を決められるか。そして後半の落ちてくる時間帯を凌げるか。頂点を目指すならば勝つこともそうだが、負けないことも大事になってくる。
課題と向き合いつつ、しぶとく勝点を拾っていきたいところだ。


俺達は常に挑戦者



筆者のXアカウントはこちら。よければフォローお願いします!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?