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#081 副業推進の起爆剤になるか? - 「中小企業デジタル化応援隊事業」について

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こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

今回は「ポートフォリオ分析」特集の7回目を書く予定でしたが、9月1日に中小企業庁から「中小企業デジタル化応援隊事業」に関する発表がありましたので、割り込みでこの話題について書いておこうと思います。

「中小企業デジタル化応援隊事業」を開始します (METI/経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2020/09/20200901006/20200901006.html

今年(2020年度)の第1次補正予算で計上された100億円がこの事業に使われます。
私のような IT に強みを持つ企業内診断士にとって、かなり気になる内容になっています。

「中小企業デジタル化応援隊事業」の概要

デジタル化応援隊_1

(上記Webサイト → https://digitalization-support.jp/ )

「中小企業デジタル化応援隊事業」とは、中小企業のテレワーク導入などのデジタル化を支援するために、デジタル化を行いたい中小企業と、中小企業に対してアドバイスを行うIT専門家とをマッチングする取り組みです。

「中小企業デジタル化応援隊事業」を開始します (METI/経済産業省) https://www.meti.go.jp/press/2020/09/20200901006/20200901006.html

日程は、2020年9月1日から2021年3月末までの7ヶ月間。
すでに、上記の Web サイトにおいて、支援を受けたい中小企業と支援を行いたい IT 専門家の登録申請が始まっています。

中小企業とIT専門家、それぞれにとってのメリット

この事業、中小企業・IT専門家の双方にとって大きなメリットがあります。

デジタル化応援隊_2

中小企業側は、極めて安価なコスト(おそらく1時間500円の支払いになるケースが大半でしょう)で、専門家のアドバイスを受けることができます。
また、IT専門家側は、特定の IT に関する知識と経験(Webサイトの構築とか、Web会議システムの導入とか、社内SNS活用のアドバイスなど)さえあれば、特別な資格がなくても、副業としておよそ1時間4,000円程度のお金を頂くことができます。
将来 IT 系コンサルへの転職を考えている人にとっては、お金だけでなく、貴重な経験も得られることでしょう。
なお、現在の状況を考慮し、Zoomなどをつかった遠隔でのアドバイスもOKとのこと。かなりハードル低いです。

契約形態は、中小企業とIT専門家は、成果物を納品して対価を受け取るという「請負契約」ではなく、時間単位の稼動に対して対価を受け取る「準委任契約」になっています。
成果物の納品・検収が難しい今回のようなケースにおいて、極めて妥当な形だと思います。

事業スキーム

今回の事業のお金の流れは以下のとおり。

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相談を受けたい中小企業は、その相談内容とともに、自社の情報を事務局に登録します。
一方、支援を行いたいIT専門家は、自分の得意分野や過去の実績などを付記して、自分の情報を同じように事務局に登録します。

両者の登録が済めば、事務局によるマッチングが行われ、それぞれがそのマッチング結果に合意すれば契約・業務スタートということになります。
事務局からは最大3,500円の謝金の補助が出るため、例えば1時間4,000円の契約であれば、中小企業が支払う金額は500円/時、IT専門家が受け取る金額は4,000円/時、になります。

なお、マッチングに関しては、事務局にお願いするだけではなく、予め中小企業とIT専門家の当事者同士で業務を行うことを合意しておいた上で、それぞれが事務局に登録するというやり方もあるようです。
この場合も 3,500円の謝金の補助がもらえます。

支援側の「IT専門家」について

今回の事業で特徴的なのは、IT専門家は、登録事業者のみならず、
「個人として本事業への参加を希望するフリーランス・副業・兼業の方」
もOKとしているところです。
特に、開業届すら出していない、普通のサラリーマンが専門家として応募できる今回の仕組みは、かなり珍しいのではないかと思います。

コンサルの価格破壊をもたらす危険性について

この取り組み、専業のプロコン視点からみると若干気になる点もあります。
それは、この取り組みが、コンサル業務の価格破壊につながらないか、という点です。

今回の事業で中小企業側が支払う金額は、大抵の場合たったの500円/時、です。これは破格の金額です。
(中小企業診断士の民間業務の診断報酬は、1日10万円程度が目安といわれているそうです。)

今後もこうした事業を国が継続するようであれば、コンサル業界にとって少なからずダメージになる可能性があるかもしれません。
ただ、今回の事業はおよそ半年の期間限定の取り組みです。
中小企業庁としても、まずは今回の取り組みをやってみて、こうした問題が出ないか確認の上で次のステップを検討することになると思われます。

顧問契約と補助金申請の間を埋める

現在中小企業に対してこのような支援を行う場合、企業とコンサルとの座組としては、大きく
(1) 顧問契約に基づく継続的な日々の経営相談・支援
(2) 補助金申請のような、ワンショットの支援

の2つがあります。

(1)は、経営者の方の日々の悩みを聞いたり、長期的に経営改善を行うことができますが、どうしても顧問料は高額になりがちです。そもそも経営が苦しくて外部のアドバイスに頼りたいと思っている場合には、なかなかハードルが高かったりします。
(2)は、企業側は着手金と成功報酬をコンサルに支払うという契約が一般的かと思います。この場合、着手金のみ用意できれば話を進めることができるため、企業側からすると比較的ハードルは低いです(成功報酬はもらった補助金から支払えばOK)。

今回のような取り組みは、これら2つの間を埋める、「あまりお金は出せないけれど、日々のちょっとした悩みを専門家に聞いてもらいたい」という企業側のニーズに応えられるのではないかと感じています。
そもそも、補助金申請は、企業側が自社の課題を認識している場合には有効ですが、何が問題なのか気がついていない状況では使うきっかけすら見つけにくいです。
もっと気軽に、継続的に外部の視点で自社の経営を見てくれる相談者とお付き合いできるような形が広がっていくと良いと思います。

経済産業省が副次的に狙っているであろう「副業推進」の効果について

最後に、今回の取り組みが、大企業社員の副業推進を加速する可能性について書いてみたいと思います。

この事業が発表された9月1日の同じ日、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改訂を発表しました。

副業・兼業|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

上記Webサイトには、「企業も働く方も安心して副業・兼業を行うことができるようルールを明確化するため、令和2年9月にガイドラインを改定」とあります。

以下がその改訂されたガイドライン。

副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成30年1月策定・令和2年9月改定)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf
上記ガイドラインの概要
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000665402.pdf

さて、このガイドラインにおいては、
「副業・兼業の禁止又は制限」
のところで、
「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由」
であり、
「労働者の副業・兼業が形式的に就業規則の規定に抵触する場合であっても、懲戒処分を行うか否かについては、職場秩序に影響が及んだか否か等の実質的な要素を考慮した上で、あくまでも慎重に判断することが考えられる」
と明記されていました。
もう会社が社員の副業を禁止して良い時代ではない、ということです。

加えて、今回の改定案では、副業における労働時間の管理に関するルールなどが明確化されました。
国がここまで本気になってルール作りを進めている以上、今後、企業側も、社員の副業を推進するためのルール整備が必須になってくるものと思われます。

以前、

#066 企業が副業を解禁することで得られる3つの効果
https://note.com/yukio_tada/n/n43be5a9d8e9a

という記事にも書かせて頂いたとおり、コロナ禍でテレワークが進んだ結果、優秀な人ほど副業を希望する流れは加速していくと思います。
今回の「中小企業デジタル化応援隊事業」もこうした流れに沿ったものだと思いますし、こうした流れに柔軟に対処できる企業が成長していくのだろうと思います。

まとめ。

(1) 2020年9月1日から、中小企業庁による「中小企業デジタル化応援隊事業」がスタートしました。期間は2021年3月末まで。デジタル化を推進したい中小企業と、こうした中小企業の相談に答えられるIT専門家をマッチングするとともに、国の予算からコンサル料金の補助を出してくれるという事業です。

(2) 支援者であるIT専門家は、開業届を出していなかったり、特別な資格を持っていない人でも、相応のITに関する知識と経験があれば応募することができます。極めて低いコストで専門家にコンサルを頼むことができる今回のスキームは、お金に余裕の無い中小企業にとって、自社の悩みを気軽に相談できるよい機会だと思います。

(3) 経済産業省がこのような取り組みをおこなったり、厚生労働省が副業に関するガイドラインを拡充するなど、国として社員の副業を推進しようとする意思を強く感じます。こうした流れをきちんとつかんでいる企業が今後成長していくように思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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