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#001 「イノベーションセンター」はなぜうまくいかないのか

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みなさんの会社には「イノベーションセンター」とか「研究開発部」みたいな部署ってあるでしょうか?

今みたいに競争が激しい時代だと、イノベーションを起こせるかどうかがその会社の業績に大きく影響するので、こういう部署にはエース級の人材が配属されることも多いと思います。部署名もなんだかかっこいいですよね。憧れます。

ただ、この「イノベーション」というやつは非常にやっかいで、その内容をきちんと理解していないと、どんなに一生懸命施策を打っても全てが逆効果になることがあったりします。
結果が出ないだけならまだしも、社員がやる気を失ってしまったり、果ては会社を辞めてしまったりすることにも繋がりかねません。

一体何を間違えるとそういう事態を招くのでしょうか??

イノベーションのジレンマ

「全ての施策が逆効果」というあたりで、勘のいい方は「ああ、イノベーションのジレンマの話ね」と思われたかもしれません。
おっしゃるとおり、まさにイノベーションのジレンマは「一生懸命やればやるほど逆効果になる」の良い例だと思います。

ここは、もう、有名な話なので、尊敬する中島さんの Web サイトを見て頂ければ良いでしょうか。
真面目に顧客の意見を聞いていると破壊的イノベーションに対応できない、という例のやつです。

 Life is beautiful: 図解、イノベーションのジレンマ https://satoshi.blogs.com/life/2005/11/post_2.html

クリステンセンさんが来日したときの話

ちょっと遡りますが、2015年11月、この「イノベーションのジレンマ」の著者であるクリステンセンさんが来日された事があります。
私は、当時お付きあいのあったある会社さんのおかげで、幸運にも講演を拝聴することができました。

その際に話されていた内容を、私の解釈を加えて書き起こしてみたのが以下の図です。

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上の "Disruptive Innovation" が、「イノベーションのジレンマ」でも注目された「破壊的イノベーション」。
で、右下の "Sustaining Innovation" は、破壊的イノベーションに破壊される「継続的イノベーション」です。
今回は、これらに加えて、左下の "Efficiency Innovation" 「効率化イノベーション」というのが新しく出てきています。

イノベーションのジレンマでは、破壊的イノベーションと継続的イノベーションについてしか書かれていませんでしたが、
これに効率化イノベーションを加えることで、イノベーションをベースにした事業のライフサイクルを定義することができる、というのが、クリステンセンさんの講演の中で、私が一番感銘を受けた部分です。
いつの間にか「イノベーションのジレンマ」は次のステップに進化していたのですね。

3つのイノベーション

では、3つのイノベーションそれぞれについて、もうちょっと詳しく見ていきましょう。

(1) "Disruptive Innovation" (破壊的イノベーション)
既存のビジネスを破壊するような、業界全体を変革してしまうようなイノベーション。新しい市場や、あたらしい雇用を生み出します。
日本企業の偉い方々がシリコンバレーを視察するのは、おそらくここのイノベーションを期待しているからだと予想します。

(2) "Sustaining Innovation" (継続的イノベーション)
一旦できあがった市場に対して、顧客の声をきちんと聞くことで製品やサービスの質を上げていこうとするイノベーション。
マーケティング部門の方々が「もっとお客様の声を聞こう」みたいな社内キャンペーンをやったり、アンケートのビッグデータ解析をやったりするのはたぶんここですね。

(3) "Efficiency Innovation" (効率化イノベーション)
成熟した市場に対して、製造やオペレーションの効率を上げていくことで、収益率を上げていこうとするイノベーション。
あまり経営戦略上のキーワードになることは少ないような気がしますが、日常業務のかなりの部分はここに属するのではないでしょうか?
日々の改善活動とかはたぶんここ。

で、ここで効率的に稼ぎ出したキャッシュを、次の破壊的イノベーションにつなげて行く、というのがイノベーションのライフサイクルです。

それぞれ施策は異なる

ここで重要になってくるのは、上記3つを生み出すための組織の作り方はそれぞれ違う、ということです。

例えば上司の性格。
(3)の効率化イノベーションが得意な上司って、どんな性格を思い浮かべるでしょうか?
・小さいことをコツコツと計画を立てて行う
・リスク管理をしっかりして、無用なリスクはとらない
・手順をきめて、それをしっかり守る
・チーム一丸となって全員で課題解決に当たる

みたいなことがきっちりできる人が良いのではないかと思います。
「カイゼン」とか「生産管理」みたいなキーワードがしっくりきます。

一方で、(1)の破壊的イノベーションに求められるリーダーの資質としては、
・失敗を恐れずどんどんやってみる。失敗から学ぶ
・チーム全体の合意よりも、個人の突破力を重視する
・多少コストアップしても、とにかくスピードを重視する

あたりが重要視されるように思います。
(3)とは全然違いますね。

実際、効率化イノベーションを期待される部門で結果をだしていた方が新規事業の担当になった途端、まったくその方の能力が発揮できなくなるケースって結構多いのではないでしょうか?

これは非常にわかりやすい例ですが、他にも、
・人事評価の仕組み。結果で評価するのかプロセスで評価するのか。評価に値するプロセスは?
・決裁ルール。現場にどれくらいの金額を預けられるか。
・勤務地。情報量がある方が良いのか、無くても大丈夫なのか。日本で良いのか、シリコンバレーや深圳に行くのか。
・社外と連携する際のハードルの高さ。
・ブランディング。既存ブランドを毀損するリスクをどうするのか。

等々、3つのイノベーションそれぞれを効率的に起こすためには、あらゆる要素を変えていかないといけません。

例えば、新規事業の立ち上げがうまくいっている会社さんの中には、その都度子会社を作ることでこうした変化を上手く起こしているところがあるようです。組織そのものを別にしてしまうことで、ルールや文化を一気に変えてしまうことができるからだと思います。

まとめ。

(1) イノベーションには大きく分けて3つの種類があります。

(2) 会社から「イノベーションを起こせ!」と言われたら、そのイノベーションはその3つのうちのどれかをきちんと見極めましょう。

(3) 人材、組織、ルール、環境、意志決定プロセス、等々、本当にそのイノベーションを生み出すのにふさわしいのかどうか、定期的にチェックしましょう。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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