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#002 シリコンバレーに学ぶ、中小企業の優位性

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(本記事は2019年3月に書かれたものになります)

今年も SXSW https://www.sxsw.com/ が始まりました。どんな新しい技術・サービス・製品が出てくるのか楽しみです。

SXSW が開催されているのは、米国中部、テキサス州のオースティンですが、ここ最近、社会を変えるような新しいモノって、北米、特にシリコンバレーから発信されることが多いように思います。
シリコンバレーから新しいモノが生まれやすい理由はたくさんあると思うのですが、今回は、その中でも特に意志決定プロセスに注目してみます。
そして、そこには、日本の中小企業が大企業に勝てるポイントがあるように思います。

シリコンバレーの意志決定システム

シリコンバレーで新規事業が起きる社会システムのことを「エコシステム」などと呼ぶことがあります。
「エコシステム」とは、日本語にすると「生態系」のことですが、ここでは、人・物・金、そして情報が、シリコンバレーという土地の中でどのように流通しているかを表現しているのだと思います。
生態系の中では、環境に適応できない者は淘汰され、死亡し、そして一方ではまた別の新しい者が生まれ、過去の屍を肥料にして成長していきます。こうした循環が、健全に、かつ早いサイクルで起きているのがシリコンバレーという場所だと思います。

その生態系の中で重要な役割を果たしているのが、新しく生まれた芽に光と水と養分を与える「投資家」という方々です。
投資家には、「ベンチャーキャピタル」のように組織として投資を行うところもあれば、「エンジェル投資家」のように個人が中心となって行う方々もいらっしゃいます。最近では、「オンラインプラットフォーム」のように、クラウドファンディングの形でお金を集めることもできるようになってきました。
多様な手段でお金を集めることができる仕組みがあるというのは、新しい事業を立ち上げる上では無くてはならない要素だと思います。

ところで、シリコンバレーで暮らしたこと・事業を起こしたことのある方々のお話を伺っていると、「チャンスは何度もある」「誰かに断られたら、また別の誰かに話しに行けば良い」といった事を聞くことが多いです。

図にすると以下のような感じでしょうか。
エコシステムには複数の(ここでは4名の)投資家がいて、そのどこか一つでもひっかかれば、事業は前に進むことができます。

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ここで、それぞれの投資家(i)が、この案件に出資する確率をp(i)としましょう(例えば、投資家1が出資する確率をp1とします)。

この時、「この企画が次に進むことのできる確率」は、「全ての投資家がNoという確率」を1から引いた数字になりますので、例えば、それぞれの投資家が企画に出資する確率を40%とすると、企画が次に進む確率は

87.04%

になります。
これはかなり高い数値ですね。さすがシリコンバレー。

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日本企業の意志決定システム

一方で、典型的な日本企業の意志決定を同じように図示してみます。

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はい。もう次の展開が読めた方もいらっしゃるように思いますが…(笑)

こういう意志決定プロセスでは、担当者が各レイヤの責任者それぞれから個別に許可を取りつける必要があります。どこか一つでもダメだったらそこでストップ。
ダメ出しをくらう度に資料を修正し、何度も説明を行い、数ヶ月かかってやっと理解してもらえた、等ということを、何度も繰り返さないといけません。

こうした意志決定プロセスの場合、各レイヤの通過確率をシリコンバレーの時と同じ 40% に設定すると、企画が実現する確率は、なんと

2.56%

になってしまいます。
これはもう、ほぼ不可能な数値と言っても良いのではないでしょうか。

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中小企業が大企業に勝てる理由

これらからわかるのは、シリコンバレーのような環境においては、参加者が増えれば増えるほど事業が成功する可能性は高くなると言うこと。一方、日本企業のような環境においては、人が増えれば増えるほど事業がうまくいかなくなる可能性が高くなる、という事です。

ここに、中小企業の優位性があると思います。

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こういうシンプルな意志決定プロセスでは、社長さんがやると決めたら、即実行に移せる。
これは、新しいことにチャレンジする際の意志決定プロセスとしては、とても強いと思います。

ただ、残念ながら、日本の中小企業の場合、シリコンバレーのように事業を外部から育ててくれる投資家やアドバイザーを見つけることは簡単ではありません。
そうした外部からの支援を、補助金申請やコンサル業務を通じてサポートできるのが、中小企業診断士というポジションなのではないかと思っています。

まとめ。

(1) 何か新しい事業や製品に取り組もうとする場合、そのアイデアを市場に出して、市場からのフィードバックを受けながら進めていくのが正攻法のやり方です。内部で議論を繰り返しているだけでは何も起きませんし、タイミングを逃してしまいます。加えて、主に金銭面からそのアイデアをサポートしてくれる人がいるかどうかも重要です。
(2) シリコンバレーには多くの投資家がいて、ある投資家に断られてもまた別の投資家に話をする、というように、選択肢が豊富にあります。そのため、新しい事業を立ち上げやすい土壌になっています。
(3) シンプルな意志決定プロセスを持っている中小企業は、その意志決定の速さを活かすことで大企業とも十分戦うことができると思います。中小企業診断士などのアドバイスを受けながら、補助金なども活用し、新しい事にどんどんチャレンジしていくことで、その優位性を活用できるのではないかと思います。


こうやってまとめてみると、世間一般的によく言われていることしか書いていないような気もしますが、確率を数値で表現することで、より実感をもって感じて頂けると良いなぁと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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