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#047 「自転車置き場の議論」とは

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今回は、会議の際に陥りがちな「自転車置き場の議論」というお話を紹介したいと思います。

あまり聞いたことのない言葉かもしれませんが、内容を聞けば「あ、それ、うちの会社でもある!」と思っていただけるのではないかと思います。

「自転車置き場の議論」とは

この「自転車置き場の議論」は、1958年に「シリル・ノースコート・パーキンソン」というイギリスの政治学者が発表した「パーキンソンの法則」という本に書かれている理論で、

「原子力発電所の建設の会議において、なぜかその発電所に付随する自転車置き場の屋根をどうするかの話で盛り上がってしまう」

という事象について述べられています。

例によって、Wikipedia

パーキンソンの凡俗法則 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%87%A1%E4%BF%97%E6%B3%95%E5%89%87

にわかりやすくまとめられているので、引用してみましょう。
(ちなみに、「凡俗」は「ぼんぞく」と読みます。「ありふれていて、とりえのないこと」という意味だそうです。)

原子炉の建設計画は、あまりにも巨大な費用が必要で、あまりにも複雑であるため一般人には理解できない。このため一般人は、話し合っている人々は理解しているのだろうと思いこみ口を挟まない。強固な意見を持っている人が、情報が不十分だと思われないように一般人を押さえ込むことすらある。このため審議は「粛々と」進むことになる。
この一方で、自転車置き場について話し合うときは、屋根の素材をアルミ製にするかアスベスト製にするかトタン製にするかなどの些細な話題の議論が中心となり、そもそも自転車置き場を作ること自体が良いアイデアなのかといった本質的な議論は起こらない。次に委員会の議題がコーヒーの購入といったより身近なものになった場合は、その議論はさらに白熱し、時間を最も無駄に消費する。
自転車置き場については誰もが理解している(もしくは理解していると考えている)ため、自転車置き場の設置については終わりのない議論が生じることになる。関係者の誰もが自分のアイデアを加えることによって自分の存在を誇示したがるのである。

要するに、
「本来議論すべき話題は、その内容が難しくて参加者が理解できないためスルーされてしまいがちである。一方、どうでもいい話題に関しては自分たちにも理解できるレベルだったりするので、割と議論が白熱しがち。」
という状況のこと。
これ、われわれの会社での会議でも見られる「あるある」な話のように思います。

会議に参加する人は皆、ある程度のプライドを持っており、「変なことを言って恥ずかしい思いをしたくない」という気持ちがあると思います。そのため、自分の理解を超えた議題に関しては、どうしても「わかったふり」をしてしまい、発言が少なくなってしまいます。結果、重要な議題にもかかわらずその場の雰囲気でなんとなく承認されてしまう。
一方、自分にも参加できる難易度の議題であれば、自分も何かしら発言をすることで仕事した気分になることができます。

こういう会議では、話が枝葉末節に発散してしまい、なかなか実のある議論をすることができません。

ちなみに、最近だと、こうした「参加者のレベルにぎりぎりマッチした議論が最も白熱する」という現象はSNSの世界でも起きていて、例えば、twitter で定期的に「かけ算の順序問題」がバズるのも、ちょうど参加者がぎりぎり議論に参加できる難易度だからなのではないかと思っています。

「自転車置き場の議論」にしないために - プロセスの改善

こうした議論にならないようにするために、すぐに効果を出せるのはプロセス面からの改善です。
会議を行う際、以下のような事前の準備を行っておくだけでかなりの効果が期待できます。

[1] 会議の目的をはっきりさせ、議論に必要な人だけを呼ぶ
→ 今回の会議は何を決める会議なのか、そもそも、「報告」なのか「スケジューリング」なのか「アイデア出し」なのか「課題の洗い出し」なのか「洗い出された課題の解決」なのか、をはっきりしておき、その目的に必要な人だけを呼ぶようにすることが重要です。場合によっては、単なるレポートの送付だけで十分で、会議すら必要ないかもしれません。

[2] 事前に必要な情報を共有しておく
→ 議論に必要なデータなどを事前に共有しておくことで、議論が発散しにくくなります。

[3] 話題が大きすぎる場合には、予め分割しておく

→ 議論したい話題が大きすぎると、誰も意見を出せなくなってしまいます。予め議論すべき内容を、より下位レベルの課題や、最初に取り組むべきステップに分けるなどして、議論する対象を参加者に理解できるレベルまで小さくしておくことが重要です。

「自転車置き場の議論」にしないために - 組織の改善

プロセスの改善が済んだら、次に取り組みたいのは組織面からの改善です。

基本的に、実のある議論が進まない組織においては、
「権限・責任・情報の一致」
という組織の前提が守られていないことが多いです。
これら三要素が一致しているかどうかをチェックし、ズレがある場合には組織を変えていく必要があります。

「自転車置き場の議論」にしないために - 人の改善

最も時間がかかり、かつ難しいのが、人そのものを変える取り組みです。
特に、現場上がりのマネージャさんだと、自分の専門分野には詳しいけれどそれ以外のことを知らないという事がどうしても起こりがちです。

立場が変わったら、その分視野も広げないといけません。
自分の知識が足りないことを意識し、学びの機会を増やすとともに、わからないことはわかる人に任せるという権限委譲の姿勢も重要だと思います。
場合によっては、コンサルタントのような外部の目でその旨を指摘してあげることも必要ではないかと思います。

まとめ。

(1) 「自転車置き場の議論」とは、本来議論すべき本質的な議題(原子炉の建設計画)に関しては議論がスルーされてしまうのに、原子力発電所に付随する自転車置き場の設置などの、本質では無い瑣末なことに関して議論が白熱する状況のことをいいます。

(2) この「自転車置き場の議論」は「パーキンソンの凡俗(ぼんぞく)法則」と呼ばれており、日常の色々なところにみられます。皆さんの職場における会議でも日常的に起きているのではないでしょうか。

(3) 「自転車置き場の議論」を避けるには、プロセス、組織、人、をそれぞれ改善していく必要があります。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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