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#049 プロマネのお仕事(序章1) - なぜプロジェクトは QCD で管理できないのか

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今回からしばらくの間、「プロジェクトマネジメント」について書いていきたいと思います。全部で13回くらいのシリーズになる予定です。

(実は、自分自身の学び直しという意味も大きいのですが)

なにかしら日々の業務の見直し、例えば「工場の生産効率の向上」みたいな検討を行う場合、「まず QCD それぞれを数値化・見える化しましょう」みたいな話になることが多いと思います。

しかし、こうした QCD による管理が役に立たないケースがあります。
「プロジェクト」と呼ばれる業務を管理したい場合です。

そもそも「プロジェクト」とは何か

この話を進めるにあたって、まず、「プロジェクト」という言葉を定義しておこうと思います。

プロジェクト - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88

から、説明を抜粋すると、

PMIが制定しているPMBOK(第5版)の定義では、「プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務」とされている。つまり、会社などの通常業務や、継続的な運用管理、あるいは改善活動などは、特に開始と終了が定義されていないので、「プロジェクト」とは呼ばない。

とのこと。
ひとことで言うと「ある決められた日までに、なにか新しいものや仕組みを作る一連の仕事のこと」
「有期性」と「独自性」をもった業務である、といった言い方をすることもあります。

「プロジェクトマネジメント」とは

で、このプロジェクトをうまくやるためのマネジメント手法が、「プロジェクトマネジメント」です。

プロジェクトマネジメント - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88

プロジェクトマネジメントという概念が確立したのは、冷戦期の米国防省とのこと。軍事プロジェクトを上手く進めるために、そのプロセスを体系化したのが始まりだそうです。

プロジェクトが上手くいく、とは?

プロジェクトマネジメントの考え方においては、あるプロジェクトがうまくいったかどうかは、以下の5つの観点で評価されるそうです。

1. 期限内に終わったかどうか
来年4月発売の新製品開発プロジェクトであれば4月の生産に間に合うように開発を終わらせないといけません。

2. 予算金額内で着地することができたか
たとえ予定の日までに開発が終了したとしても、開発費が計画の2倍かかってしまったら損益が赤になってしまうかもしれません。

3. 期待レベルの技術成果が得られたか
開発した新製品が予定していた機能や品質を満たしていなければ、発売しても売れなかったりクレームが来たりしそうです。

4. 割り当て資源を有効活用することができたか
資源(人・モノ・カネ・情報)には限りがあります。見積が甘いと途中で人が足りなくなったり、過度に遊んでいる人が出てきてしまったりします。

5. 顧客が満足する状態で完了することができたか
これが一番重要でしょうか。自分たちが上手くやったと思っていても顧客が満足していなければ仕方ありません。
顧客のことを、ちょっと範囲を広げてステークホルダーなどと呼んだりもします。

なんか、当たり前のことしか書いていないような印象を受けますが、実際のプロジェクトにおいては、
・みんな一生懸命残業して頑張ったんだけど、製品のリリースが半年遅れた
みたいな、まあそれなりに良くありそうな例から、
・3年間頑張ったあげく、結局開発中止になった
みたいな、なかなか心が痛くなる例もあったりします。

「プロジェクトマネジメント」が必要になるケース

前述の通り、「プロジェクト」は「期限が切られていて(有期性)」「初めて経験する(独自性)」業務のことを言います。そして、プロジェクトマネジメントとは、このプロジェクトをうまく進めるために必要なマネジメントです。
逆に言うと、プロジェクトではない業務、例えば日常のルーチンワークには必ずしも必要ない、ということになります。

具体的な例で考えると、例えば、
・これまでとは違う新しい製品を開発したい
・これまでは国内市場のみだったが、海外にも販路を広げたい
・受託開発や1回限りの開発 (新工場のラインの立ち上げ、特定の銀行向けの金融システム開発、新規ビジネスの立ち上げ、など)

といったような、これまでに無いチャレンジをする際には役に立ちそうです。

一方、
・工程のカイゼン
・ルーチンワーク
・ルート営業での受注活動

等の業務については、従来通りの QCD 管理で十分なこともあります。

「プロジェクト」の難しさ

ここまでの話を簡単にまとめると、プロジェクトマネジメントは、
・何か「新しい」ことを始めるときに必要。新規事業、新しい販路の開拓、新製品開発、など。
・一方で、いったんうまくいった業務を繰り返す場合には不要。
ということになります。

プロジェクトは独自性のある毎回内容が異なる業務です。そのため、比較する対象がありません。
QCD は繰り返しの中で機能する考え方なので、例えば、同じ工場のラインで同じ製品を作る場合には使えますが、「新しい工場を建てる」ような場合には、その独自性のためどうしても QCD だけでは管理できません。
繰り返し業務の場合は「前の事例との比較」が管理の中心になりますが、新しい業務の場合は「見えていない事例のリスク」が管理の中心になります。

なぜ「プロジェクトマネジメント」があまり知られていないのか

このプロジェクトマネジメント、システム開発を本業とする会社ではよく知られていますが、その他の製造業においては意外と取り組みが遅れている印象を受けます。

理由としては、大きく以下の2つのケースが考えられます。

[1] 実は毎回プロジェクトが失敗しているのに、プロジェクトマネジメントが導入されないケース
・マネジメントの必要性に気がついたときにはすでに手遅れになっている
・失敗の振り返りがきちんとなされていないため、外部環境や人の問題にされてしまい、プロセスの問題にならない

[2] なんだか毎回うまくいっているために、プロジェクトマネジメントの必要性に気がついていないケース
・やたら仕事ができる社長さんやマネージャの方がいらっしゃって、無意識のうちにプロジェクトマネジメント的なことをやっている

前者の場合、その組織は何度も同じ失敗を繰り返すことになるでしょうし、
後者の場合は、今は良くても、将来優秀な社長さんの仕事を誰かに引き継ぐことになった場合に行き詰まってしまうでしょう。

まとめ。

(1) 「プロジェクト」とは、「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務」のことを言います。通常業務や改善活動はプロジェクトには含まれません。

(2) ある組織が何か新しいことを始めようとする場合、その取り組みは「プロジェクト」になることが多いです。新しい事業を立ち上げる、新しい販路を獲得する、新しい商品を開発する、といった「新しい」取り組みは、プロジェクトになることが多いです。

(3) プロジェクトを成功させるためには、繰り返しの業務を上手く進めることのできるマネジメントとは違うマネジメント手法が必要です。こうしたマネジメントのことを「プロジェクトマネジメント」と呼びますが、体系立ててプロジェクトマネジメントを学んだ・経験したことのあるマネージャはまだそんなに多くないようです。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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